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「なぜきちんと術がかからない!」
「なぜ、と言われましても。坊ちゃん」
城の自室で寝巻きのサンティトルは、いつものようにヒージに悪態をついていた。寝不足なのか、その目元にはクマがくっきりと浮かび上がっている。
「キュービの言伝通りにしたはずだ! なぜ、レミィは術にかからず眠りに付いたのだ! ボクに誓いを述べて王女となり、ボクはこの国を手に出来る……そういう話だっただろう! だから、黒髪を差し置いてここに連れてきたのに……」
「はい、ですが坊ちゃん。キュービ様は、まず黒髪をと」
「う、うるさい! 魔が差したのだ! いやそれよりも、まずボクに命令するのがおかしいのだ! そうだ。ボクはあんな、手荒な真似をして……ボクは、嫌われてはいないだろうか……」
「……坊ちゃん」
自分の気持ちにも整理がついていないサンティトルは、ぐるぐると室内を歩き回り、天蓋付きのベッドへ思い切り枕を投げたりと大忙しだ。
その気持ちの正体を知っているヒージは、特に何をするでもなく見守っている。
昨日、レミィを連れ去るようヒージに命じたサンティトルだったが、それは当初の予定とは大きく違ったものだった。
いつものように謎の言伝が届いた昨日、レミィたちを見つけ出したサンティトルは確信した。彼女が自分の運命の相手だと。しかし、言伝には必ずと言っていいほど、『黒髪を優先し』と付け足されていた。
それはわかっていたのだが。サンティトルはレミィを見つけた時の高揚感が、今まで感じたこともないものだったこともあり、優先順位などすっかり忘れてレミィを連れ去る方向へと変更した。
最早レミィの隣にいた目的である黒髪の少年、リオになど目もくれず。それにより、様々な計画は崩れていくことになる。
そうこうして、レミィを城まで連れてきたがここからが大変だった。
すぐさま自分の王女とするために、まず形から入りたいサンティトルは婚姻の誓いをレミィに言ってもらおうと試みた。
そこでもまたも予期せぬ事態が起きる。サンティトルは魔法もからっきしで、人を操る術を必死になって覚えたのだが、レミィには全く効かなかった。
一瞬効く素振りを見せたレミィだが、誓いを言いかけてすぐ、連れてくる際に使った眠りの術の効力がなぜか再度働き、朝までぐっすり起きず。
サンティトルが悪態をつく朝に至る。
「レミィは? もう起きているのか?」
「いえ、まだでございます」
「そうか……。あまり気が進まないが、計画通り準備を。あれからキュービはなんと?」
「何もありません、坊ちゃん」
「ふむ。そんなに黒髪がよかったのか……? まぁ、よい。父上も兄上も、さぞ驚くまい」
そう呟くと、サンティトルはそこに用意されていた、王家に伝わる婚礼衣装を手に取った。




