08 隠された事実
「バカな!『三日月』が……神鳴家の家宝が……!」
半ばから断ち切られた剣を持って呆然とする葉月。
「切れちゃったねぇ。残念な事に」
「なんでだ……雷を付与して切れ味を増したこの剣を何故真っ向から斬れる!」
「ノワールは先程、俺の刀――『神断』に自身の力を分け与えた。ノワールは絶精霊。即ち、断ち切る事を司る精霊。その祝福を受けた刀に斬れないものはない」
「そんな……」
葉月は剣を取り落として膝を付く。
「これで終わり?所詮代用品にはこれが限度か……」
黒刃は剣を納めながら葉月を見下ろす。
「全く……何を考えてこんなのを長男にしたんだか……これなら皐月が居れば事が足りただろうに」
「何だと……!」
黒刃の物言いに葉月は激昂する。
「そうだろう?神鳴家の当主は代々光属性を使役する。裏を返せば光属性の精霊を使役できない者は当主になれない。精霊使いとしては対したものだが……それができない以上貴様は当主になれず、当主には皐月が……」
そこまで口に出した黒刃は口を噤み、手を顎に添えて何事かを考える。
「まさか……いや、でも……可能性は……それに……ならやりかねない」
なにやらブツブツ呟いた黒刃は顔を上げて再び神断を抜く。
「葉月。お前はここで殺しておこう」
「何っ!?」
「いや、殺さなくても……少なくともアレを潰せばいいし……でもアレを潰すと多分死ぬし……」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ!」
雷鳥が雷を落とすが、それはノワールに防がれる。
「考えるのは良いけど、考えるのに没頭して攻撃に気づかないのはどうかと思うわよ?」
「悪い。取り敢えずは潰しておくという結論に達した」
「嫌な結論に達したわね……まあいいけど。あの鳥は私が押さえておくわ」
「頼む」
黒刃は葉月に一歩づつ近づいていく。葉月はそれを迎撃しようと雷鳥に指示を出すが、雷鳥はノワールに阻まれて近づけない。
黒刃は神断を振り上げ、それを葉月目がけて振り下ろそうとした時、一筋の閃光が黒刃を貫かんと迫る。
「なっ!皐月か!?」
「ご名答です。黒刃」
「皐月!なにしに来た!」
「殺されようとしている義兄を助けに。それと、過保護なお兄様へお説教をしに」
「お説教!?」
その言葉を発したのは葉月ではなく、黒刃。しかも頭を抱えて震えながら。
「俺が一体何をした!」
「そこに居る葉月を殺そうとしてましたよね?」
「それはお前のために……!」
「お兄様如きが私の心配ですか?滑稽ですね」
「如き!?滑稽!?この妹は……!昔から変わらずに毒舌ロリだな!」
「ロリは余計です!」
「さ、皐月……一体どういう事だ?」
葉月は何が何だか分からないといった顔をしている。無理もないが。
「どうもこうも……彼が貴方が神鳴家に養子にされる事になった原因――本来の神鳴家の長男、神鳴如月ですよ」
「ちなみに、そこの皐月とは双子の兄だ」
思わぬ事実に会場が騒めく。
「ていうか皐月。これ言っても良かったの?あのクソ父上に怒られない?」
「言葉遣いが悪いですよお兄様。どうせ次期当主は私なのですから、それ以外の子供など必要ないのですよ」
(皐月は神鳴家の裏事情は知らないみたいだな。ま、俺が父上でも教えないが)
「やっぱ、葉月の……はここで潰しておこう」
「いえ、それをされると困るのですが」
「なんで?必要ないって言ったじゃん」
(まさか……そうだったら本気で殺る!)
実はこの兄、案外過保護である。
「私、お兄様に人殺しになって欲しくないですから」
皐月の言葉に黒刃は内心とても感動した。
(ああ、生きてて良かった……)
「さて、話は変わりますけど……この試合はもう終わらせたいと思います」
手の平に光球を浮かべる皐月。それを見た黒刃の表情が青ざめる。
「あの……皐月さん?あなたそれを一体どうする気ですか?」
「どうって……こうするんですよ。ルクス」
皐月の呼び声で彼女の肩に一羽の白い鳥が止まる。
それを見た黒刃の顔色は更に悪くなる。
「皐月、そんな事されると俺の命の危機が……」
「大丈夫です。結界がありますから」
「ねえ知ってる?あれって、Aランク以上の精霊術は完全に緩和できないんだよ?」
「知ってます。だからこそお仕置きの意味があるのですから」
皐月の手の中の光球が大きくなっていく。
「ノ、ノワール!」
「無理。頑張って」
「そんな!?」
皐月が放とうとしている精霊術の威力を察したノワールは姿を消した。シュバルチェも折れた三日月の刀身と神断を口に入れてから姿を消していた。
「逃げられた」
「それでは行きますよお兄様」
「あ、ちょ、待っ……こ、降さ――」
「断罪の光撃」
「あーっ!」
放たれた光球は一条の光になり、黒刃を飲み込んだ……。
断罪の光撃:Aランク光属性精霊術
純粋な霊力による攻撃
光属性精霊術の中では1、2を争う威力を持つ




