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リオとコロンは城内の教会までたどり着いた。
そこはピンと空気が張り詰めていて、息をするのも気を遣うくらいの静けさだった。申し訳程度の飾り付けをしているハウスメイド達を見て、リオは不思議に思う。
「もっと、結婚式って盛大にするんじゃないのか?」
「ウム。ワタシもそう思っていたガ……」
首を傾げる二人に気づき、準備をしていた一人のハウスメイドが近づいてきた。
「あんたら、募集見て来たの? だったら残念だけど。あいにく、ここは人手が足りてる。大して飾り付けないでも構わないしね」
「どういうことだ? でっ」
「ゴメンナサイ。この子、田舎出身だかラ、言葉遣い悪くテェ。王子様の結婚式なのニ、随分質素なんですネッ」
普段通りの言葉遣いを、先ほどのように足を踏まれてリオはコロンに注意される。猫なで声のコロンの目は笑っておらず、リオは冷や汗をかいた。
「ま、急だから知らないのも無理ないさ。第三王子なんて、最近までいることすらアタシたちは知らなかったのにさ。国王様と第一と第二の王子様がいなくなってから、突然この国の指揮を取り出してね」
「いなくなっタ?」
「あぁ、そうさ。この募集にここまで来られたってなら知っているだろ? 禁術の魔法使いと手を組んだって話。今じゃソイツの言いなりで姿は見せないし。なんでも『黒髪の悪魔』を倒すため、らしいけどね」
「禁術の魔法使イ……」
「……」
ハウスメイドの言葉に引っかかりを感じるコロン。一方、リオは『黒髪の悪魔』が、自分を指しているのだと察していた。
「挙句の果てに、どこで捕まえたのかわからない魔法使いと結婚だってさ。この国はどうなっちまうのか。ま、そういうことだから。城の用意の方が人手が足りないんじゃない?」
「アリガトウ。行ってみますワ」
ニコッと微笑むと、コロンはリオを連れて教会を後にした。
険しい顔をしているリオに、コロンは思い切り背中を叩いた。
「ってぇ!」
「心配するナ。あれだけ情報を流すヤツがいるなんテ、色々と問題がありすぎル。つまり、体制が諸々整っていなイ。だから、情報も漏れるガ、リオにも気がつかなイ。そういう王家に成り下がっていル、大丈夫ダ」
「……ありがとう」
少し安堵の笑みを見せるリオに、コロンも笑みを返す。
「しかシ、気になることしかないナ。禁術の魔法使いニ、黒髪の悪魔だなんテ」
「あぁ。国王とその王子二人は誰かに付いて、俺を探しているみたいだな。そして、結婚式をするのは第三王子で、連れてきた魔法使いってのは……」
「十中八九、レミィのことだろうナ」
二人が廊下の角に差し掛かった時、ちょうど出てきた相手とリオはぶつかりそうになった。
「うわっ、すみませ……」
「なっ! 驚かせるな! ボクをサンティトル王子だと知っての愚行か!」
「王子!」
今まさに話題に登っていた第三王子のサンティトルが目の前に現れた。あまりにいきなりの出来事に、リオは声を上げた。
すかさずコロンは間に入る。
「モッ、申し訳ございません王子様。何分、田舎育ちでございましテ……」
「ふんっ。そんなこと、ボクが知るわけないだろう。……ん?」
「えっ……なんだ、いや、なんでしょうか……?」
間に入ったコロンを無視し、サンティトルはリオを見つめた。リオは変装がバレたのではと冷や汗が背中を流れるのを感じる。
「おまえ……よく見ると可愛い顔をしているな! ボクの姫の次に!」
「は?」
予想もしていなかった言葉に、つい素が出てしまうリオ。それに気づかず、サンティトルは意気揚々と話し始めた。
「ハウスメイドか? それにしては、ドレスの装飾も細やかで、素朴かつ華やか。……よし、決めた! 今、ボクの姫が結婚式のために着飾っている。そこに迎え! 他のハウスメイドは地味すぎだ、何とかしろ!」
「えぇぇ?」
まさかの展開についていけないリオ。困惑するリオを押しのけ、コロンが手を挙げて答える。
「喜んデッ!」
「おまえはいい。なんだ、こう……雰囲気が違う。そうだな、ヒージ」
「はい、坊ちゃん」
即答で拒否されたコロンは少しムッとしつつ、あまり目立つのもよくないとその手を下ろした。サンティトルの背後にいたヒージは、いつの間にかコロンの前に立ち、サンティトルの言葉を待つ。
「こいつはあの部屋へ連れて行け。どうせ、そこにキュービがいるんだろ。魔力はいくらでも惜しまないさ」
「キュービ……!」
その名前を聞いて、コロンは目の色を変えた。異変に気づいたリオだったが、下手に口を開いて今の状況を変えることも憚られ押し黙る。
「かしこまりました。娘さん、こちらへ」
「ア、アァ……」
事態がよく飲み込めないリオとコロンだったが、お互いに目配せしあとは任せ合うことにした。




