2-6
森を進むレミィとリオは早速立ち止まっていた。
「どの道に進めばいいのかな……」
「どうして木が動くんだよ……この世界は」
二人がいる森は『魔の森』と呼ばれる程、難攻不落で来た道も行く道もわからなくなるような場所。木々は踊り、花々は歌う。
しばらくこの森に住んでいるレミィだが、ルビーに止められていたこともあり、目的の湖周辺までは来たことがなかった。
「そういや、その杖。杖というより箒みたいになってるけど、魔法使えんのか?」
リオはレミィが手にする杖を指さした。
レミィの杖は絵描き筆を大きくしたような形で、先端には色が付いている。
「うん! 使えるよ。ほんとは先生に禁止されてるけど、実は飛べるの」
「飛べる!?」
じゃあそれで上から見て湖を見つけたら……と口から出かけたリオに、レミィは現実を突きつける。
「一メートルね!」
「飛ぶって言わねぇだろ、それ!」
「あと、得意なのが……」
話を聞かないレミィは、呆れるリオに気づかず呪文を唱える。
「オープンザパレット!」
「お、おぉ……。(思っていたのと違う)」
何やらガッカリするリオを置いて、レミィは呪文と共に出現した、布に広がる絵の具のようなものに杖先をつけた。赤いそれは杖先に吸収され、まるで本当に筆で絵を描くかのように見える。
「得意なのはお絵描き魔法! こうやって、円に炎を描ききれば……」
魔法陣と言うには拙すぎるそれは、お絵描きというにも落書きの域なのだが。レミィは日頃練習して一番精度の高い、炎の絵を描いて見せた。
そして。
――ボッ!
描かれた円内に炎が広がる。
「おぉ、意外とすげ……」
そこまではよかったが。
「わ、わ、どうしよう! これ全然消えない! いつもすぐ消えるのに!」
「は!?」
慌てふためくレミィはそのまま杖を振り上げた。その勢いに乗って、描かれた炎が円から飛び出した。
周りは森。木々などの植物が豊富。天然の着火剤だ。先程まで踊っていた怯え木々は道を開け、花々は口々に「キーキー」と叫ぶ。
何かの植物に炎が当たったのか、ポンポンと音を立てて破裂していく。破裂したものから胞子が飛び出し、さらに炎を大きくした。
「どうしよう、リオ! わたし消し方わからなくて」
「わからない魔法を使うな!」
魔法を始めて目の当たりにしたリオにはどうすることもできず。レミィはレミィでパニックになっているため、「パレットをしまえば、レミィの低級魔法は消える」なんてことを思い出せずにいた。
そうこうしているうちに、勢いを増す炎。二人がどうにかしようと近づいた瞬間。
「何をしていル!」
――バシャン!
上空から大量の水が降ってきて、聞きなじみのない発音の言葉が聞こえた。
大量の水は炎と一緒にレミィとリオも飲み込み、二人はずぶ濡れになってしまった。
二人が声の方を見ると、そこには綺麗な水晶を持った人物が立っていた。
「ここがコルルの湖と知っての冒涜カ! 立場を弁えロ!」
「「みずうみ?」」
きょとんとした二人が後ろを振り返ると、そこには湖が広がっていた。あれだけ木々が生い茂っていたはずが、湖の周りは開けていて、陽の光が差し込み水面をキラキラと照らしている。
「いつの間に……」
呆気にとられているリオに、声の主は怪訝そうな顔で言い放った。
「オマエ……どこから来タ。なんだ、その気味が悪い魔力ハ!」
「は? 魔力って……」
「正体を、表セ!」
そう言うと、持っていた水晶が光り、光が矢のようにリオへと向かった。リオは咄嗟に避けるが、光は自由自在にねじ曲がり、リオを捉える。
「リオ!」
レミィが叫びリオに駆け寄ろうとするのを、相手は制止した。
「オマエは……どうしてこんなにも懐かしイ?」
「え?」
一瞬動揺しかけたが、すぐに我に戻り、水晶から伸びた光で捕まえたリオを、今度は蒼く輝く光で突き刺した。
「ぐっ」
「いやっ! リオーッ!」
突き刺されたリオを見たレミィは思い切り叫んだ。
「リオになんてことするの! わたし、許さない!」
レミィはそう言うと持っていた杖を握り締めた。握られた杖についた紅い宝石が光を持ち、やがてレミィ自身に集まってくる。その瞳は、いつもよりは鋭く、奥に何かの気を感じる。
「その、魔力……」
「リオを、離して」
様子の変わったレミィを力の抜けたリオはその場で動けないまま見ていた。突き刺された時には若干の痛みが走ったが、穴は空いていない。代わりに、その頭には大嫌いなケモノ耳がいつの間にか生えている。
レミィは杖をひと振りし、その集まった光を水晶目掛けて放った。
「うわッ!」
その光は水晶からの光と相殺され、爆風と共に飛び散った。
反動でよろけて相手は水晶を落とす。すると、レミィも力尽きたのか、そのまま地面にへたり込んだ。
「あ、れ? わたし……」
「レミィ!」
持ち直したリオが急いでレミィに駆け寄る。
「大丈夫か!」
「えへへ、リオ。今初めて名前呼んでくれたぁ」
「なっ! 言ってる場合か!」
いつもの笑顔に安堵しつつ、リオはレミィを起こした。
「おい! まず話を聞いてくれ」
そして、リオは水晶を持ち直す相手に対峙した。
「俺たちは呪いを解く草を探している。さっきの炎は、えーっと……誤解だ」
「……呪イ?」
「あぁ。ここの湖に住むコロンという奴を探してここまで来た。別に湖をどうこうしようってワケじゃない」
「……コロンはワタシだガ」
「え! お姉さんがあのお名前の可愛いコロンさんなの!」
コロンが名乗ったことに反応したレミィは笑顔を向けた。
可愛い、と言われたコロンは全速力でレミィに近づき口を塞いだ。
「二度と、そんな言い方するナ」
殺意が篭ったコロンに、レミィとリオは頷くことしかできなかった。




