王太子「王位継承権?メル◯リに出品して売れたけど?」
王太子殿下が、私との婚約を破棄するという。
理由は「君を王妃にできないから」――なお、私は王妃になりたいわけではない。
「王位継承権を売った?殿下、それでは国が滅ぶのでは?」
「まだ滅んでいないと思っていたのか?カフェベ」
「私の名前はカフェヴェローチェです。ヴェをベと間違えるのだけはやめてください。出るとこ出られたらどうするんですか」
つい早口で発音の訂正を求めると、王太子殿下はヴェ、ヴェ、と何度か練習してから、慎重に口を開いた。
「本当にすまない。カフェヴェローチェ。ちなみに、選んだ王族一人の首を落とす♡お好きに処刑権♡もメル◯リに出品している。君が必要なら、コメントなしで即購入して、私を指名してくれても構わない」
「殿下!それは――」
「――と思ったがダメだ。事務局に商品を消されている。流血沙汰はちょっと。ということで、待ったがかかってしまったか」
王太子殿下によると、事務局が禁止出品物に該当すると合理的な理由に基づき判断した場合は、取引キャンセル・商品削除・利用制限などの措置を取る場合があります。ということらしい。
・犯罪や違法行為に使用される可能性が高いもの
・危険物や安全性に問題があるもの
・サービス・権利など実体のないもの
♡お好きに処刑権♡は、見事にスリーアウト。禁止三冠達成だった。
「仕方がありません。メル◯リの今後の信用にも関わってきますから」
「確認できなかったが、♡お好きに処刑権♡に、いいね!はついたと思うか?」
「つけた人の性格がいいね!だと思いますけど」
私はそう答えてから、「そうだ、これも聞いてみなくては」と、疑問に感じていた点を口にした。
「そもそも、王位継承権の出品もダメなのでは?紙に『王位継承権⭐︎第1位⭐︎』とか書いて出したんですか?」
「ああ、そうしたらたくさん売れるのか。頑張って書くから、第1000位くらいまで出品できないかな」
「本当にやったら、たぶんアカウントがBANされますよ」
私の返答に、王太子殿下はため息をつくと、大きく首を左右に振った。
「そうか。儚い夢だったな。それでは、申し訳ないが購入者には事情を説明して、取引をキャンセルさせてもらおう。――改めて『王太子の座』という商品名で、私が毎日、実際に座っている椅子を出品するのはどうだろうか」
「それはカテゴリーが家具・インテリアの普通の出品では?」
私たちは話し合いの末、とりあえず王太子殿下ご愛用の椅子を一脚出品した後、どうせなら玉座の方が高く売れそうだ、と国王陛下の元に向かった。
「あ、玉座?ごめん、セ◯ストに売っちゃった。まだ何か使う用あった?」
国王陛下は、セカンドス◯リートの買取証明レシートを見せてくださった。
「傷があるからって、あんまり高く売れなかったんだよねえ。残念!一応5代前のご先祖様が、アレで暗殺者ぶん殴って倒した時の、歴史的な傷だったんだけどなー」
「その出来事、王国史の教科書に載っていましたね」
「ああ。私が学園のテストで、当時の王妃が痴話喧嘩をして、王を殴るのに使った際の傷と書いて、普通に×を食らったアレか」
王太子殿下が懐かしそうな顔をする。ありましたね、そんなことも。
私たちは、玉座が売れたかどうか気になったので、国王陛下を王宮に残して、セカンドス◯リートに行ってみることにした。
するとそこには王妃殿下と
「え!?このドレス、一箱で300イェーンですって?古いとはいえ、全部すごく高かったのに。王都の一等地に店を構えるマダムの、ブランド品よ?王家御用達なのよ?さすがに安すぎるのでは?――う、いや、持ち帰りは。せっかくここまで持ってきたから、置いていくわ。その値段で買取お願いします」
騎士団長も務める王弟殿下がいらっしゃった。
「大広間のシャンデリアが売れなくてなあ。困ってたら、どこで聞きつけたんだか、宰相家で欲しいってここまで貰いに来やがった。おう、容赦なくくれてやったわ。ったく、ジモ◯ィーかよ。つーか、あそこの屋敷にあんなシャンデリア下げたら、重くて天井ごと落っこちないか?まあ、こっちには関係ないか。しっかし、正直タダでも要らんだろ?無駄にジャラジャラして豪華なだけで、あのシャンデリア、暗いのなんのって。このご時世に蝋燭だぞ?蝋燭」
その後私たちは連れ立って王宮に帰り、作業の続きに没頭した。
「メル◯リの梱包が、梱包が終わらない!」
「殿下。これ、もうワンサイズ小さくできたら、送料が安くなるのでは?」
「なるほど。ではそうしよう。ああ、この箱にガムテープを貼るから、少しそこを押さえてくれないか」
「はい。――あっ」
私の指先に、王太子殿下の手が触れる。とても温かい手だった。何年も婚約していたけれど、エスコートの時はお互いに手袋をしていたから、素肌で触れ合うのはこれが初めてだ。
王太子殿下は、顔を赤くしていた。どうしよう。私の顔も、きっと真っ赤だ。
そうして二人で無言で照れているところに、なんと王女殿下が飛び込んできた。続いて国王陛下と王妃殿下、王弟殿下も。
「お兄様!今メル◯リ、売上いくらになってる!?Ex◯elで借金完済に足りない額を算出したから、教えて!」
売上の合計金額を伝えると、陛下たちは飛び上がって喜んだ。どうやら、王宮内の売れる物をすべて売ったら、奇跡的に借金の返済額に到達したらしい。なんて素晴らしい!
私は抱き合う皆様を見て、力いっぱい拍手を送った。
「はーやれやれ。首の皮一枚繋がった!良かった良かったー!あ、これで借金は返せるけど、せっかくだし、この王笏も売っちゃう?王冠は隣国の王に取られてもう無いのに、こっちは要らんって言われた棒切れだけあってもねえ。短すぎて歩く時の支えにもなんないし、まだ傘の方がマシだよねー。雨降ったら差せるから」
隣国の王と手を組んだ宰相によって、この国の王家は、ほとんどの権利を奪い取られてしまった。
国名も変わって、王族は揃って断頭台に登るか、負わされた莫大な借金を返済するため、名誉も王藉も含め、すべてを断捨離するか迫られて――国王陛下は後者を選んだ。
そして一家総出で粛々と、売れる物なら片っ端から、もう何でも全部売ってみたら。驚くことに、塵も積もれば山となる。案外いいお金になったという。
歴史が長いだけの小国に大した物なんかないと、散々馬鹿にしていた隣国の王と宰相は、きっと悔しがることだろう。
にこにこしながら、はしゃぐ皆様を見守っていた私に、ふと振り返った王太子殿下――元王太子殿下が、寂しそうな顔でこう言った。
「私は、もう王太子ではない。メル◯リで愛用の椅子も売れたしな。だから、君を王妃にはできないんだ――すまない。どうか、他の誰かと幸せになってくれ。最後まで色々と手伝ってくれて、本当に感謝する」
「私は、別に王妃になりたいわけではないですから。どうかどこまでも、ご一緒させてください」
「しかし!君を返さなかったら、君の家族が何と言うか」
王妃教育を受けるため、学園を卒業して王宮に上がって以来、私は一度も実家に帰っていなかった。確かに、家族には会いたい。けれど。
「貴方について行くと手紙を書きますから、大丈夫です。両親も、私が頑固なのは知っています。諦めて送り出してくれますよ」
「カフェベ」
「カフェヴェローチェです。せっかく借金ゼロになったんですから訴訟は避けましょう。――ねえ。次に貴方がガムテープを貼るとき、私がいなかったら。誰が、端っこを押さえるんです?」
そう言って笑った私を、彼はぎゅうっと強く抱きしめた。
それから数ヶ月もしないうちに。
隣国の王は、何故か「欲しくなった」とセカンドス◯リートで玉座を買った。ところが、ご満悦で座った途端、傷のところから玉座が壊れて――ひっくり返って頭を打って、打ち所が悪かったのか、なんとそのまま死んでしまった。
そして宰相は、ある日突然、屋敷に設置したシャンデリアが天井ごと落ちてきて、一人だけ圧死した。
「王家の呪いだ!」
なんて言う人もいたけれど、元王太子殿下は呆れ顔でこう返していた。
「いや、そんなものがあったら滅びないだろう?国」
そして今。私と元王家の皆様方は、全員で何でも屋を開業して働いている。一番多い仕事は、なんと断捨離。うん、大得意だから任せてほしい。汚屋敷だって片付けて、ある物売って、まとまったお金を作ってみせます!
そんな私たちに舞い込んだ、今日の依頼は――
「なんだよ、宰相家じゃないか」
「ワンマンだった宰相が死んじゃったら、王家より没落早かったのよね」
元王弟殿下と元王女殿下が、到着した現場を見て半笑いを浮かべている。私は反応が気になって、チラッと隣の元王太子殿下に視線を向けた。すると彼も、ちょうど私のことを見ていて。
「――あっ」
合ってしまった目を逸らすことなく、私と彼はじっと見つめあった。私たち二人は、先日街の教会で結婚式を挙げたばかり。新婚ほやほや。本当は、一分一秒だって、視線を逸らしたくないくらいなのだ。
そんな、夫婦としてはまだまだひよっこな私と彼の横を、ベテラン夫婦である元王妃殿下と元国王陛下が、ニヤニヤと冷やかしながら通り過ぎていく。
「あーらあら!依頼主の元宰相夫人から差し入れでもらった冷たい飲み物、ここに置いていくわね。今日は暑いから、いただいてから作業開始よ」
「あー熱い熱い!本当に熱いよ。茹だっちゃう。若いっていいねえ」
優しい方々に気を遣われて、二人きりにしてもらった私たちは――どちらからともなく手を繋いだ。
この幸せに、王位継承権はいらない。
不要なものはメル◯リへ。
※作者はメル◯リの回し者ではありません。




