アウトオブあーかい部! 78話 応援しますっ!
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、教頭先生のお家。
「さあみどりちゃん。遠慮しないで、たくさん食べてね♪」
「……いっぱい食べて強くなろうっ。」
「は、はい……っ!」
(なんでこんなことに……。)
時は少し遡って、お昼。
猫カフェ『キャットハウス鶸田』。
「みどり、ちゃん……?」
「いきなりごめんなさい。……落ち着くまで、こうしていても?」
「う"ん……、」
「あらあら♪」
教頭先生の親友であり、白ちゃんの母である白久雪は、度が過ぎた恥ずかしがり屋を克服し、愛娘の白ちゃんに大好きと言うべく、相手をネコ→みどり先輩と順調にステップアップしていった……。
「あの、応援してますから!雪さんのこと……!」
「!?」
みどり先輩のまっすぐな瞳を見て、抱きしめられていた雪は咄嗟にみどり先輩を振り払い、教頭先生の後ろに隠れてしまった。
「あ……。」
「ちょっと、雪ちゃん……?ごめんなさいね。やっぱり急には変われないみたい。」
「……///」
雪は教頭先生の肩からひょっこりと顔を覗かせ、
「っ!?///」
またすぐに顔を引っ込めた。
「あはは……。」
「ところでみどりちゃん、」
「はい。」
「応援ついでに『お願い』なんだけど……、
……というわけで、教頭先生直々にお誘いを受けて、みどり先輩は教頭先生のお家にお泊まりをすることに。
「さあみどりちゃん。遠慮しないで、たくさん食べてね♪」
「……いっぱい食べて強くなろうっ。」
「は、はい……っ!」
「「「いただきます(♪)。」」」
「…………お、美味しい……!」
「べ、別に普通だと思うのだけど……///」
「まったまた謙遜しちゃってぇ。雪ちゃんの手料理、お金取れるわよねぇ?みどりちゃん。」
「はいっ♪♪」
「ううう、うるさいっ!?///食事中に喋るのはマナー違反なんだからっ!///」
「まったく……。ごめんなさいね?」
「い、いえっ!?」
「……!」
雪は無言で絶対零度の威圧感を放っていた。
(これは子ども怖がるな……。)
夕食を終えると、
「いや〜驚いたわねぇ。まさか雪ちゃん並みに食べる子がこの時代にいたなんて。」
「あぅ……///」
食卓には、6人前はありそうな、空になった大皿が所狭しとひしめき合っていた。
「ちょっと牡丹ちゃん!?人のことフードファイターみたいに言わないの!///」
「冗談よ冗談。いっぱい食べる子は見てて気持ちが良いわ♪……じゃあ洗い物は私がやっちゃうから、2人はのんびりしてて?」
「いや、悪いで…………あれ?雪さんは?」
「あの子、ま〜たお部屋に篭っちゃったのね……。」
「また?」
「雪ちゃんは2階の1番奥のお部屋にいるわ。じゃあ……『お願い』ね?」
「はい!」
教頭先生からの『お願い』は、『雪に構い続けること』。極度の恥ずかしがり屋を克服するするためのものだ。
(いきなり入って怒られないかな……。でも教頭先生直々のお願いだし、)
音を立てないように、教頭先生に言われた部屋のドアノブをゆっくり捻り中を除くと、
『〜、』
中で雪さんがタオルケットを被って、カーペットの上で地面に落ちたソフトクリームのようにとろけていた。
(これは……見なかったことにしよう。)
みどり先輩は音を立てないようにドアを閉め、閉じたドアをノックした。
「雪さん、入ります。」
『……どうぞ。』
みどり先輩がドアを開け部屋に入ると、さっき覗いた光景が嘘であるかのようにタオルケットは綺麗にたたまれ、雪は日本人形のように伸びた背筋でカーペットに正座していた。
「ええっと……、」
こちらに絶対零度の威圧感を放つ雪を前に、みどり先輩がどう話を切り出そうかと迷っていると、
「『どうぞ』と言ったのが聞こえなかったの?……さっさと座りなさい。」
「はいっ!?」
身体の芯まで凍てつきそうなドスの聞いた声に、みどり先輩は震えながら雪の隣に正座した。
「……椅子か、ベッドがあるでしょう。」
「でも雪さんを見下ろしちゃいますし……。」
「それもそうね。私の配慮が足りていなかったわ。」
雪は立ち上がると、ベッドに腰を下ろした。
「……失礼します♪」
すかさずみどり先輩は雪を追いかけ、隣に腰を下ろした。
「……何故、また隣に?椅子が空いて
「なんででしょうね?」
「え……、いや、だとしてもこんな怖い人の隣なんて
(怖がられてる自覚はあるんだ……。)
「……いえ、隣なら顔を見なくて済むし、合理的な判断ね。」
「そんなんじゃないですって……。」
「……牡丹ちゃんに頼まれたのでしょう?」
「え、
「でなければ、こんな冷酷無慈悲の雪女と同じ空気を吸おうだなんて思わないでしょうし。」
雪はみどり先輩の方を頑なに向かなかった。
(きっと雪さんなりに、怖がらせないようにしてるんだろうな……。)
「……ごめんなさ
「謝らないでください。」
「え……?」
「そうやって決めつけるの、良くないです……!」
「いえ、でも
「でもじゃありません。だから娘さん達から勘違いされちゃうんじゃないですか?」
「う"……!?」
「雪さん、素敵な人なんですから、あんまり卑下しないでください!」
「……素敵なわけありません寧ろ最低です。あなたも見たでしょう?他人の力を借りなければ、動物相手にすら好きの一言も言えない無様な私の姿を。」
「ええ、見ました。とってもカッコよかったです……!」
「へ?カッコ……いい…………?」
「そうですよ!傷だらけになっても諦めないで、やり遂げたじゃないですか!?」
「そ……そんなの、当然です。寧ろ、我が子が物心ついてから一度も好意を伝えられていないことを恥ずべきです。」
「そんなこと知りませんっ。」
みどり先輩は大げさにそっぽを向いてみせた。
「ええっ!?」
予想外すぎるみどり先輩の返答に驚いて、雪が思わずみどり先輩の方を向くと、
「やっと目が合いましたね♪」
「!!??/////////」
雪の絶対零度の仮面が音を立てて砕け散った。
「だ、だだっ……だからなんだと言うのっ!?///」
雪は慌てて両手で自身の顔を覆い、そっぽを向いた。
「何でもありません。ただ思ったことを言っただけですから。」
「…………そう///」
雪は指の隙間からみどり先輩の方を除いていた。
「とにかく、雪さんは素敵な人なんです!最低な人なんかじゃありません!」
「みどりちゃん……。」
「雪さんが娘さんに好意を伝えられなかったのは、恥ずかしかったからなんですよね?」
「……り、理由なんて関係ありません。事実、きちんと愛情を注がれなかった澄河ちゃんと琥珀ちゃんは、私を最低な人間と認識しています。」
「でも事実、私は雪さんを素敵な人と認識しています。」
「……。」
「私、応援してますから!雪さんのこと……!」
「なんでそこまで……いや、牡丹ちゃんに頼まれたから
「じゃないですっ!大事な人のためにボロボロになって、涙を流せる人を応援したいと思うのは……そんなにおかしなことでしょうか。」
「…………いえ。」
雪はまた、今度はゆっくりとみどり先輩から顔を背けた。
「私もみどりちゃんみたいにまっすぐ心のうちを伝えられれば、もっと違う今があったのかもしれないわね……。」
「じゃあ変えましょう……未来!」
「え?」
「私が雪さんの目に、耳になりますから♪」
みどり先輩はPINEの画面が映ったスマホを差し出した。
「…………。」
「2人で教頭先生を出し抜いちゃいましょう♪」
「……みどりちゃん、交渉が上手いのね。」
雪はPINEの軽快な音でみどり先輩の提案を承諾した。
扉の前……
(私を出し抜く、ねえ……。琥珀ちゃんが帰ってきて雪ちゃんも本気になったみたいだし、しばらくみどりちゃんに任せてみようかしら♪)
みどり、雪(2)
雪:まだ起きてる?
みどり:はい
みどり:あの、お話があるならお部屋行きましょうか?
雪:いいのこのままで
みどり:もしかして、ウキウキしてます……?
雪:すっご〜い!?なんでわかったの!?
みどり:やり取りが完全に修学旅行のアレなんですよ……
雪:みどりちゃんって、夜先生に怒られるまで起きてるタイプ?
みどり:見つかるのは三流です
雪:ひゅ〜♪
みどり:雪さんこっちが素なんですね
雪:べ、別に良いじゃない!?
みどり:そっちのが良いと思います
雪:え、な、何!?もしかしてみどりちゃん私を口説こうとしてるの!?
雪:キャー///
みどり:それだけは無いです
雪:ひっどーい!?
雪:もしかして心に決めた人が……?
みどり:雪さんには関係ありませんので
雪:否定しないんだ〜?
雪:キャー///
みどり:このトーク澄河さんに見せてもいいんですよ
雪:すみませんでした
みどり:まあ、これからもよろしくってことでおやすみなさい
雪:おやすみなさい♪