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席に着いたレミィたちは、準備した朝食を食べて始めた。朝露の香りと、ルビーの作った料理たちが混ざり合い、穏やかな朝の光景を生み出している。
「先程は失礼しました、リオくん」
「いや、俺も、悪かった……と、思う」
少し腑に落ちなさそうにリオはルビーへ応える。
それを見てレミィは仲良くなったと嬉しくなりニコニコと話に加わった。
「リオは照れ屋さんなんだね」
「どうしてそうなる」
「えへへ、だって顔赤いもん!」
「なっ」
レミィの指摘に、自覚していなかったリオは自身の顔を触って確かめる。それと同時に、
――ボムッ!
「……なんでだ!」
リオにはケモノ耳が再び生えた。
レミィは昨日の一件からもう見慣れたのか、そんなリオをまたとびきりの笑顔で褒め讃えた。
「リオ可愛いな、その耳」
「見世物じゃねぇ!」
「はいはい、リオくん落ち着いて。レミィも茶化さない」
二人を微笑ましく様子を見ていたルビーが仲に入る。それにレミィは従い、笑顔は崩さないまま会話を終えた。リオは自分の鼓動が早くなっていたのをなんとか収めようとし、やっとの思いでケモノ耳を引っ込めた。
「で、本題に入りたい」
カカの実のジュースを飲み干したところで、リオは口を開いた。
飲み干すのを見届けたルビーと、後片付けをしようとしたレミィは手を止め、リオに向き直る。
「俺は……言われたとおり、ここの住人ではない。恐らくこちらに来てから、あの……変な耳が出るようになった。この呪いを解きたい」
「リオは異世界の扉ってところから来たの?」
「異世界の……いや、わからない。正直、あまりこちらに来た時の記憶がない。ただ、俺のいた世界に魔法なんて存在しない。それにこんなに大きな植物や生き物たちは、少なくとも俺の住んでいたところにはなかった。それは覚えている」
記憶を呼び起こしながら、リオはレミィの問いかけに答える。異世界の扉を見てみたかったレミィは、少し残念そうにしつつもリオが悲しそうにしているのが悲しかった。
二人の沈黙のあと、ルビーが口を開いた。
「その呪いは、まだ解けませんよ」
「!?」「どうして!?」
意味深な発言に戸惑うリオとレミィ。ルビーは言葉を続ける。
「レミィは、私が呪いを解けるかもとリオくんを連れてきたみたいですけど……。あいにく、私じゃ解けないものなんですよね」
「なんだと!」
「リオ!」
勢いよく立ち上がるリオに、レミィはまたルビーへ掴みかかるのではと不安になり制止しようとした。それに気づいたリオは、一旦落ち着きルビーに問いかける。
「私じゃ、ってことは他の誰かは解けるのか?」
「そうですねぇ。リオくんの世界では魔法がないということなので、ご存知ないと思いますが。魔法にもいくつか種類がありまして。私は攻撃力が高い魔法の方が得意なんです。まぁ、ある程度の魔法はすべて使えますけどね」
少しの自慢を入れつつ話すも、ルビーの話を前半しか聞いていないレミィとリオ。それを察して、少し不満に思いつつルビーは話を戻す。
「そもそも、本当にリオくんはその呪いを解きたいのですか?」
「当たり前だろ!」
「そんなに、元の世界がいいと?」
「……っ! あぁ」
言葉を詰まらせるも、リオはルビーの問いを肯定する。
「レミィも?」
「うん、解いてあげてほしい。リオ、なんだかとっても辛そうだから、わたしも辛くなるよ」
レミィはお願いとルビーに不安げな表情を見せた。
もともと直感で動くレミィではあるが、リオに関してはなぜだか胸がソワソワして、まるで感情を共有しているかのように感じていた。
「ふぅ、わかりました。そこまで言うのならひとつ。北の方角へ進むと、山の麓に湖があります。そこに自生しているミグミグ草という草が、呪いに効くと言われています」
「「ミグミグ草?」」
聞き慣れない植物名に、レミィとリオと声を合わせた。
「ただ……その湖が少し厄介でして。そこにいる、コロンさんという魔女が仕切っているのですが、多少気難しいので」
「コロンさんってとっても可愛いお名前!」
「レミィ、それは禁句です」
「え?」
「そのコロンってやつに聞けば、その草が手に入るのか?」
ウキウキレミィをよそに、真剣なリオは早く行きたくて回答を急かす。
そんなのお構いなしのルビーは淡々と続ける。
「手に入るかどうかは別として、まずは会ってみてほしいですね」
「……わかった、ありがとう。行ってみる」
とにかく行かなくてはわからないと思ったリオは話を切り上げて、すぐに家を出ようとした。
それをみてレミィが一言。
「わたしも行く!」
「はぁ?」
まさかの一言に固まるリオ。レミィが言うと思っていたルビーは、一瞬寂しそうにするもすぐに切り替えた。
「近頃は魔物もいますし、少しでもこの世界を知っている人がいると安心なのでは? どうでしょう、リオくん」
「俺は……いいけど」
「やったぁ! 杖とってくる!」
ウキウキをより一層高めたレミィは急いで自室へと駆けていった。
リオとルビーだけになった場は静寂そのもの。そこを脱したのがルビーだ。
「リオくんの、その呪いの発動条件。わかりましたよ」
「えっ」
「……ドキドキに、ご用心」
含みを入れて囁き軽くウインクをしたルビーに、リオは鳥肌が立つ。
「ふざけてんのか!」
また怒鳴るリオの声を聞きつけ、レミィが素早く戻ってきた。
「リオ! また喧嘩してるの! もう喧嘩禁止!」
「喧嘩じゃない! お前の先生おかしいだろ!」
我慢できず突っ込みを入れるリオにレミィは笑い転げた。
訳が分からず首を傾げるリオ。
「やっと素を出してくれた、リオ」
「そ、そんなんじゃ」
「はいはいはいはい! そんなのんびりしていたら、日が暮れてしまいます。決めたらさっさと行く!」
笑い合うレミィとリオをルビーは強引に押し出した。




