09 家族の対面もしくは再会
結局、あの後俺は気絶し、X0チームは準決勝で敗退した。前評判から考えるとこれは大健闘なのだが。
その後、保健室で目覚めた俺は、学園長室へと呼び出された。
「失礼します」
部屋の扉を開けると、中にいたのはソファに座った学園長。その対面に皐月と葉月。その間には一人の中年の男性がいた。それを見た俺の表情は――自分では確認できないので恐らくだが――曇った。
「おお、よく来たね。こちらへ来なさい」
学園長が部屋に充満する重い空気など存在しないかのように明るい声で俺を手招きする。
ソファのすぐ側まで来ると、自分の隣に座るように指示した。
言われた通りソファへと座ると、学園長がやけに親しげに話しかけてきた。
「いやぁ今日はご苦労だったねXクラスはこういう集団戦闘行事では勝利とは縁がなかったから今日は君たちが勝ってくれたのを見たとき私は胸が透くような気持ちだったよ」
しかも一気呵成に言葉を紡ぐので聞き取るのに苦労しながら言葉を返す。
「お褒めいただきありがとうございます。学園長よりの感謝の言葉はクラスメイトにお伝えします」
「うむそうしてくれ給え何せ私は学園長という身分だからね一生徒や一クラスに肩入れするわけにはいかんのだよ」
と、そこまで話したところで葉月が辛抱ならないといった風で大声で話に割り込んできた。
「学園長!ご歓談も結構ですが、それは来客の前でやらねばならないことでしょうか」
「おっとそうだったねすまないね葉月くん私は学園長だから生徒と触れ合える機会は少ないのだよ」
と葉月に言ってから再び俺の方を向く。
「それでだね黒刃くん君をここへ呼んだのは君に逢いたい人がいるからなのだよ」
まあ、この室内を見渡せばそれは分かったことなので対して驚かない。
「逢いたい人の説明は君には不要だろうね私たちの対面に座る彼――君のお父さんだ」
と言い終えたら学園長は自分の仕事は終わったとばかりに口を噤んだ。
それと交代するように、今まで黙って座っていた紋付き袴に身を包んだ男が口を開いた。
「久しぶりだな。如月」
相変わらず重苦しい声で話すんだな。この人は。
「俺としては二度と逢いたくは無かったですよ。神鳴家現当主、神鳴睦月――いや、ここは父上と呼んだ方がいいでしょうか?」
「貴様、当主殿に向かってその口の効き方は――」
「黙っていろ葉月」
「親子の間の礼儀なんて最小限で良いんだよ。それともお前は違うのか?」
話に割り込もうとした葉月だったが、二人――特に睦月――に咎められて口を閉じた。
「そやつは家族ではない。行方知れずとなった貴様の穴を埋めるだけの代用品に過ぎぬ」
「そんな人だから大事な息子に逃げられるのでしょう?少しは反省なさってください」
「貴様は昔からそうだな。自分の意思を誰であろうとまっすぐ伝える。昔神皇のご息女相手にムーンサルトボディプレスを仕掛けたときは肝が冷えたぞ」
その話を聞いて、同室している三人の表情が驚愕などでは表しきれない表情へと変わる。
神皇とはこの国で一番偉い人だ。そのご息女に攻撃したら即刻打ち首になるのだが、その子が許すと言ってくれたので無事済んだいうのは今でこそいい思い出である。
でもこの人の口から片仮名が出てくるとすごい違和感が……。
「昔話はここまででいいでしょう。それで父上、あなたはこの私に一体何の用ですか?まさか顔を見に来ただけとは言わないでしょう?」
「単刀直入に言う。戻って来い」
「断る。また監禁されるのは御免だ」
俺と父上との間で火花が散る。
「今のお前なら十分精霊使いとして通用する。監禁するようなことはせぬよ」
そういう問題ではないんですよ。
「言い方を間違えました。息子が精霊使いでないというだけで恥を感じ、それを隠すような家には帰りたくないです」
「その件については謝罪しよう」
「それは俺が精霊使いであるからでしょう?もし俺が精霊憑きの素質がなかったら今でも牢屋に幽閉していたはずです。違いますか?」
「私は神鳴家の当主である。その威厳を損ねるものは即刻排除すべし。それが当時そなたに対する神鳴家の決定だった」
「……はっきり言いましょう。俺はあんたの、自分の意思より家の決定を優先するところが嫌いです」
「そうか……帰って来る気は、ないのだな?」
「あなたがあの家を捨てないのなら」
そう言って立ち上がり、学園長室を後にする。
「最後に一つだけ」
部屋を出る間際、思い出したことがあったのでそれを尋ねることにした。
「なんだ」
「そこの葉月、皐月と?」
「違う。このような未熟者ではな」
それを聞いて少し安心する。
「そうですか。ああ、切断した三日月は修復してお返しします。それでは、また」
それを最後に、今度こそ俺は部屋を後にした。




