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3. 悪いのは両方

 シルヴィとロバートは殴られた勢いで、同時に顔面が雪の中にめり込んだ。

 かなりの力だったらしく、2人はしばらくそのまま地面に突き刺さった状態になっていた。

 それを見た怖い男は、2人の頭を鷲掴みして引っこ抜く。

 そしてそのままその場に正座させ、仁王立ちで2人を睨みつけた。


「……テメェら、何で喧嘩なんかしてやがった?」


「……」


 2人は俯いたまま何も言わなかった。

 それに苛立ったのか、男は鬼の形相のまま鈍い音で舌打ちをした。

 ビビッてロバートとシルヴィは肩を跳ねさせるも、無言を貫いていた。

 やがてしびれを切らしたらしく、男の矛先がフィーネの方に向いた。


「――ひっ!?」


 野性味のある髪に、傷のあるごつごつとした顔。

 体も筋肉で分厚く、只者ではないのが一目で分かる。

 そんな彼に似合わない獣人の耳としっぽが生えているのだから、尚更恐怖心をそそられる。

 フィーネは反射的に頭をひっこめてしまった。



 男は大きなため息を漏らした。

 その後ロバートに近づいたかと思うと、彼の顔を無理やり上げた。

 そして強制的に目を合わされ、ロバートから脂汗が噴き出し始めた。


「……何を黙ってるんだ、あ゙ぁ?

 親父にチクるぞ、ロバート」


「――っ!?

 分かりました、分かりましたから!

 そんな怖い顔で迫るのをやめてくれ、クライドおじさん!!」


 クライドと呼ばれた男は、渋々ロバートを解放した。

 ロバートはそれでも怖気づいてただ唇を震わせていたが、やがて少しずつ開いていった。

 その間シルヴィはこっそりと抜け出そうとしたが、クライドの恐ろしい一瞥ですぐに断念した。


「……コイツが、その……毎日フィーネをいじめるから……

 懲らしめてやろうと思って……」


「……それは本当か?」


 クライドはシルヴィを睨んだ。

 だが彼女はぶるぶると震えるだけで、何も反応しない。

 仕方なくクライドは、再びフィーネの方を見た。

 フィーネも一瞬背筋が凍ったが、必死に肯定するように頭を何度も縦に振った。


「そうか……なら2人まとめて説教だ」


「な――」


 クライドは有無を言わさず、2人の首根っこを掴んだ。

 そして雪に深く足を沈ませながら、2人をズリズリと引きずっていく。

 まるで子供を誘拐する鬼のように。


「ま、待てよ!

 何でオレまで怒られないといけねぇんだよ!?

 悪いのは全部コイツだろ!?」


「…………あ゙?」


 抵抗するロバートに対して、クライドは般若のような顔で振り向いた。

 その瞬間、ロバートは置物のように固まってしまった。

 一方のシルヴィは、既に恐怖で失神している。


「喧嘩っていうもんはなぁ、売る側と買う側両方がわりぃんだよ。

 テメェの話が事実なら、確かにこっちの子猫の方をきっちり絞んなきゃいけねぇ。

 けどなぁ、話し合いとかもっと平和に解決する方法はあったはずだろうが。

 何ですぐ暴力に走ったんだ?」


「それは……」


「だからテメェにも説教すんだよ、ロバート。

 テメェは優しすぎるし、自分を顧みずに突っ走る傾向がある。

 それがどんだけ危ねぇことか、きっちり体に刻み付けてやる。

 ……覚悟しろ」


「――」


 ロバートは萎れた花のように元気をなくした。

 そして一切の抵抗を止め、ただ情けない顔で引きずられていく。

 その様子を、フィーネはただ眺めることしかできなかった。





 翌日、ロバートはいつものように来てくれた。

 でもピンと立っている耳は限界まで垂れ下がっており、明らかに元気がない。

 フィーネが無理矢理明るく振る舞っても、彼の覇気は戻る気配がない。

 想像以上にきつく叱られたようだ。


「ロバート……大丈夫?

 もしかして、手を上げられたの?」


 ロバートは力なく頭を横に振った。

 彼の顔には、昨日シルヴィにつけられた引っかき傷が生々しく残っている。

 しかしそれ以外の傷はなさそうだった。


「一晩中怖い顔で説教された……

 夕飯前に開放されたけど、顔の傷で父さんに喧嘩したのバレて……

 その後、父さんにも怒られた……」


 ロバートは体育座りをして、膝の中に顔を埋めた。

 クライドはどうやら彼の叔父らしく、遠くの都市に普段住んでいるものの時々帰ってくるらしい。

 その時は忙しいロバートの父の代わりに面倒を見てくれるそうだ。

 その度に何らかの事情で、クライドの雷が落ちるのが鉄板らしいが。


「もうおじさんに怒られるの懲り懲りだよ……

 特に今回はオレはなんにも悪くないし。

 フィーネをいじめるシルヴィが全部悪いし。

 はぁぁぁぁ……」


 ロバートは深い溜め息を漏らしたあと、ハッとしたように自分の口を抑えて周囲を見回した。

 今の発言を聞かれたら、またクライドに怒られると思ったのだろう。

 でも幸いにもあの強面の大人はおらず、ロバートはホッと胸を撫で下ろした。



 しかしフィーネは違った。

 ロバート元気そうだということには安心している。

 なのに彼女も凄く悲しい顔をしていた。


「…………いで」


「ん?」


 ロバートは上から顔を覗かせているフィーネを見上げた。

 頭の上半分だけ出している彼女の目は、涙でうるうるしていた。

 予想もしていなかった光景に、ロバートは豆鉄砲を食らったような顔をした。


「……もう、二度と喧嘩しないで!

 ウチのために彼女とぶつかってくれたのは嬉しいよ?

 でも、でもそれ以上に……ロバートが傷つくの見たくないよ!

 すごく怖かったんだから! うぇぇぇぇ――!」


 フィーネは耐えられなくなり、その場で泣き出してしまった。

 溢れる涙はまるで雨のように、下にいるロバートの顔にポタポタと垂れた。

 

 ロバートは何が起きているのかしばらく分からなかった。

 でもフィーネの泣き顔をまじまじと見ていると、自分が間違ったことをしたことをやっと自覚した。

 ロバートは立ち上がると、ジャンプして窓によじ登った。

 そして目の前のフィーネの頭を優しく撫で、少し不器用な笑みを浮かべた。


「……悪かったよ」


「うぅ……ぐすっ……」


 フィーネは少しずつ落ち着きを取り戻した。

 しかしやっと泣きやんだと思った矢先、突然窓から離れた。

 そして手元にあった布団を引き寄せて、そこに顔を埋める。


「……許さない」


「えっ!?」


 思わずボソッと漏れた彼女の言葉に、ロバートは思わず動揺した。

 かなりあたふたしていて、目が色んなところに泳いでいる。

 それを見てフィーネは、ほんの少しだけ心がすっきりした。


「……許してほしいなら、約束して。

 ウチが外に出れるようになったら、一緒に雪合戦してよ」


「――」


 ロバートは拍子抜けな顔をした。

 フィーネは少し恥ずかしいのか、更に顔を布団の中に隠そうとした。

 でもすこし赤くなった目は、ずっとロバートを見ている。




 ロバートは、フィーネのそんな照れ隠しが可笑しくて吹き出した。


「ぷっ……あははは!

 そんなのお安い御用だ!

 いいぜ、約束だ!」


 ロバートは眩しい笑顔をして、親指を立てた。

 対してフィーネは顔を真っ赤にしたかと思うと、そのまま完全に顔を隠してしまった。

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