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「えー! どうして教えてくれないのー!」
「さっきから言っているでしょう! 危ないからです!」
「いざとなったら、使える魔法で相手を倒すってば!」
「だから、そのあなたの魔法が危ないと言っているんです!」
先ほどから一向に引かないレミィに、ルビーは若干語気を強めながら応戦する。
レミィは異世界の扉まで行きたい、ルビーは危ない(色々な意味で)ので行かせたくないの押し問答が、かれこれ数十分は続いていた。
「もう! なんのために毎日練習していると思ってるのよ!」
「大した練習もしてない半人前が、口だけは達者ですね」
「むぅ、半人前って言うなー!」
レミィが叫んだ瞬間、壁に立て掛けていた杖、その先端にある魔法石が光りだした。この杖はルビーのもので、なにか近くで異変があると光って知らせてくれるもの。これはルビーが、レミィといることを選んだ際に、自身の杖へとかけた魔法。レミィの選択を暗示するためのものだ。
「ひかっ……てる」
「……はぁ、そうですね。仕方ない、いいでしょう。行ってきなさい」
「えっ!? ほんとに!?」
数十分の言い合いがなんだったのか、ルビーは光る杖を見ると、ため息を吐きつつレミィに言った。レミィは殴りかかってでも行ってやると意気込んでいたので、突然の了承に目を丸くした。
「ただし、あなたのお絵描き魔法は使わないこと。……使っても、一番得意な炎の魔法、それだけにしてください。その代わりに、私の杖を持っていきなさい。きっと、守ってくれます。そして……」
「そして?」
「いえ、なんでもありません」
「……?」
開きかけた口を再びルビーは閉じた。不思議に思ったレミィだが、こういう時はなにも聞かない方がいいと思いその不思議を頭から消し去った。
「いいですか、危なくなったらすぐ私を呼ぶこと。その杖があなたの居場所を教えてくれるので……」
「わかった!」
「それと、先程も言ったとおり……自身の魔法は禁止です。どうしてもという時は」
「炎の魔法だけでしょ! もう、わかったってば!」
早く出発したいレミィをよそに、ルビーはくどくどと同じ事を繰り返した。
あたりはすっかり夕暮れ。二人の住む森は家の周辺こそ、ぽっかりと穴があいたように開けているが、一歩踏み出せば木々が生い茂りまるで迷路のよう。
「そ、そうですね……くれぐれも、気をつけて。自分の直感を大切にしてください」
「……? うん! わかった。いってきまーす!」
レミィはやっと出発できるという気持ちを目一杯、その屈託のない笑顔に込めて、家を飛び出した。
体から溢れんばかりのウキウキオーラと、今にも愉快な音楽が流れ出しそうな雰囲気を背にしたレミィを見送り、ルビーは肩を撫で下ろした。
「行きました、か。まったくあの子は本当に大丈夫なのでしょうか……」
――コンコン。
ルビーが窓の方を見ると、使い魔であるリスのファルが小窓をつついていた。
「あぁ、ごめんね。今、行ったところだよ。森の様子はどうだい?」
『おれも、みてた。もうきている。じきにあう』
「うん、そうか」
使い魔は普段喋ることの出来ないものが多い。よほど人間と近しく育った使い魔か、魔力が尋常ではない威力を持つものか。この世界にもかつていたとされる三人の大魔法使いの使い魔か。
その三人の大魔法使いはその魔力が国の対立を呼ぶとされ、激しい戦いの末、消滅したと言い伝えられている。それも噂のようなもので、真実は闇の中なのだが。
ファルはとても利口な使い魔で、ある程度の人間の言葉は理解できるようだった。しかし、なにか発しているように見えてもそれはレミィには理解できず。会話ができるのはルビーだけだった。
『おれ、そろそろいく。またな。るびい』
「はい、ありがとう」
ルビーがお礼にと小さな木の実を手渡すと、ファルは少し満足げな顔をして、トトトッと森の中へと消えていった。
「しかし……愛弟子を外に出すとなると、こうも心配なものなんですね。……あの方も、そうだったのかな……。ふぅ。まあ、いいでしょう。あそこで、運命の人に出会うんですから」




