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「あ、れ……朝……?」
レミィは大きくふかふかな天蓋付きのベッドの上で目が覚めた。
ステンドグラスの窓から差し込む日差しで、すでに陽は登っているのが確認できる。
「ここは……? あ、そっか。サンなんとかさんのお家に連れてこられたんだっけ」
名前すらおぼろげなレミィは、ベッドから抜け出し辺りを見渡した。
どうやらそこは客室のようで、ベッドの他には簡易的なテーブルにとイスしかない。だがひとつ、そこには似つかわしくないものがあった。
「これ……結婚する時の、ドレス?」
ベッド脇にあるトルソーにかけられた純白のドレス。
レミィが本で学んだ知識から、それは結婚式用のドレスということがわかった。純白の生地に控えめなレースが施され、袖口にはキラキラと輝くビーズが散りばめられている。ドレスは手作りのようで、どこか素朴で温かみを感じるものだった。
「すごい、綺麗。どうしてここに……? あれ?」
そしてもうひとつ、ドレスの胸元には煌く首飾りがかかっていた。大きめのそれは、真ん中が雫型に抜き取られた形で、何かがはめられるような構造。
「この形、どこかで……」
──コンコン。
「あ、はーい!」
扉を叩く音に、レミィは反射的に返事をする。と、同時に「知らない人が来たら、絶対に声を上げてはいけません」というルビーの言いつけを思い出し、やってしまったとばつの悪そうな顔をした。
「姫、起きているのか」
声の主はサンティトルだ。
自分に向けられているのに無視することもできないレミィは考える前に再び返事をした。
「うん! 起きてるよ。サン……えっと?」
「……サンティトルだ」
「そっか、サンちゃん」
「えっ。……好きに呼ぶといい」
サンティトルを覚えられないと踏んだレミィは手短なあだ名を付けた。
サンティトルは普段、名前や王子名でしか呼ばれないため、レミィの発言に一瞬戸惑いを見せたが受け入れる。
サンティトルは用意してきたイスに腰掛け、そしてまた、扉越しに話しかけた。
「昨夜は、すまなかった。手荒な真似をした。悪かった……」
声色から落ち込み、項垂れているのがひしひしと伝わって来る。
そんなサンティトルに、扉越しから明るくレミィは応える。
「……確かにびっくりしたけど、何か事情があったんでしょ? リオにも謝れば大丈夫だよ」
「リオ……そいつは一体何者なんだ?」
「うーん。難しいけど、最近仲良くなれた……友達、かな」
「友達……?」
「うん、そうだよ」
サンティトルの一瞬の疑問にもまっすぐに答えるレミィ。
そんなすべてを受け入れるレミィの言葉は、サンティトルにとってとても心地のよい温かいものだった。忘れかけていた大切な気持ちを思い出させるような。
「……そこに、ドレスがあるだろう?」
「うん! とっても綺麗。これ、結婚する時に着るやつだよね」
「そうだ。ボクの……母上の形見だ」
「形見?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるレミィ。
「あぁ。ボクの母上は国王の妻ではない。第二夫人といえば、まだ聞こえはいいが。ボクは妾の子でな。本来、城に住まうのもおかしい話なんだ」
「め、めかけ……?」
「ふふ。そのように、純な問いかけをしてくれる話し相手が欲しかった。ボクは忌み嫌われている。母上はボクを産んで死んでしまった。国王はボクを邪魔者扱いして、世間に出すのを拒んだ。……そのドレスは、母上が国王……ボクの父上と結婚する際に着ようと準備していたものらしい。そんな願いは、叶わなかったがな」
ぽつり、ぽつりと紡ぎ出すサンティトルの言葉は、悲しみや怒りが交じり合い、それを感じ取るレミィも胸が痛くなった。
「ごめんね。難しいことはわからないけど……わたしはサンちゃんが嫌われるような人じゃないと思うな」
「昨夜はじめて会話したのにか?」
「うん、直感だけど! わたしの先生が、直感を大切にってよく言うの。だから、きっとそうだなって」
「ふん、良き師を持っているのだな」
そう言い放ち、扉越しに座るサンティトルは立ち上がった。
雰囲気が変わったと、扉の前にいたレミィも感じる。
「どう、したの?」
「……いや、そのような話は別に良いのだ! 今のボクにとっては笑い話にすぎないからな! それより我が姫よ、そのドレスを着てみてくれないか? メイドたちもすぐに手伝いに向かわせる。そして、本日ボクと結婚するんだ」
「へっ⁉︎ 待って! そんなことできないよ!」
突拍子もないことを言うサンティトルに、レミィはかなり動揺した。
動揺するレミィを無視し、サンティトルは続ける。
「式の準備はもう行われている! もう、後戻りはできない。これで、国王ミゲルの元では最初の伴侶を得た王子はボクとなる! 国を納めるべき長は、ボクなのだから……! ヒージ!」
「はい、坊ちゃん」
いつものように、いつの間にかそこにいたヒージにサンティトルは声をかける。
「レミィにドレスの支度をさせるメイドを」
「かしこまりました。坊ちゃん、キュービ様からのご伝言です」
「……なに?」
ドレスを着るようにと言われてから、サンティトルの声は聞こえなくなり、そこにいる気配も感じなくなった。どうやらどこかへ移動していったらしい。
慌てふためくレミィは、あれこれ考えていたが、ふとベッドを見ると枕元に自身の洋服と杖がご丁寧に置いてあることに気がついた。
「このままじゃ、ぜったい後悔するよね」
レミィは洋服に着替え、小さくなっていた杖を元の大きさへと戻す。
「ルビー先生の弟子だもん、魔法くらい使ってみせる!」




