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ヒソヒソと聞こえる声たちに、リオは耳を塞ぎたくなる。
城下町の中でも特に賑わいを見せるそこは、多種多少な人々が行き交う。城に一番近い繁華街ということもあって、兵たちや城の働き手と思われる者たちも多くいた。
リオたちはハウスメイドの募集へ参加するために、もちろんメイドドレスでそこまで来たのだが。
「あの二人、本当にハウスメイドなのかしら?」
「格好はそうだけど、派手すぎない? 踊り子とか?」
「おい、おれ声かけてみようかな」
「待て待て、どっちか決めようぜ」
聞こえてくるのは、明らかに自分たちに向けられる声。
確かに、ハウスメイドとして用意したドレスだったので形は間違いないが、コロンが用意したものは城に支える格好としては少し派手だった。
「おい。コロン。……目立ってどうする」
「アハハ。すごいなナ、これほど人気だとハ」
「そういうことじゃないだろ……っ!」
焦るリオに対し、コロンはどこか面白がっている様子だ。それに不服なリオは多少悪態をつきながら、城へと向かっていった。
人気の少ない路地に差し掛かり、リオは壁に点在している張り紙を見つけた。
「これか、城のハウスメイド募集ってのは」
そこには、『大至急! 城内での準備に伴いハウスメイド募集』と書かれている。賃金などの記載はなく、何の準備かもわからない不親切なものだ。
「数日前かラ、何か慌ただしく貼っていた目撃情報があってナ。罠なのか知らないガ、乗ってやるのも手だろウ」
「まあ、そうか」
「おい、お前たち!」
「「!」」
張り紙に気を取られていた二人は、背後から近づく人物に気がつかなかった。
振り向くとそこには、兵帽を深くかぶった番兵がいた。深くかぶった兵帽のおかげで、全く表情は読み取れない。
呆気にとられている二人をよそに、番兵とおぼしき人物は続ける。
「お前たち、城のハウスメイドだろう。こんなところで何をしている。これから第三王子の結婚式が行われるんだ。早く準備へ戻れ!」
「結婚式⁉︎」
思わぬ単語にリオは声を上げた。それと同時にコロンはリオの足を思い切り踏んづけた。
「いっ⁉︎」
「ごめんなさぁイ。この子ったラ、全然周りの話聞いていなくテェ。すぐお城に戻りマァス。ほぉラ、リィコ行くわヨォ」
かなりの猫なで声で返事をしたコロンは、痛がるリオをズルズルと引きずり後ずさりする。
その様子を、若干引き気味に見ているようだが、番兵は答える。
「……あぁ、お前たちは式場準備だろう。城内の教会へ向かいなさい」
「ハァイ。ほぉラ、リィコは?」
「わ、わかりました……」
そう言うと、コロンはそのままリオを引きずり、城へと向かっていった。
「おい、リィコってなんだよ。それに、あいつ何か勘違いしてないか?」
番兵が小さく見えだしたところで、リオはコロンに声をかけた。
「勘違いしているなら好都合。よくわからないガ、行き先まで提示してくれたしナ。そして、少年はもう少し心の声を抑えロ」
「うっ、悪かった。でも結婚式って……もしかして」
「その可能性ハ、あるかもな」
リオとコロンが見えたなくなったそこに、まだ番兵はいた。
「クソ。結局オレが動かなきゃダメなのかよ。城の奴ら、本当に使えねぇな」
小言を洩らし、サッと兵服と兵帽を脱ぎ捨てると、自身の黒い服に身を纏う。右肘まである手袋を、手際よく直し、加えて長い金髪を整えた。
「さーて、楽しませてくれよ。リィコちゃん」
ニヤニヤと城の方を見上げ、風とともに姿を消した。




