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ルッソ

「私に、貴方の力を貸して下さい!」

 最初に俺の力を頼ってきたのは、人間の女だった。名は忘れた。確か、「聖女」とか呼ばれていたな。

「お願いします。貴方の力が必要なんです。」

 必死に頼んでくるから、暇つぶしも兼ねて力を貸してやった。

「ありがとう御座います!魔剣様!これで、奴らを!魔族を滅ぼすことができる!多くの人々を傷つけ、私の家族を奪った魔族を!」

 女は息巻いていた。だから、俺も力を貸してやった。

 女は戦場へ向かった。戦場には沢山の人間と魔族が対峙していた。女は人間達の先頭に立った。

「魔族達よ!今ここで、貴方達を葬り、この戦争を終わらせます!」

 女がそう言うと戦争が始まった。魔族達は一斉に女を狙った。だが女はそんな魔族を前に俺をただ一振りしただけだった。

 魔族達は皆、俺の一撃で跡形もなく消え去りあたり一面に戦い前の静かさが戻った。ただ一つ違うのは、魔族が一人もいないことだ。戦争は終わった。

「グフッ、コレが、魔剣の、力、か、」

 だが、女がすぐに倒れた。女は俺の力に耐えることができなかった。そのまま女は眠り、この戦争で唯一の人間の死者となった。俺は持ち主がいなくなり、また長い眠りについた。





「ついに手に入れたぞ!伝説の魔剣!」

 次に俺の持ち主となったのは魔族の男だった。奴の名も忘れた。

「間違いない!文献にあった伝説の剣だ!かつて人間の聖女が自らの命と引き換えにこの剣を使い数多の魔族を葬ったと言う伝説の魔剣!それが、今、この俺の手に!さぁ、人間どもよ!復讐の時間だ!かつて貴様らが使い多くの魔族を葬ったこの魔剣で、今度は我ら魔族が使い多くの人間を葬ってやろう!

さぁ魔剣よ!我ら魔族に力を貸せ!」

 男は俺の事を知っていた。力も、前の持ち主も。だから俺は男に力を貸してやった。

 男は戦場に向かった。戦場には沢山の魔族と人間がいた。前と同じだった。男は叫んだ。

「見よ!人間どもよ!これがかつて貴様らが使用し数多の魔族を葬った魔剣だ!そして今からお前達を葬り去る魔剣でもある!」

 言い終わるや否や男は俺を振り人間達を葬った。戦争はまた一瞬で終わり、ただ静かな時間が過ぎた。

だがその時間もすぐに終わった。

「グフゥ、、、まだだぁ!私はまだ!人間どもを葬らなければならないのだぁ!そうしないと、、、あの子のか、た、き、、、を、、、」

 男はそう言い残して死亡した。この戦争唯一の魔族の死者だった。

 俺の力は強過ぎた。まともに扱おうとすれば持ち主の体が持たないくらいに。俺は絶望した。この世界には俺を扱ってくれるものなどいないと悟った。俺はその辛い気持ちを隠すようにまた眠りについた。





 どれくらい寝ていただろうか。どこからか魔力を感じる。遠い。だがはっきりと感じる。今まで感じたことのない強さを。ひょっとすればコイツなら、俺を使えるかもしれない。俺はそう考え、そいつの元へと飛んだ。


 出てきたのは前の持ち主達より遥かに若い人間の男だった。だがその強さは前の持ち主より遥かに上だと感じた。

「お前は誰だ?何でうちの庭にいる?」

「俺は魔剣ルッソ!魔剣の王である!」

「馬鹿にしてんのか?」 

 俺は驚いた。今まで俺と意思の疎通が出来るものなどいなかったからだ。同時に確信した。彼こそが俺の持ち主だと。俺は希望に満ち溢れた。もう俺を存分に使うことのできる奴などいないと諦めていた。だが彼が現れた。彼なら俺の力を存分に使いこなしてくれると確信した。だから俺は俺の持つ全ての力を彼に貸し、使ってもらおうと思った。しかし、

「いらないです」

 意味が分からなかった。俺が彼と言う存在を求めるように、彼もまた俺を求めていると思っていた。俺はまた絶望した。


 しばらくすると彼が手に剣を持って戻ってきた。だがその剣は意志も、魔力も宿っていないそこら辺にある弱っちい剣だった。しかし彼はこの剣があるから俺はいらないと言った。やはり意味が分からなかった。俺が長年求めた俺を扱える存在が俺なんかよりもちっぽけな剣に取られたことに無償に腹が立った。だから、俺はその剣を粉々に砕いた。

  彼に使われたかった。彼の為に力を振るいたかった。彼のそばに居たかった。俺を扱える唯一の存在である彼に。

 俺はもう一度彼に己を使ってくれと頼んだ。しかし断られた。俺は悲しかった。悔しかった。それでも、諦められなかった。俺より弱い他の剣に彼を取られるのが嫌だった。

 その時初めて気付いた。彼が俺を特別扱いしていないと言うことに。彼にとっては俺は特別でも何でもなく、ただ喋る剣だったのだろう。そこら辺の剣と俺は彼にとってはただの剣でしかないと気付かされた。

 俺は、、、いや、俺と言う一人称は俺には相応しくないな。私はもう一度彼に、、、いや、私如きがこのお方を彼などと気安く呼ぶなどあってはならない。

 私はもう一度ご主人様に頼んだ。

「私をご主人様の剣として使って下さい。必ずご主人様の力になりますから。」

「分かった。使ってやる」

 ご主人様はそう答えて下さった。

 私はなんて愚かだったのだろう。初めからこのお方と自分の差を考えれば何度もご主人様に頼んで迷惑をかけることもなかったのに。だがご主人様は優しいお方だった。

「ルッソ!これからよろしくな!」

 そう私に優しく声をかけて下さった。その言葉だけで私は今まで生きてきた中で最高の幸せを味わうことができた。その幸せを味わっていると突然、私の体が変化した。


 私の体がご主人様と同じ人間のような体になった。理由や原理は全く分からなかった。だがこれだけははっきりと分かった。

 このお方こそがこの世界で唯一の私のご主人様という存在で、私はそんなご主人様に使われる為に生まれた存在であると言うことだ。

「はい。これからご主人様の力になれるよう頑張ります。」


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