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5. 日常が崩れる時

 小一時間雪合戦をした2人は、息を切らしながらその場に倒れ込んだ。

 結果は引き分け、完全に互角の戦いだった。


 でも2人にとって勝敗はどうでも良かった。

 久々に目一杯遊んで、笑い合って、疲れて寝そべる。

 それだけで心が満たされ、不思議と胸がポカポカする。

 人生で1番の幸せ――フィーネにとって今の時間は、そう言っても過言ではなかった。




 しばらく雪の上で寝そべっていると、急に大人達が忙しなく行き来し始めた。

 最初は夜の焚火の準備で忙しいのかなと2人は思っていたが、何かおかしい。

 ずっと同じところをぐるぐると回りながら、キョロキョロ見回しているのだ。

 しかも何人もだ。


 そんな中、一人の男の獣人と目があった。

 作業着のような服装に、ロバートと同じ長い耳……

 顔つきも似ているし、多分ロバートの父親だろう。

 彼はロバートのもとに駆け寄ると、ただならぬ表情で声を掛けてきた。


「ロバート! シルヴィとユリアって子を見てないか!?」


「……? そういえば今日は見てないな」


 ゆっくりと起き上がったロバートがそう答えると、彼の父親は頭を抱えた。

 フィーネは2人の名前を聞いて一瞬血の気が引いた。

 でも勇気を出して、恐る恐る聞いてみる。


「あ、あの……2人が、どうかしたんですか?」


「それがな、朝家出てから帰ってこないらしい。

 今手が空いている大人達で町を探し回ってるんだが、どこにもいねぇんだ!」


「え――」


 今は大体15時頃だ。

 となるとお昼すら食べずに外にいることになる。

 食べ盛りの子が、そんなことをするのは至難の業だ。

 子供のフィーネでも、流石におかしいのは分かる。


「どこに行ったか検討もつかないのか? 父さん」


「いや、あるにはあるが……

 シルヴィの母親の話だと、昨日からずっと焚火の火種となる木材の採取を手伝いたいって駄々をこねてたようでな。

 だが今の森は飢えた野生動物が潜んでるから、かなり危険でな。

 その時は何とか説得して黙らせたらしんだが……もし諦めてなかったら……」


 シルヴィは行動力のある女の子だ。

 可能性は十分ある。

 ユリアはおそらく、彼女の付き添いと言ったところだろうか。


「一応、森の捜索隊も作るつもりだ。

 それに今クライドが森に入って木材を探してるから、もしかすると見つけてくるかもしれない。

 もし町で2人を見つけたら、お父さんお母さんが心配してるって伝えといてくれ!」


 そう言ってロバートの父親はそそくさと立ち去ってしまった。

 



 ……これから、どうするべきなのだろう?

 あんな話を聞かされては、遊ぶ気が起きない。

 でも相手は自分に嫌な思いを散々させられた。

 かといって、心がすっきりした気分というわけでもない。

 フィーネはただ、暗い顔で下を向くことしかできなかった。



 そんな中、ロバートが急にどこかに走り出してしまった。

 何の前触れもなかったせいで、はっと気づいた時にはもうすでに遠くまで離れていた。


「あっ……ちょっと待って!? どこに行くの!?」


 フィーネは大慌てで彼を追った。

 

 

 

 あの恐ろしいクライドの甥だからだろうか?

 ロバートの足は信じられないくらい早かった。

 まだ体調が万全ではないフィーネにとって、見失わないようにしがみつくのがやっとだ。

 息が上がって、呼吸が苦しくて喉も痛い。

 やっとの思いでたどり着いたその先は、魔道具の専門店だった。


(ここってもしかして……ロバートのおうち?)


 もうすでに彼は中に入ったらしく、姿が見当たらない。

 フィーネが中に入ろうかと迷っていると、彼が扉から出てきた。

 そんなロバートの背中には、これでもかと魔道具が詰め込まれたバックがある。


「え……どこに行くの?」


 すごく、嫌な予感がした。

 ロバートは答え合わせするかのように、あっさりと答えた。


「アイツらを助けに行く」


 フィーネは思わず耳を疑った。

 彼は構わず、そのまま真剣な顔で続けた。


「今は危ないが、夏とか安全な時期に森の中に入ったことがある。

 だから、焚火の材料が取れるスポットはある程度分かる。

 その場所を探しまくれば、たぶん見つかるはずだ」


「そ、そんなの……危険だよ……」


 フィーネは強く自分の服をつかんだ。

 そして自分の恐怖を、恐る恐る口にする。

 決してそうならないように願って。


「だって……あなたのお父さんが言っていたじゃん。

 今は飢えた野生動物がいて危険だって……

 ねぇ、どうしてそこまで彼女達のために命を張れるの……?

 下手したらロバート……あなたまで危険な目に合っちゃうよ……!」


 胸の痛みに耐えられなくなり、フィーネは目から涙をポロポロと溢し始めた。

 ロバートは一瞬、思わずたじろいだ。

 しかしいつもの優しい笑顔を見せると、彼女の頭をそっと撫でた。


「確かにアイツらは、オマエを傷つけた。

 だがそれはそれ、これはこれだ。

 フィーネ、オマエはこのままアイツらが死んでもいいのか?」


「……」


 体がこわばってしばらく動けなかった。

 しかしやっとの思いで頭を微かに動かし、彼の質問を否定した。


「日が沈むまでもう時間がない。

 急いで見つけないと、どうなるかわかったもんじゃない。

 安心しろ、身を守れそうな魔道具は全部ここに詰め込んだから」


 ロバートは自慢するように背負ったバックをパンパン叩いた。



 本当は大人達に全部任せるべきなのだろう。

 でも彼の言うとおり、時間は限られている。

 もし捜索隊が間に合わなかったら、シルヴィ達が生きて帰れる確率が下がる。

 それに覚悟を決めたロバートを説得することなんて、フィーネにはできない。


「ぐすっ……絶対に、無事に帰ってきてね?」


 フィーネはそういうことしかできなかった。

 ロバートはにっこりを笑うと、一目散に森の方へと駆け出した。



 残されたのは、心配することしかできないフィーネただ一人。

 彼女は彼が見えなくなっても、ずっとロバートが消えた方角をずっと眺めていた。

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