2-7
レミィとリオはコロンの家に招かれていた。
湖のほとりにあるコロンの家は、ほとんどのものが青く異彩を放っている。
「オマエたちが言っていル、草とはなんのことダ?」
「ミグミグ草っていうの」
「ミグミグ草? あれは魔力を増幅させる草ダ。確かに低級魔法を解く効力もあるガ。その紅茶はミグミグ草の茶葉なんダ。しかし、変化はないだロ?」
出されていた紅茶を飲んでいた二人は落胆した。あからさまに落ち込むリオを見て、レミィは声をかける。
「コロンさん、ほかに何か方法はありませんか?」
「そうだナ……。これでもワタシは呪い専門ダ。しかし、その魔力と呪いハ……薄気味悪いというカ、何か混ざっていル」
「うーん、あっ! リオは異世界から来たの!」
「異世界!? なんでまタ」
「それが、わからなくて」
「そうカ。呼ばれタ、のカ」
腑に落ちたと言わんばかりに、コロンは表情を変えた。レミィとリオは訳が分からないでいる。
少し考え、コロンはハッと思い出した。
「そういえば、ミューハ国の城下町が最近何か変だとカ。国王もいるのかいないのかすらわからないようだシ」
「何か変ってことは、行ったら何かあるかもしれないってことね!」
「どうしてお前はそんなに前向きなんだよ」
呆れ返るリオに、レミィは笑顔で答える。
「だって、何かがあるかもって異世界の扉を探したらリオに出会えたし! 何かがあるかもしれないなら確かめないと!」
レミィの前向きさ加減に、リオは悩むのも馬鹿らしいと思い始めた。
そんな様子を、ただ黙って見ていたコロンだったが、ひとつ疑問が浮かぶ。
「なァ、ところデ、娘はこの森に住んでいるのカ? 異世界からの少年は別としテ。一人で、ということではないだろウ?」
「え? うん、ルビーって人と一緒に暮らしているの!」
その名前を耳にした瞬間、コロンは椅子から飛び上がった。今の今まで落ち着いていたコロンが明らかに動揺するので、レミィもリオも目を丸くする。
「えっと……その人が、一応わたしの先生で、師匠で」
「師匠!?」
さらに飛び上がるコロン。訳がわからない二人。
紅茶を少し飲んで喉を潤し、コロンは震える口を開く。
「ア、ああアア、アイツのせいで……平穏な生活は終わりを告げ、ワタシの魔力までも使イ……! 娘の魔力の感じモ、アイツ……!」
「お前の先生はどんな奴なんだよ」
「わ、わからないけど」
自分の師に対して、負の感情を全面に出すコロンを見てレミィはたじろいだ。
「トッ! とにかく、あんな奴と一緒にいたらいつかおかしくなるゾ!」
「それは、同感だ」
コロンの感情に、そこで初めてリオは共感した。
レミィはなんとなく否定したいような、その通りのような気がして何も言えない。
「あまリ、関わりたくなイ! 出て行ケ!」
そう言うと、コロンはレミィとリオを家から追い出して勢いよく扉を閉めた。
いきなり態度の変貌に驚きつつも、二人は妙に納得し顔を見合わせた。
「……っと、娘ヨ」
「ん?」
扉から少し身を出したコロンはレミィを呼び止めた。
「もシ、本当に城下町に行くのなラ。魔道具の店に行くといイ。……長い旅をするなラ、絶対ニ」
「……? うん! わかった、ありがとうコロンさん! またね!」
レミィの返事を聞き、コロンは少し安心したのか今度は静かに扉を閉めた。
レミィとリオが去ったのを確認し、コロンは床に座り込んだ。
「ルビー、そうカ。似ていると思ったヨ……ワタシを救ってくれた時と同じ目をしテ、可愛いとほざいテ」
そこにはもう誰もいないのだが、顔をつたう雫が見えないようにコロンは顔を覆う。誰にも見つからないように。
「頼んだゾ。オマエたちなラ、きっとキュービからこの世界を救ってくれル……。な、パイ……」
コロンの家を後にしたレミィとリオは、来た時より通りやすくなった道に困惑しながらも、ルビーが待つ家を目指した。
「おい、レミィ」
「どうしたの?」
「……お前は、もう家に帰ったほうがいいんじゃないのか? 元々は俺の呪いには関係ない。感謝はしてるけど……」
「リオ!」
立ち止まるリオにレミィは、言葉の意味がわからないといった顔でリオの言葉を遮った。
「前にも言ったでしょ? わたし、同じくらいの年齢の子と初めて会ったの! それが、とっても嬉しい。だからすごくワクワクしてる! 呪いはリオのことかもしれない。だけど、わたしも自分の魔力が弱いことと関係あるって思ってるの! だから全然関係ないわけない!」
はっきりと言い切るレミィに、リオは笑った。純粋に、喜びを交えて。
「一緒に行こうよ、リオ」
「あぁ、ここに住んでいる奴がいたら心強い」
「あ!」
リオの言葉にレミィは声を上げる。疑問符を浮かべるリオ。
「でも、わたしこの森から出たことないから、ミューハ国も城下町も知らないよ?」
「はぁ!?」
前途多難な二人の冒険はこうして始まった。




