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レイちゃんが部長を見送っていると、鷹羽雷蔵が私に話しかけてきた。
「炎泉の娘と知り合いなのか?」
「はい。炎泉さんは、私たちが以前所属していた部活の部長を務めていたんです」
「ほう。珍しい縁だのう」
と、顎髭をしごく鷹羽雷蔵。
「炎泉さんの家は北海道にあるんですよね?」
私は思い切って話を振ってみる。
立ち聞きしていたのがバレるが、あの立ち位置なら聞こえて当然だしね。
「あれだけ近ければ聞こえるか……。その通りじゃ。今の十家は東京に集中しておるが、元は全国の強者の集まりじゃった。炎泉家は北海道の猛者でな。あやつからすれば、掃討戦が本土で止まって、北海道が妖怪で溢れかえっている現状が我慢できんのだ」
十家っていうのは霊術師の幹部みたいなやつだよね?
詳しく知らないけど、そんな感じで覚えておけばいいか。
「それは難しい話ですね」
「そうじゃ。だから難しい話は大人に任せて、子供は釣りでも楽しんでおけばよい。ほれほれ、行くぞ」
そう言った鷹羽雷蔵は、私たちの背を押した。
私たちも、その雰囲気に乗って釣り場所へ移動することにする。
その後、鷹羽雷蔵は私たちに釣りのいろはを一通り教えて下さると、他のグループの様子を見に行った。
私たちにだけべったりと付いていると、特別懇意にしていると誤解を与えるためだろう。
そうならないよう全体的にまんべんなく回り、それが終わるとお付きの人と一緒に一人で釣り始めた。
――二時間後。
「また釣れましたわ! マオちゃん、見てください。ほら」
針にかかり、ピチピチと跳ねる魚を掲げて大喜びのレイちゃん。
「わぁ、凄いね……。爆釣だよ」
私は、いくらかトーンダウンしてしまった声でレイちゃんを称えた。
「げ、元気を出してください。きっとマオちゃんも釣れますわ」
レイちゃんが私の肩にそっと触れ、励ましてくれる。
……どうやら私に釣りは向いていないみたいだ。
現在、私の釣果はゼロ。完全な坊主だった。
レイちゃんは慰めてくれたが、多分この先もずっと釣れない。
その理由も、なんとなく掴めてきた。
川の水は澄んでいるので、水中の様子がある程度わかる。
注意深く観察すると、私が垂らした釣り針を見た魚が逃げていくのが見えた。
あの動きは分かる。サバイバル訓練時に見た。殺気を感じて逃げ出す獲物と同じ動きだ。
陸上生物が相手なら、殺気と気配を殺して近づく術をマスターしている。
が、釣り針から漏れ出る殺気を消す練習は今までやったことがない。
多分、釣り竿を握っていると、気配が針まで伝播してしまうのだろう。
今日の私は、エンジョイする気満々だ。
つまり、狩る気配がだだ漏れってわけ。
それが殺気に変換されちゃってるのだ。
こういった状況での気配のコントロールはやったことがない。
残念だが、今日中に殺気を消すのは無理だ。どう考えても、それなりの練習が必要になる。
まずい。このままでは釣果がゼロのまま終わってしまう。
折角こんなところまで来たんだから、自分で釣った魚を食べたい。
なにより、坊主のままでレイちゃんに気を遣わせるのが嫌だ。
……こうなったら、何とかするしかない!
となると、釣り以外の方法で魚をゲットしてしまうのが手っ取り早い。
どんな方法でいくか……。
一番得意なのは手づかみだ。かといって川に飛び込むのは悪手。
お嬢様が一杯いるこの状況で選択するには、あまりに漁法がワイルドすぎる。
現状況では、なるべく周囲に気取られず、釣りをやっているように見せかけて魚を獲るのがベスト。
ならば……。
かがみこんだ私は、小石を大量に握りこんだ。
次に、その中の一粒を親指と人差し指で挟む。
そして、川で泳ぐ魚を見つけ、狙いを定めていく。
今だ! と思った瞬間に、強烈に引き絞った親指と人差し指で小石を弾いて射出。
弾いた小石は、最低限の水しぶきを上げ、水中を直進。
そのまま、魚の下腹を掠めるようにして命中した。
魚は小石が当たった衝撃で弾かれ、川から飛び出す。
――ここだ!
「はっ!」
私は竿を振って餌を付けていない針を飛ばす。目指すは魚の口だ。
昔習った鎖鎌の要領で釣り糸を操り、釣り針を魚に引っ掛け、一気に引き寄せた。
よし、ゲットだ。
「いや~、やっと釣れたよ~」
と、にっこり笑顔でレイちゃんに魚を掲げて見せる。
ふぅ、これで何とかなったよ。
「……わたくし、一部始終を見ていましたわ」
険しい顔をしたレイちゃんが、私に鋭い視線を向ける。
「……え、なんのこと?」
「とぼけても無駄ですの! マオちゃん、それは釣りとは言いませんわ。どちらかというと狩猟です」
「くっ……、それでも私は!」
私は自分で編み出した釣り技法を使い、追加で二匹釣り上げた。
まあ、この位釣っておけば面目躍如だろう。
しかし、ここで思わぬ事態に発展する。
「わ、わたくしもやってみたいですわ。マオちゃん、どうやって小石を飛ばすのですか?」
と、私の両腕を掴んだレイちゃんが、上目遣いに尋ねてくる。
どうやら、私の釣り方に好奇心を刺激され、どうしてもやりたくなってしまったようだ。
「いや、レイちゃんは十分釣れているから、もういいでしょ。あんまり釣っても食べきれないよ?」
レイちゃんは、開始時からずっと釣れ続けていたため、かなりの釣果となっている。
これ以上はやめておいた方がいいと思うんだけど。
「あと一匹だけ。あと一匹だけ、その方法で釣ってみたいですの!」
ぎゅっと腕にしがみつかれ、ウルウルとした瞳でせがまれてしまう。
ぐ、この程度で篭絡されたりはしないから!
と、思ったのは三秒くらいだった……。
「わ、わかったから」
私は、レイちゃんのおねだりに陥落し、オリジナル釣法を教えた。
器用なレイちゃんは、全てをあっさりマスター。
ただし、命中精度や力加減は練度を上げる必要があるので、成功には至っていない。
「……む、難しいですわ」
難しいと言いながらも、川に向かって指弾を連射するレイちゃん。
凄い勢いで水しぶきが上がってるよ……。
「いや、上達速度がおかしいから。軽く教えただけで、それだけ出来るようになるのは、とんでもなく凄いことなんだよ?」
風切り音を出してマシンガンのように小石を放つレイちゃんを見て絶句する。
この感じ、身体強化を使っているのだろう。
ただ、川へ向かって打ち出すことができても、泳ぐ魚に命中させることに苦戦している。
進行ルートを予測して、前方の空間を狙わないと当てるのは難しいと思う。
アドバイスしてもいいけど、レイちゃんなら、そのうち気づくだろう。
数をこなすのは良い練習にもなるし、このまま見守ることにする。
私はそんな光景を背景に枝を拾い集め、かまどを組み、火を起こす。
霊気を使えば火種を作ることも出来るが、今回は全て人力でやった。
目立つわけにはいかないからね。
運営本部でクッキングセット一式を借りてきて、魚を下処理して串に刺す。
最後に塩とハーブを振り、魚を焼いていく。
私は魚が焦げ付かないように適度に串を回転させながら、レイちゃんの投石を見守った。
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