4-8
「もう! 魔法が使えない!」
ドレス姿のレミィは部屋の中で暴れまわっていた。
サンティトルが去った後、なんとか脱出をしようとあらゆる魔法を試すレミィだったが、まず魔法が発動しない。
その間に、数人のハウスメイドが結婚式の支度にと訪れては出て行き、抵抗するレミィをいとも簡単にドレス姿へと変えてみせた。ドレスを着せたあと、ハウスメイドたちはまた鍵をかけて出て行った。レミィは隠していた杖を取り出し、脱出手段を手当たり次第試してみるも、残念な結果に終わっていた。
レミィの魔法はその杖の効力から『お絵描き魔法』と呼んでいた。筆に似た杖で、円陣に魔力を込めた絵を描く。すると円陣から魔法が飛び出してくるのだが、レミィの魔法はまだまだ不十分すぎるものだった。
そしてなにより、炎の魔法しかまだ使えたことがなかった。
「炎の魔法は出ないし。……でも出ちゃったらお部屋燃えちゃうかな」
ぐるぐると回る思考回路はもういっぱいいっぱいになっていた。
──コンコン。
「! は、はーい」
逃げ出そうとしていたレミィは一瞬躊躇いつつ、返事をする。
「姫さま、最後の仕上げに参りました」
「もう、姫じゃないのに……」
言われ慣れてきたレミィは、がくりと肩を落とす。
ガチャリと鍵が開けられ、控えめに開かれた扉から見えた顔は見知ったものだった。
「リオ⁉︎」
ハウスメイドの格好をしているリオに、レミィは目を丸くし声をあげた。
そうなるだろうと予想していたのか、リオは素早くレミィの口を塞ぐ。
「しずかにっ」
この状況に既視感を覚えながら、レミィは小さく頷いた。
他のハウスメイドたちも入ろうとするのを見て、リオは考えつく限りの高く可愛らしい声で静止した。
「ごめんなさい。王子様から直々に頼まれているの。わたしの作る可愛らしさを表現するために、二人の空間にしてちょうだい!」
「わぁ……」
聞いたこともないリオの声とテンションに若干怯えるレミィ。
そのなんとも言えない圧に、他のハウスメイドたちも恐怖を覚え、王子様が言うならと去っていった。
「……リオ」
「何も言うな……!」
顔を真っ赤にしたリオ。そして、
──ボムッ!
ケモノ耳が生えた。
「うわわわわ、リオの髪の毛が浮いてる!」
「違う、これはウィッグだ!」
そんなやりとりがなんだか久しぶりのようで、だんだんと二人は笑えてきた。くすくすと声を殺しながら笑い、リオはレミィの無事に安堵した。
「よかった、無事で。なにもされていないか?」
「うん、リオも。びっくりしたけど、来てくれてありがとう」
「俺一人の力じゃない、コロンが助けてくれたんだ」
「コロンさんが?」
手短に、ここに来るまであったことをレミィとリオはお互い伝えた。
「サンちゃんは話した感じだと、悪い人ではなさそうだったよ」
「その呼び方はどうなんだ……?」
「国王様とはあまり仲良しじゃないみたい」
リオに咎められるも全く気にしていないレミィ。リオはいつものことだと思いながら、バッタリ会ったサンティトルを思い出す。
「俺も、見た感じではそこまでなにか仕出かしそうな奴には見えなかったな」
「うん、リオの聞いた『禁術の魔法使い』がなにかしているのかなぁ?」
教会でハウスメイドが聞いた話は、レミィもなにか引っかかるようだった。考える二人だったが、とりあえずここから脱出しコロンと合流しようと意見はまとまった。
「何をしているのですか?」
「「!」」
二人で話すことに夢中になっていたレミィとリオは、扉が開けられたことに気づかなかった。
そこにはサンティトルの傍にいつもいる、ヒージが笑顔で立っていた。




