5-5
「……ってぇ」
リオが目を覚ますとそこは大きな魔法陣が床に描かれた場所だった。
こめかみに手刀を打ち込まれたため、その痛みは頭痛となってリオを襲う。
「なんだ、ここ……」
「お、意外と早く起きたな。リィコちゃん」
「っ! お前!」
「ははっ、騒ぐなよ。頭に響くぞ」
言われると同時にリオの頭に自身の声が響き、痛みが生じる。そんなリオの目の前には先ほどの少年。
少年はリオとさほど歳は離れていないように見えた。それなのだが、どこか達観しているような佇まいでそこに鎮座している。
「あんた、何が目的なんだ。そして俺はリィコじゃねぇ!」
「あ? 知ってるよ、リオくん? ま、自己紹介をしよう。オレの名前はキル。目的ね、それは秘密かな。まだね」
「まだって……」
キルと名乗る少年の言葉を聞きつつ、リオは辺りを見回した。
床には先程窓から見えたような禍々しいものとは違い、柔らかく光る魔法陣が描かれている。何やら力がみなぎってくる感覚をリオは覚えた。
「お、気になっちゃう? さすが、御目が高いなあ」
「お前、何をしようと……」
「お前じゃなくて、キ、ル。な? 気になっているその魔法陣、リオに力を貸してくれるぜ」
「力を……?」
訳が分からず、素っ頓狂な顔をするリオにキルは苦笑しつつ話を続ける。
「そ。リオ、あんた外から来たんだろ? 驚いたぜ、ちゃんと生きているんだもんな。そんな君にちょっとばかり興味を持っちゃってねぇ、オレ」
「なんで、俺が外から来たと思う……」
「ん? なぜって、オレが天才だからかなぁ」
「ふざけっ」
リオがキルに掴みかかろうとするのを、キルはひらりと交わし、リオの背後を取った。その動きには一切の無駄がなく、まるで舞っているかのような身のこなしだ。
「ほら、知識はおろか技量もない。そんなんで彼女、レミィを守れんのか?」
「くっ……」
拳を握り震えるリオは、なにかを思い出しているようで、それを押し込んでいるようにも見えた。
その様子を黙って見ていたキルだったが、ふっと息をつき口を開く。
「そんなに落ち込むなって。外から来たのに、もう見事にこの世界に適応してる。それだけで、結構すごいことだぞ?」
キルはリオを肯定する素振りを見せる。しかし、リオは先程から表情を変えることなく、ただ拳を握りしめる。
「……レミィは……俺に付き合ってここまで来てくれたんだ。それなのに、こんなザマで、俺はまた……」
そういうリオは、ここではないどこかの記憶を反芻しているような、ただそれを思い出すこともままならないような、複雑な胸中を抱いていた。
振り絞るリオの声を、横目でジッと見つめるキル。眼差しは真剣そのものだが、口元はどことなく緩んでいる。
「いいねぇ、その『誰かのために力を注ぐ』って感じの姿勢。オレ感動しちゃうよ」
「お前……ふざけて」
ケラケラと笑いながら紡ぐキルの言葉に対し、リオは殺気めいた視線を向けた。その直後、
「……っぐ⁉︎」
「お前じゃなくて、キルって言ってんだろ。もっとお利口になろうぜ?」
魔法陣の光が鈍色に強まり、上に乗るリオが突如として床に突っ伏する形となる。
その様子に、キルは冷めた視線を注ぐ。魔法陣はキルに応えるように、さらに光を強めた。
「な、落ち着いてまずは話そうぜ? 別にリオにとっても悪い話じゃない」
「……なん、だと」
「まず、この魔法陣は回復魔法を増幅させるもの。おかげで体が楽になってきてるだろ?」
すべては信用できないリオだが、それは確かにキルの言う通りだった。ここに来るまでに蓄積された疲れや痛みが緩和されていく。
「なんだこれ……」
「この城、というかこの国を建国した魔法使いは、まぁずいぶんお人好しみたいでね。城にいくつか魔法陣を張って、回復魔法や増力魔法を使えるようにしてるってわけ」
「……どうして俺をここに」
「ん? あぁ、ふふ。気になっちゃう?」
身体が回復するにつれ、落ち着きを取り戻してきたリオはキルに向き直る。キルはリオからの質問にニヤつきつつ、自身も魔法陣の上に座り込んだ。
「オレがキミをここに連れてきた理由。ひとつは回復させるため、もうひとつは力を目覚めさせるため」
「力を目覚めさせる……?」
キルの言葉にリオは疑問を示す。
その瞬間、建物自体の揺れが全体に響く。
――ドォォォン!
「なっ……!」
「激しくやってるねぇ、思い上がりの王様が」
「……なぁ、俺はこの国も、この世界すら何なのか知らない。ただ、ここに来てから世話になった人たちがいる。その人たちのためにも、俺はレミィの元へ行く」
「頼もしいね。泣けてきちゃうよ。……それじゃあ、キミには色々と目覚めてもらわなきゃね」
「さっきから何を」
「……ちょっと我慢しろよ?」




