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6. いじめっ子たちの本音

 ロバートはとにかく思い当たるスポットを急いで回り続けた。

 雪が思ったように深く、走るだけでも相当疲れる。

 背中のリュックが重いから猶更だ。


 でも、もう日は傾き始めている。

 このままだと自分も暗い森で彷徨うことになってしまう。

 何とかして早く見つけないと。

 

 そんな焦燥感に駆られていると、奥の方から禍々しい気配を感じた。

 もしかすると、野生動物かもしれない。


 

 ロバートは一瞬立ち止まって引き返そうとした。

 だが万が一、シルヴィ達が近くに居たらまずい。


(動物は嗅覚が鋭い。

 確か望遠鏡は持ってきてたはず)


 ロバートは咄嗟に荷物を下ろすと、音を立てないように中身を漁りだした。

 そして望遠鏡を見つけると、コクリと頷いて荷物を再び背負う。


(よし! これで向こうを確認しながら近づこう!

 気づかれないよう、できるだけ気配を消さないと)


 ロバートは音を立てないようにしながらも、できるだけ早足で前へと進んだ。




 ……やはりいた。

 大型の熊だ。

 体長は恐らく3メートルくらいで、不気味なほど真っ黒だ。


 地面の匂いを嗅いでいるところから察するに、多分餌を探しているんだろう。

 ロバートは望遠鏡で視認できるギリギリの距離に生えている木の裏に隠れ、様子を窺ってみた。


(……? なんか探してるのか?)


 熊はずっと同じところをグルグルと回っていた。

 不思議に思い周囲を見てみると、近くの木の上で人影が見えた。

 人数は……2人。

 猫の獣人の子供と、狐の獣人の子供だ。

 彼女達は息を必死に殺して、ブルブル震えながら枝の影に隠れている。


(アイツら……! よりにもよっていっちばん最悪な状況じゃねぇかよ!)


 ロバートは思わず頭を掻きむしった。

 しかしここで文句を心の中でぐちぐち呟いても仕方がない。

 彼は気持ちを切り替えようと自分の頬を音を立てないように叩き、またバッグを漁った。


(あった! 爆音機……!)


 ロバートは灰色の筒のような魔導具を取り出した。

 この爆音機は、魔力を糧に大きな音を出すことができる。

 しかもロバートによって、リモコンで遠隔操作ができるように改造されている。

 試運転をしたことがないのでちゃんと作動するか正直疑問だが、背に腹は代えられない。



 ロバートはゆっくりと町とは反対側の木陰の方に回り込み、手早くセッティングした。

 そして町の方向へと戻り、リモコンを魔導具の方に向ける。


(すーっ……3、2、1……!)


 ロバートは思いっきりリモコンのボタンを押した。



 すると耳を塞ぎたくなる大きな音が、森に鳴り響いた。

 熊は一瞬驚いてたじろぐも、獲物がそこにいると勘違いしたようで魔導具の方へと走り出した。

 それと同時に、ロバートもシルヴィ達が隠れる木へ駆け出した。


「――シルヴィ! ユリア!

 今すぐ降りてこい!!」


 到着したロバートは爆音機にかき消されないよう、思いっきり声を張り上げた。

 すると上の方からユリアが震えた声で答えた。


「ロバートはん……!

 うちら腰が抜けてしもうて、ここから動けんのよ……」


「はぁぁぁ!?

 だったら飛び降りろ!

 早くしねぇと熊が戻ってくるぞ!!」


 ロバートはブチ切れながら木を蹴って2人を落とそうとした。

 シルヴィとユリアは気が揺れて悲鳴を上げたが、なんとか勇気を振り絞ってそのままドスンッと落ちてくれた。

 彼女達は勢い良く雪に埋もれたが、ロバートは構わず拾い上げた。

 そして走りやすいように両脇に抱えると、全速力で町の方へ走り出す。


「――あ゙ぁ! 重いな、オマエら!?

 全っ然スピード出せねぇんだが!」


「な!? 女の子に対して失礼だミャ!

 謝れ! このアホ! お人好し! 女ったらし!」


「はぁぁぁぁ!? 文句言う元気あんなら走れよ!」


「ミャ!? なんだって!」


 ロバートとシルヴィの間に火花が散り始めた。

 今すぐにでも、大喧嘩が勃発しそうな勢いだ。

 それを見ていたユリアは、思わずため息を漏らしてしまった。




 ロバートはとうとう我慢できなくなり、胸の中に抑え込んでいたものを吐き出してしまった。

 

「――そもそも助けてやったことに感謝してほしいんだが!

 オマエら、散々フィーネをいじめやがって!

 オレはぜったいに許す気はないぞ!

 本当はこのまま見捨ててやってもよかったんだからな!?」


「――っ!?」


 シルヴィは唇を震わせながら俯いてしまった。

 ユリアもすごく気まずそうに目を逸らし、大人しくしている。

 そうして重たい空気がしばらく残るかと思いきや、シルヴィがボソッと囁いた。


「…………もん」


「は?」


「――だって、見ててイライラするんだもん!

 病気だからってうじうじ引きこもってて、ずっと恨めしそうに外を眺めてて……!

 そんなに外に出たければ外に出ればいいミャ!

 だから毎日のようにいじめれば、そのうち怒って出ると思って……!」


 シルヴィは突然泣き出してしまった。

 それを見てロバートはどうすればいいのか分からず、ただ無言で困惑するしかなかった。

 ふとユリアの方を見てみると、彼女はロバートの方を申し訳なさそうに見ていた。

 しかし、すぐにそっぽを向いてしまった。


「うちは、その……楽しくて、つい……

 最初は……あの子が、元気になれればって…………」


 ロバートは呆れて大きく息を吐いた。

 どんな理由があろうとも、いじめによくないことなのは確かだ。

 でも彼女なりにフィーネのことを思って始めたことは分かった。

 だったら、本当にやるべきことは1つだったはず。


「……それ、本人に直接言えばよかっただろ?

 帰ったら今までのこと誤って、素直に訳を話せよ」


「……」


 2人はただ下を向くだけだった。

 ロバートの耳に入るのは、自分の足音と息の音だけ。

 まだ急がないといけないのに、妙に心がすっきりして少し安堵してしまった。




 その時、真後ろからズシズシと胃に来るような大きな音が鳴り響き始めた。

 走りながら少しだけ後ろを振り向くと、遠くから黒い影が迫ってきている。

 それがさっきの熊だと気づくのは、そう難しくなかった。


「くそっ! 気づかれた!

 オマエが大声出すからだぞ! シルヴィ!」


 「ミャッ!? ロバートみゃんも大声出してたミャ!

 人のせいにしないでよ!」


「2人とも、いい加減にせぇ!

 このままだと追いつかれんで!」


 ユリアの言うとおり、黒い影は少しずつ大きくなっていく。

 ロバートは一旦走るのに集中することにした。

 だが走れない2人を抱えているせいで、やはり速く走れない。

 どんなに必死になっても、距離は縮まるばかりだった。


「ロバートはん! そのままじゃあ――」


「わかってる!

 手が空いてるならオレのバックから魔道具を取り出せ!

 それで何とかしてくれ!」


 シルヴィは文句を言おうと頭を上げた。

 しかしユリアが鋭い目つきで睨んだことで、そのまま大人しくなった。

 そしてユリアと一緒にロバートのバックを漁り、一番手前のものから一個ずつ取り出した。

 2人はとにかくがむしゃらに、魔道具を起動させて熊の気を逸らしたり目を一時的につぶしたりといろいろと試した。



 しかし、熊は一向に止まる気配はない。


「ミャァァァァ!! もうあったまに来た!

 こんにゃろう、これ以上近づくな!!」


 シルヴィはしびれを切らして、魔道具を熊に向かって投げ始めた。

 だた大半は当たることなく雪の上に落ち、当たったとしても熊の怒りを買うだけだった。


「――ヴォォォォォ!!!」


「ひっ!?」


 シルヴィは熊の雄叫びに脅え、しっぽと一緒に丸まってしまった。

 もう相手は手を伸ばせばロバートに触れられそうな距離まで詰めている。

 ユリアは恐怖で震えながらも、ロバートに必死に訴えた。


「ロバートはん! もう真後ろに……!」


「ぜぇ……ぜぇ……知ってる……!

 でも、もう、限界だ……!」


 ロバートはひゅうひゅうと息を切らしながら、いつの間にか汗だくになっていた。

 顔もすごく苦しそうで、少し白くなっている気がする。

 もう、これ以上は無理だ。


「――あ」


 ユリアの目の前に迫った熊は、大きな手を宙に振り上げた。

 そこから見える爪はとても鋭く、沈みかけている太陽に照らされてギラギラと光っていた。

 ユリアも怖くなり、頭と尻尾を必死に引っ込ませた。


「――おらぁぁぁぁぁ!!!」


 その時、ものすごい太い大人の声が横から入ってきた。

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