聖女はシーフと一緒に堕天しました[短編]
「…__ラ!」
「…_イラ、起きて、ライラ!」
ーー誰かの声がする。
…あれ、何があったんだっけ…
身動きが取れない。無理に動くと身体中が痛む。
そして段々と思い出す。数日前の惨劇を…
私は冒険者、「魔物」と呼ばれる人々の生活を脅かす生き物を討伐する者だった。
「その日」は仲間と共に討伐の依頼を受けて……_
特異種、普通とは掛け離れた力を持つ魔物に出会ってしまったんだ。
戦ってもまるで歯が立たなくて…
隙を見計らって逃げた所でシーフが転び、体制を立て直せなくて…
そこへ向かって来た攻撃を代わって受けた勇者、剣士は…
そっか。あの2人はシーフを攻撃から庇って…
…_もう、この世にはいないんだ。
横から聞こえる私を呼ぶ声は…
シーフくんかな。
ずっと私を呼んでくれる。
起きてって言ってくれる。
あの2人の事、抱え込んでいませんように。
_そう考えながらゆっくりと目を開けた。
「目が覚めたんだ… _おはよ、ライラ…」
優しくシーフくんが話しかけてくれる。
「おはよう、シーフくん」
周りを見渡すと隣にベッドが並んでいて
まだ目を覚さない弓士の姿があった。
「弓士も怪我、してたんだ」
「弓士…ミーちゃんはライちゃんを庇って…」
私も、仲間に怪我させてしまってたんだ。
シーフくんの表情が暗い。
元気を取り戻して、と声をかけた。
「シーフくんは悪くない…からね?…今回は運が悪かったんだよ、抱え込まないで、ね!」
「…」
明るく振る舞っても表情は戻らない。それどころかさらに暗くなっている気もする。
「ねえ、ライちゃん…」
シーフくんが話しかけてくれた。
「僕さ、特異種に出会って逃げる時に転んじゃったでしょ?あの時、僕が転ばなければ…_剣士も、勇者も、生きていたと思うの…。僕が失敗しなければ、きっと皆生きてたの。「僕のせい」で_…みんないなくなっちゃったの…」
「シーフくんが悪いわけじゃ…な、仲間を奪っていった特異種、それが悪かったんだよ!」
「そっか…そうだよね…あいつが奪いやがったから…」
シーフくんの言葉が、口調が変わっている。
どうしてか、嫌な予感がする。
シーフくんから黒いオーラが見えてしまう。まるで、いつも戦っている魔物かのような…_
身体中が、「これは危険だ」と訴えかけている。それでも私はシーフくんを信じたかった。
安全を考え防御結界の術式を展開しながら、話の続きを聞き始めた。
「僕の大事な仲間の皆はあいつ…あの魔物に…あの特異種に奪われたんだ。皆ともっと一緒に居たかったのに…楽しく過ごしたり、一緒に討伐に行ったり…もっと…もっと!!!」
「もう、仲間の皆を奪われたくない。離れ離れになりたくない。」
「でもあいつは、生き残った聖女、ライラ…弓士、ミリンの命も奪っていくかもしれない。だから僕、考えたんだ。」
「先に僕が奪えばいいんだ…って」
その瞬間、シーフくんの身体が変化し始めた。
青空のように透き通り、澄んだ水色だった瞳は紅く、暗く変化し、瞳と同じ色だった髪も毛先が黒く染まっていった。
まるで、「堕天」してしまったかのように_…
「何…どう、したの?どうして急に、そんな…?」
シーフくんは「あいつに奪われたせいで」…って…
もしかしたら私が元気を取り戻してほしいとシーフくんに掛けたあの言葉が
「堕天」への道になってしまったのかもしれない。
「…!」
魔力がどこかで練り上げられている…魔法の発動をしようとしている。
咄嗟に防御結界を展開すると、目の前に魔法が向かって、結界に弾かれていた。
シーフくんから私に向かって来た魔法と同じ魔力が漂っている。
きっと今の魔法はシーフくんが撃ったのだろう。
…でも、おかしい。
シーフは様々な分野に対応できる万能型、それゆえ攻撃力、特殊攻撃力はあまり高くないはず…
そして、シーフくんはあまり魔法が得意では無かったはずだ。
…思い出した。ある時、聞いた話を。
堕天…闇に堕ちた人は、堕ちる前よりも強大な力を手にする事がある…って
結界にシーフくんの魔法が当たったことで、離散した結界が自動反撃形態へ再構成され、攻撃魔法が発動した。
結界の放つ魔法はシーフくんの前に出現した防御結界に防がれ、消滅した。
シーフくんの目の暗さが目立った気がした。
「ライラちゃん…僕、は敵、なの?」
言葉を聞いて、辛くなる。
シーフくんは仲間だった。それなのに私は攻撃してしまった。
仲間を失ってしまったのは私が助けられなかったから?
聖女の固有魔法、回復魔法がもっと高度だったら…
虫の息だった彼らも助かっていたかもしれない。
今の私では聖女として人を救うことができない。
だから私は…
「強くなりたい」
視界が暗転し、体に光がまとわりつくような感覚が襲う。
しばらくして、体を流れる力を強く感じる。魔力を感じる。感情の高ぶりを感じる。
[対象の進化が完了しました。]
[ライラ の魔力、聖力が大幅に増加]
[対象の容姿のアップデートが完了]
[瞳:紅,黒 髪:毛先を染色]
パーティの生き残り、シーフとライラは
_魔族陣営に加わった
初の小説、作成時間およそ3時間。続きは気分。