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短編置き場

おかんの創作怪談が、ガチの都市伝説になって返ってきた話

作者: ひなた真水
掲載日:2026/05/15

◆怪談・花山トンネル◆

 

「なあ、怖い話してあげよっか」

 

 メシ時、唐突におかんがそんな事を言い出した。

 

 今日の晩メシは大皿に盛った唐揚げ。それを2人でつつきながら、耳を傾けることにする。

 

「怖い話って?」

「創作怪談。花山トンネルって知ってるやろ?」

 

 花山トンネル。知ってるも何も、ヤバい場所で有名なトンネルやんか。

 東山と山科の間にある、東山トンネルのすぐ隣、歩行者と自転車専用のトンネル。

 

「知ってるよ。高校の時に肝試し行った事あるし。あそこ、やっぱなんか出るん?」

「行った事あるなら知ってるよな? あそこの暗さ」

「たしかに暗いよな? トンネル内に街灯3箇所しかないやん」

 

 明治とかに作られたらしくて、レンガで出来たトンネル内には、街灯が3つしかない。

 LEDに変わった昨今でも、まだかなり暗くて、肝試しの時は何もなかったけど、不気味な場所ではあった。

 

「バブル時代はもっと暗かったんよ」

「そうやろうな。蛍光灯やし、寿命も短かったんやろ?」

「そうそう。人がいっぱい通る場所でもないから、全滅してることもあったで」

「マジかよ。全滅はヤバいな。真っ暗ってことやろ?」

「使う人が少ないし、当時は対策するんが普通やったからな」

「懐中電灯とか?」

「せやな。あとは自転車のライトとかな」

 

 どっちにしろ、豆球レベルやし、あんま明るくはないな。

 まあ、山科行くなら、普通地下鉄使うから、徒歩であそこ通る人は、ほとんどない。

 

「そんなバブル時代の話でな、あたしの従兄弟が山科に住んでるやろ?」

「まさひろちゃん…やったっけ?」

「そうそう。山科のまさひろちゃん。覚えてるんや?」

「インパクト強い人やったしな。たかやすおじちゃんの葬式に会ったのは、覚えてるで」

 

 おおらかで豪傑っていうのかな? なんか怖いもん無さそうな人やった。

 最近、本物の日本刀手に入れたって自慢してた、個人で貿易の仕事してる人。

 

「その、まさひろちゃんが、友だち3人で自転車乗って『市内』に遊びに来てたんや」

「あー言うよな、山科の人って。山科も京都市内やのに、なぜか『市内行く』って」

 

 山科って、東山越えんと中心部に来れへんせいか、同じ市内の意識低いからな。

 市外扱いすると怒るくせに、自分らで『市内行く』って言う、変わった習性がある。

 

 まあ、バブル時代っていえば、毎日どっかで新しいビル建ってたらしいし、派手な中心街に遊びに来たくなるのは分かるけど。

 景気がいいと、街ってマジで、あっという間に変わるからな。

 

「あの時代はマジで、街に活気があって、ビルもそうやけど、道路もどんどんきれいになってた」

「へー。金が余ってたんや? 古き良き時代ってやつ?」

「そうやね。変化の少ないこの辺りでも、道とかガンガン舗装工事やってたぐらいやで」

 

 でも、スマホどころか、ガラケーも、ピッチもなくて、ようやくポケベルが登場した頃やし、不便ではあったやろうな。

 あちこちにまだ、黄緑色の公衆電話が、ボックスで建ってた時代や。

 

「そんな時期でもな、花山トンネルは通る人が少なくて、舗装工事が後回しやった」

「そうなん? 道路がボロボロやったとか?」

「うん。ほとんど砂利道でな、真ん中にはデカい水溜まりがあったぐらいなんやで」

 

 地下道とかトンネル内って、水気はたしかに多いよな。

 俺が肝試しした時も、ピチョン、ピチョン、水音してて、めっちゃ不気味やったし。

 

「国土交通省、直せよ。バブルやったなら、予算出せ」

「ほんまそれ。ま、その水溜まりのせいで、自転車も押さんとあかんかったんよ」

「えー。じゃあ、まさひろちゃんも、花山トンネル通った時は、自転車押して通ったんや?」

「そう。自分だけならいいけど、友だちもいっしょやったしな」

 

 1人だけで通るなら、水はね気にせずに、急いで通るのも出来るけど、友だちと一緒じゃ無理やもんな。

 

「レンガ造りの真っ暗なトンネル内を、自転車押すんか。ビビりならそれだけで泣くな」

「まさひろちゃんとその友だちやし、怖くなかったんやろ」

 

 なるほど。か弱い女子ならともかく、まさひろちゃんなら、なんとなく納得や。

 日本刀振れるぐらい腕も太いし、喧嘩っ早いわけやないけど、見た目も強そうやしな。

 

「市内で夕方まで遊んで、花山トンネル通って帰る。いつもの事やったらしい」

「しょっちゅう行き来してたんや?」

「たぶん、電車代が勿体なかったんやろな」

「そっか。そんで、なんか見たとか? 幽霊?」

「あはは。幽霊やないよ。あそこはそんなんおらんって」

「えー? でも、火葬場近いし、処刑場跡地もすぐそこやし、出てもおかしないやん」

「たしかに、なんか出ても変やない場所ではあるけどな」

 

 トンネル近辺には民家も少ないし、土地柄か、不吉な曰くも多いけど、幽霊なんかは出んかったと、おかんは笑いながら、続きを話してくれた。

 

 市内で遊んだ帰り道、まさひろちゃんと友だち2人が、自転車押しながら、トンネルの真ん中の水溜まりを通り過ぎた時、それは起こった。

 

 ガシャン、カラカラ、カラ―――…

 

 背後で自転車がコケた時みたいな、デカい金属音が聞こえたんやって。

 思わず振り返ったら、友だちの後頭部が見えた。

 他の誰かかと思って、怖いもの知らずなまさひろちゃんは、後ろに向かって声かけた。

 

 大丈夫ですかー?

 

 でも、誰からも返事がなかったらしい。

 

「当時の自転車のライトって、ダイナモやし、止まると消える仕様やった」

「え、夕方の街灯もないトンネルの中で?」

「そう。夜中より周りは、見えにくかったやろうな」

 

 タイヤが回るのやめたら、消えるダイナモライトと、切れて全滅の蛍光灯か。

 そんな暗い中で、音だけで返事のない相手? 俺なら速攻で逃げるな。

 

 でもまさひろちゃんは違ったみたいや。

 もしコケた誰かが、声もあげられん怪我ならヤバいなって、まさひろちゃんは考えた。

 

 でも、戻って様子見に行こうとした時、友だちの1人が気づいた。

 

 ―――なあ、今の音、乾いてたよな?

 

「……うわ。水音、混ざってなかったんや?」

「そうやねん。まるで、乾いた場所でコケたみたいな音やったって」

 

 さすがに怖くなって、自転車に飛び乗った3人は、逃げるように山科へ帰った。

 しばらくして、トンネル内も舗装されて、きれいにはなったらしい。

 

 相変わらず運が悪いと、トンネル内の蛍光灯は切れてて、真っ暗になるのは変わらん。

 でも前みたいに、自転車押す事はなくなったし、まさひろちゃんもそのことは忘れた。

 

「そんなある日、また3人で市内で遊ぶ事になった」

「もう怖くないよな? 道路は舗装されて、水溜まりもないし。…埋まってるだけで、まだその下にあるのはアレやけど」

「その日もやっぱり運悪くて、蛍光灯は全滅やった」

 

 1日中ついてるせいか、寿命が他の街灯より短いし、切れても放置されがちな場所や。

 おかんはそう説明する。

 

「あの頃は、電気ついてる期間より、切れてる期間の方が長いぐらいやったしな」

「そういう時代やったって事か」

 

 きれいに舗装されてるってだけで、めっちゃ便利やからって、3人で自転車乗ってトンネルを通過してる途中、それは起こった。

 

 ガシャン、バシャッ―――…

 

「今度は水音付きの音? もう水溜まりないのに?」

「まさひろちゃんが自転車止めて振り返ると、友だちの1人が派手に転んでた」

「まさか……」

「友だちはまるで水溜まりの真ん中でコケたみたいに、泥だらけのぐしょぐしょやった」

「マジか。水溜まりはもうないのに、べっしょり濡れてたん?」

 

 まさひろちゃんも友だちも、前のことも思い出して、ビビりまくって、当然逃げ帰った。

 

「けどまあ、その後、呪われた、なんてオチはないけどな」

「えー。オチない方が、逆にリアルで怖いやん?」

「この話聞いた時、まさひろちゃんは言うてた。『あそこは歪みがある。だから迂闊に近寄らんように、噂を流してるんや』って」

「はー…怖っ。あそこ、そんなヤバい場所やったんや」

 

「………って、怪談を、あたしが高校生ぐらいの時に、創作した」

「はあ? 作り話かよ! ビビって損したわ、もー」

「最初に創作怪談って言うたやん。面白かった?」

「……まあ、出来は良かったで。おかんの意外な才能やな」

「やろうな、友だちにもめっちゃウケたし」

 

 話は終わったと思って、俺は最後の唐揚げを皿から取ったら、おかんがつぶやいた。

 

「……出来いいやろ?」

「うん。ツレに教えたなるぐらい、出来良かった」

 

 教えたなるって言うか、作り話やなくて、マジもんの怪談として語るのも、いいぐらいの出来やったからな。

 面白いネタ、さんきゅって感じやわ、おかん。

『花山トンネルには、歪みがある』か。さっそく俺もツレに語って、ビビらしたらんと。

 

「そうやねん。……出来、良すぎてな」

 

 ため息が聞こえたからチラッと見ると、ほっぺたに手を当ててるおかんの顔は、なんか少し憂鬱そうで、思わず聞く。

 

「なんかあったん? まさか事実になるとか、ないよな?」

「そんな話作ったんも忘れて、数年後。バブルが弾けて高校も卒業して、新しい友だちが出来た」

「ああまあ、おかんからしたら、適当に作っただけやし、忘れても不思議はないよな?」

「ある日、新しい友だちが言うてきてん」

「え、もしかして……」

「『なあ、花山トンネルって知ってる?』…って、それわたしが作った話や」

「創作やない怪談として、この話、出回って、おかんのとこ戻ってきたん? マジか?」

 

「真顔で『あそこマジでヤバいから、通る時、真ん中避けて通らんとあかんよ』やって」

「うわ、口裂け女のポマードみたいに、対策されてるやん。都市伝説や!」

「苦笑いしながら『へー、怖いなー』って言うたけど」

「作り話って言わんかったんや?」

 

「夢壊すのも無粋やろ? でも目の前の事実が1番怖かったわ」

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― 新着の感想 ―
暗いトンネルの質感が伝わってくるようなホラー作品でした。 作り話が都市伝説として広まり、しかも対策までできて…。 誰かが酷い目にあったというわけではないのに、ぞくりとした読後感が残りました。
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