3-9
見慣れない天井、嗅ぎなれない空気。こちらの世界に来てからずっとそうだったが、ここは本当に知らない。
はっきりしない頭で、リオはそんなことを考える。
「医者、連れて行った方がいいんじゃないのか?」
「大丈夫ダ。多少コブになっているだケ、ありがとうナ」
誰かの声が聞こえ、薄目を徐々に開いていく。
「ここは……どこだ」
「おッ! お目覚めかイ、ケモ耳王子様」
「お前!」
視界の先にいたのはコロンだった。勢いよく飛び起きたリオは、頭にその振動が行き届き後悔する。
「いっっつ!」
「よう、少年。ほらほラ、何があったか知らないガ。頭にふたつもコブが出来てるんダ。もう少し安静にしとケ」
「……コロン、なんでここに。ここ、どこだ」
見渡してみると、そこには年季の入った壁や家具が目に入る。古めかしくもどれも丁寧に手入れされているのがわかる。リオが寝ていたベッドも、多少ギシギシと音を鳴らすが寝具などはふかふかで柔らかくきれいだ。
「ワタシがここにいるのハ、少し気になることがあってナ。久しぶりに国へ入ってみタ。そうしたラ、いきなり見覚えのあるやつが倒れていたんダ。親切に連れてきてやったんだから感謝しロ。そして、ここは知り合いの宿屋ダ。口は固いシ、差別もしなイ。少年はどうして道で寝ていタ?」
「っ! そうだ、レミィは!?」
「あの娘は一緒じゃなかったガ?」
項垂れるリオに、コロンは優しく話を聞いた。リオは遠のく意識下で、連れ去られていくレミィを見ていたことを思い出し、罪悪感が押し寄せる。
「俺が、なにも出来なかったから……」
リオが番兵に殴られ気絶したこと、その間にレミィは連れ去られたこと、番兵たちのほかに執事服の男がいたことなど、すべてをリオはコロンに話した。
話し終えてから、リオはまたよく知らない奴にベラベラと話した自分に後悔する。信用してはいけないと、何度も心の中で唱えて。
「……ふム、そうカ」
全てを聞き終えたコロンが口を開いた。
「やっぱりナ、どうやら城がおかしいのは近頃、この城下町が変なことが理由みたいでナ。それもあってここまで出てきてみたガ、正解だナ」
「城のやつらが何か知っているのか?」
「……確信はなイ。ガ、アイツが動き出したのなら」
「アイツ?」
何か思い当たる節がありそうなコロン。リオは口にした名前がわからず、首を傾げる。
話題を変えるために、コロンはリオに問いかけた。
「少年ハ、あの娘。レミィを助けたいのか?」
「当たり前だ! 守れと言われているのもあるが、元はといえば俺のために来てくれたんだ」
「ほウ? 少年はやっぱりレミィのことが気になっているのだナ?」
「はぁ!?」
コロンの突拍子もない発言に、あからさまな動揺を見せるリオ。それと同時に、飛び出すすでに馴染み深くなったケモノ耳。
「違う! そういう意味じゃない! どういう意味でもない! ただ単純に助けた方がいいと思っているだけで……!」
「ハイハイ、ワタシは別に好意があるなしの話しをしている訳じゃないけどナァ?」
「てめぇ……」
意地の悪い顔でニヤニヤとリオを見るコロンはまるでいたずらっ子だ。
「ま、そうと決まれば話しは早イ。城に潜入した後レミィを助けル! 城に入れバ、少年の来た『異世界の扉』の手掛かりもありそうだしナ? 作戦会議ダ」
気合を入れるコロンを見て、本当に信用していいのか考えるリオだったが、手段を選ばず適応出来る自分をまず信じることにした。
「真剣にやってくれよ。じゃなきゃ、俺がルビーに殺される」
「わかっていル。ルビーの野郎に手を貸すようで癪だガ、城には一度入ってみたかったんダ」
あたりはすでに真っ暗。城の奴らもレミィが目的であれば恐らく危害は加えないだろうと考え、潜入は日中堂々と行うことにした。
コロンには何やら作戦があるらしく、国のこともよく知らないリオはそれで良いと合意した。
「そうと決まれば、腹が減った」
「ヨシ! じいさン、飯ダ!」
コロンは馴染みの宿主に声をかける。
「レミィ、明日必ず……」
これがいい流れになればいいとリオは願いながら、窓の外を眺める。
その宿からは満天の星空が目に入る。窓の外に見える木々は、自分たちが来た森から見えているようだった。
「ん?」
一瞬、微かに赤い光が見えた気もしたリオだったが、すぐにコロンが食事を持ってきてそちらに気を取られ、もう一度見たときにはなにも見えなくっていた。




