「上級国民としての選択」
「うっ...?ここは...」
体を起こすと、そこには大きな椅子と綺麗な女性がいた。しかしその他には何も見当たらない。どこかに誘拐されたか?私はこの国にとって重要な存在だからな...。それにしてもSPどもめ、高い金を払っているのにこういう時は役に立たんな、無能どもめ。それよりもここはどこだ?
困惑する私に目の前の女性が声をかける。
「お目覚めのようですね、岩破繁さん。具合はいかがですか?」
「悪くはないが...ここはどこだ?君は誰だ?新しい秘書か?確かに最近、若い女の秘書が欲しいとこぼした記憶があるな。もしや君が?」
「いったい何を言っているのか分かりませんが、お元気そうで何よりです。お盛んですね」
「何のことか分かっているじゃないか。ぐふ、それでは...」
「そうですね、それでは、現状の説明から始めます。まず、あなたは亡くなりました。あなたが総理をしていた日の本では葬儀がこれから行われますので、次に向けて頑張りましょう」
「何を言っているんだ?ここは本当の天国だとでも言うのかな?」
「残念ながら...いえ、一概に残念とも言えないかも知れません。あなたにはこれから別の世界に転生し、その腕をふるって政治を行ってください」
「政治を...?」
そんなの私の得意分野ではないか。しかし根本的な疑問はまだまだある。
「その...政治を行って、どうするんだ?私はどうなるんだ?」
「治めてもらう国が良くなれば、あなたには日の本にて亡くなる前のタイミングで生き返れます。悪い話ではないでしょう?」
確かに、得意分野で成果を出せば生き返れる。そんな楽な条件でいいのだろうか。
「まだ疑問はあるぞ!なぜ私がこんな目にあわなければならないんだ!急に死んだと言われても納得できないぞ!」
「あなたは...国民からに支持率があまりに低く、またインターネットでも食べ方が汚いだの太っているだの醜いだの...まあ、その、散々言われていたんです。それは記憶にありますか?」
「あ、ああ...まあ...」
言われていた。インターネットを開くたびに悪口大会だ。一生懸命家族と仲間のために働いていたというのにまったく酷い仕打ちだと思っていた。
「それでですね、家で寝酒を飲んでいる最中にやはりインターネットの書き込みを見てしまい、悪酔いしていたのでしょうね、すべって転んでタンスの角に頭をぶつけました」
「それで?」
「それだけですね」
「......」
なんとみっともない。本当にこの私がそんな最期を?
「ま、まあ、要は生き返ればいいのだな。腕の見せ所だな。私は何をすればいい?」
「ええ、まあ、簡単に言うと未発展の国...名も決まっていない国で、民のためになる国を作り上げていただきたいのです。ただし、そこでは首相ではなくそこそこのポストから始めてもらいますが、よろしいですね?」
「あ、ああ...。今までもそうだったからな...勝手はそう違わないだろう...」
「他に質問は?」
「...とりあえずやってみるよ。現場へ向かわせてくれ...」
やれやれ、とんだ茶番だ。さっさと終わらせなければ...。
そう思いながら、私は光に包まれた。
岩破がいなくなった後、女性は呟いた。
「あのザマで本当に国を救う気でいられているのかしら...国を背負うということの重責を、甘く見ていそうね。しっかり叩き直されてくれないと...確認すべきこともせずに本当に大丈夫かしら」
岩破はまだ、これから起こることを”真剣に”考えられていなかった。