3-2
「はぁぁ……」
身支度をして早々、リオは大きなため息をついた。
昨日、あれからコロンの家を後にしたレミィとリオは、何とかして家路に着いた。
リオは一度家に帰ってすぐの出発を試みたが、それはルビーによって阻止されてしまった。
「えぇ!? 城下町? 旅ですって? 大変です。それならまず、荷造りをしなくては! リオくんはそのままで行くわけにはいきません。ある程度の武器を備えなくては。レミィはいつも私の可愛い弟子ですが、準備もありますよね? こうしてはいられません。道中食べるための果実のタルトやお金も準備しなくては……」
これがルビーの言い分だった。この迫力に押されたリオは、結局帰宅してからの数時間は、ルビーからもらった短剣の使い方を覚えることに費やされた。
筋がいいのか、リオはその短剣をまるで元々知っていたかのように使いこなせるまでとなった。
「短剣使えるようになったのはいいとしても……」
早く自分を取り戻したいリオにとって、それが時間の無駄に感じて仕方なかった。
「あー! むかつく」
部屋を出たリオはむしゃくしゃする気持ちを外に吐き出す。すると、
「あ、リオ。おはよう!」
「うぉっ!」
一人気持ちを吐き出していたリオの前にレミィが飛び出した。
いきなりのレミィ出現に驚くリオ。そして、
──ボムッ。
飛び出すケモノ耳。
「だぁぁぁ! くそ!」
「お、落ち着いて! 落ち着いてリオ!」
「はいはい。まったく。朝から騒がしいですね、あなたたちは」
その様子を見てため息をつきつつ、ルビーは微笑んだ。
「おい、ルビー。お前、呪いの発動条件わかったって言ってたよな? どうなったら発動して、どうやったら発動しないんだ!」
「えー? リオくん、自分でもまだわかっていないなんて……。もっと呪いとうまく付き合っていきましょう?」
「ふざけんな!」
「それに、教えてほしい人の態度に見えませんし?」
「何を……」
わなわなと震える拳を何とか抑えるリオ。ニタニタと笑うルビーとは、まるで火と油の関係。
「ね、リオ。今日はいいお天気だし、昨日より出発にはぴったりだよ」
そこに水を差せるのがレミィだ。
ニコニコ笑顔のレミィを見て、いつの間にかケモノ耳も消えていたリオは冷静になった。
「……あぁ、そうだな」
二人を少し寂しげに見つめていたルビーだが、手をパンっと音立てて鳴らし、口を開いた。
「さて、お二人共。昨日話は聞きましたが、本当に行くのですね?」
「行く!」「あぁ」
温度差はあれども、レミィとリオは返事をした。
「はい、よろしい。リオくん、君はとても剣の筋がいい。ここにいるのなら、魔物とも対峙することになるでしょう。その時は、渡した短剣でレミィを守ってください」
「!」
いきなりの真剣なルビーの眼差しに、リオは少し驚きつつ答える。
「ん……。まぁ、昨日でだいぶ短剣の扱い自体はなれたし、あとは実践でうまくやれれば。それに、何かあったら知らせるってレミィも言っているし」
「うん! 森を抜けた国なら空便も届くよね」
空便とは、魔力で飛ばした封書を届ける魔法。ジャムアルータ大陸では一般的な配達方法で、もちろん陸続きの近場ならば配達員が届ける場合もある。
レミィは初めての森の外に浮き足立ち、今まで読んできた本にある日常魔法をすべて試したいと思っていた。そのひとつが空便だ。
「届きますけど、何かある前に知らせるか帰ってくるのが一番、私は安心しますよ」
「はーい」
元気よく返事をするレミィはほとんど話を聞いていない。目の輝きからして、それは一目瞭然だった。
「ふぅ……まぁ、いいでしょう。くれぐれも、気をつけて。自分たちの直感を忘れずにしてください」
レミィとリオは頷くと、用意した荷物を持って外へ出た。
「ルビー先生、いってきまーす!」
「……行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
ルビーは二人の姿が森に消えるまで、その背中を見つめていた。
『いったのか、あいつら』
「ふふふ、君は本当によく見ているね。誰に似たんだか」
気配を二人に悟られないよう隠れていたファルが、ルビーの元へと駆け寄り、不服そうに声をあげた。
『だれにも、にていない。おれは、おれ』
「はは、そうだったね」
そうファルが放つ言葉に、ルビーは思い出していた。懐かしい記憶を。
「本当に、誰に似てるんだか」
そうポツリと呟く言葉には哀しみが宿っていた。




