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この世界はふたつに別れている。ひとつは魔法が盛んで、多くの旅人が目指すジャムアルータ大陸。大陸には国がいくつか点在しており、魔法が盛んといえどすべてがひとつに纏まっているわけではない。いくつかの国が独自の魔法文化を持っており、周辺は城壁で囲われているため、それぞれが王都だと主張していた。
故に、まだ未熟な魔法師たちが対立した『魔法戦線』と呼ばれる戦いが過去に起きているが、それはまた別の機会に。
そしてもうひとつこの世界にあるのが、科学に特化したタージャルア大陸の王都、ヴィッセルシュ。
ここでは動力研究が非常に長けていて、二輪で走行する機械や大きいものだと四輪の機械もあるそうだ。様々な発明家が誕生し、科学と魔法を組み合わせ新たな技術として迎え入れる機関もある。
しかし、ここもまた厄介なもので、最近できた思想家と呼ばれる職業の者たちが蠢き、平和かどうか聞かれると微妙なものだ。
レミィとルビーの家はそんなふたつのうち、魔法が盛んなジャムアルータ大陸にあった。その中でも一番大きな国土を誇る、ミューハ国の森の中。ミューハ城には近いが正門とは逆位置の城壁に面していて、国の人も『魔の森』と呼び滅多に近づかない。
一応、レミィはルビーを師として、ルビーはレミィを弟子として迎え入れている。しかし、ひとつ問題がある。魔法が盛んであり、風土に慣れれば誰もが簡単な魔法ならばすぐ使えるこの大陸で、著しくしく魔力が乏しい人物。……それがレミィだった。
何を仕出かすかわからない、そんな人々の不安を汲み取ったルビーは、何が起きても人が寄り付かないであろうこの森で、二人暮らしを決意した。おかげで木々が投げ倒されていようが驚く人もいない。
「で、何がおかしいの?」
家に戻り、ルビーが入れた紅茶をすすりながらレミィは問いかけた。室内には甘く、それでいて爽やかな香りが広がっている。
「時空……というのでしょうか。最近様子がおかしいので、色々調べてみると、妙に違う気を感じましてね」
「違う、気?」
「ええ。異世界……つまりここではない、ここではありえないモノの波動といいますか。簡単に言えば、こちらの世界とどこか別の世界が、簡単に行き来できてしまうような。異世界の扉が開かれた……とでも」
「異世界の扉!」
ルビーの言葉にレミィは瞳を輝かせた。ルビーはこうなることを予想していたかのように言葉を続ける。
「なのでしばらくは、超低級で木々をなぎ倒さない程度の魔法を、家の前で練習してください」
「どうして!? 行ってみたい!」
思った通りの反応をするレミィに、ルビーは深く深くため息をついた。そのため息にも気がついていないのか、レミィは輝かせた瞳をもう一段階輝かせながらルビーに詰め寄る。
「ルビー、せんせ! 前に言ってたよね? わたしの魔力がとても弱いのは、何かまだ見つけていない力があるのかもって。その、異世界ってところから来るモノって、わたしたちがまだ知らないってことだよね? もしかしたら、何かわかるかもしれない!」
「あなたの前向きさ加減は本当に尊敬しますよ……」
呆れ顔のルビーをよそに、いそいそと準備を始めるレミィ。一度興味を持ったら頑なに引かないレミィの性格を熟知しているルビーだが、今回ばかりはそうなることがルビーに好都合だった。
「ルビー先生、止めてももう無駄だからね! わたしは行くよ!」
「行くって、どこへですか?」
「……」
ニコニコとして詰め寄るルビーにレミィは何も言えず。
「……教えてください」
やっと絞り出した言葉がそれだった。




