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こういう会話を何度もしているんだろうな、と思わせる雰囲気だ。
鷹羽アキラが肉食い放題を提案してくる辺り、ナナちゃんが金銭に関わることに食いつきがいいことをよく知っている感じがする。
「近くで会話を聞くのは初めてだけど、本当に仲がよさそうだねぇ。こんなのを見せつけられたら、荒れる人が出てくるのも頷けるわ」
「ええ。誕生日会の時、皆さんを引き離して正解でしたわ」
二人のやり取りを見た私とレイちゃんは、ちょっと遠くの空を見ながら、しみじみと呟いた。
「何の話?」
すると、雪沢智仁が顔を寄せてきた。
鷹羽アキラとナナちゃんがやり合っているので、向こうの会話に入りにくいのだろう。
「いえ、二人の仲が良いねって。すごく息が合ってる感じがするなあ、と」
と、かいつまんで話す。
「そりゃあ、二人は小学生からの幼馴染みだからね。ちなみに僕とアキラは幼稚舎から。別に張り合ってるわけじゃないけど、参考までに」
「ああ~……、そういえばそうでしたね」
以前、先生から見せてもらった画像のことを思い出す。
あの画像には小学校低学年くらいのナナちゃんと鷹羽アキラが映っていた。
どういう経緯で知り合ったのか興味があるが、そういったことを聞くのは止めておいた方がいいだろう。
そういった行動がナナちゃんに知られると警戒されてしまうからね。
「そう言えば、以前に小さいお二人が仲良く映っている画像を見せていただいたことがありますわ。あの画像を見ていなければ、ナナちゃんを社交の場でお見掛けすることが無かったので、最近にお知り合いになったのだと勘違いしていたでしょうね」
と、レイちゃんが当時の事を思い出しながら話す。
「まあ、家の繋がりっていうより、個人的な繋がりだからね。そういった場に出席することはないよ」
「へぇ~」
確かに。ナナちゃんの養父は先生だ。
先生は私が小さい頃、霊術を教えてくれた。
その際、教師として採用した理由が、金に困っていて派閥との繋がりが薄かったから、というものだった。
悪いけど、そんな先生が社交の場に呼ばれている場面が想像できない。
そうなると、養女であるナナちゃんが、今までそういった場に出て来ていないのも頷ける。
などと納得している間に、鷹羽アキラとナナちゃんは釣りのことで盛り上がり、勝負の話に発展していた。
「おい智仁、勝負するから行くぞ! お前たちも来るか?」
やる気満々で早く移動したそうにしている鷹羽アキラが、一応こちらも誘ってくれる。
が、ここで彼らと一緒に釣りを楽しむのは悪手。
霊術師の家の子たちから、いらぬヘイトを買ってしまうだろう。
そのことをお互いに察した私とレイちゃんは、アイコンタクトをして頷き合う。
ここは逃げの一手だ!
ナナちゃんには悪いけど、避難させてもらうとしよう。
「いえ、わたくしたちは今日が初めてですので、のんびりやりますわ」
「そうそう。こっちは二人で気楽にやっているので、気にせず行ってください」
「そうか、じゃあな」
私たちが断ると、鷹羽アキラはあっさり背を向け、早足で川の方へ向かいだした。
次いで、「またね」と、雪沢智仁が駆け足で鷹羽アキラに合流する。
最後にナナちゃんが、「じゃあ、また部活で」と、こちらに軽く手を振る。
そして、二人の下へ駆けて行った。
ナナちゃんを迎え入れた鷹羽アキラは、早速勝負の話を持ち掛ける。
「よし、負けたやつがコンビニに買い出しだ! 俺はアイスを買ってきてもらうからな」
「私もアイス。チョコ最中の一番大きいやつね」
「もしかして、僕が負ける前提で話してる? そもそも、ここからコンビニまでどれだけあると思ってるの。アイスなんて溶けるよ」
と、三人は賑やかに話しながら行ってしまった。
う~ん、こうやって見ていると、とても絵になる三人だ。
仲良しトリオって感じだね。
そんな感じで私たちが三人を見送っていると、彼らが遠ざかったタイミングを見計らったかのように、背後から声をかけられた。
「ちょっと、貴方たち」
振り向けば、両手を腰に当てて私たちを睨んでくる女の子が一人。
霊術師の家のリーダー格の子である灘蔵さんが仁王立ちで、こちらにきつい視線を送っていた。
その後ろには、ぞろぞろとグループ全員が勢ぞろい。なんとも不穏な空気が漂う。
「何か?」
敵意むき出しだったので、レイちゃんを庇うように前に立つ。
「えらくアキラ様と楽しそうに話していたじゃない」
「そうですか? 初対面だったので、軽く挨拶しただけですよ」
「初対面? フフッ、今まで一度も会ったことがないということは、たかが知れている家のようね」
「まあ、そうですね。うちは普通の家なんで」
裕福な家だと思うが、一般家庭の範疇だろう。
「え?」
と、ここでレイちゃんが「普通の家」という台詞に反応して疑問顔になる。
「レイちゃん?」
ちょっと、なんでそっちが疑問視してくるの。
予想外のところから、不意打ちを食らってしまった。
レイちゃんのせいで妙な間が空き、灘蔵さんが注意を引こうと咳払いする。
「そう。なら身の程をわきまえて今後アキラ様には近づかないことね。さもないと、どうなっても知らないわよ?」
と、あからさまな脅し文句を言ってくる。
そんなことを言われなくても、私から何かするつもりはない。
「こちらからは近づきませんよ。でも、向こうから来た場合は、失礼に当たるので最低限のご挨拶はさせていただくと思いますけど」
ガン無視はできない。そんなことをすれば相手の怒りを買ってしまう。
「それでいいわ。ふふ、貴方、自分の身分をわきまえていて、好感が持てるわ」
「はあ……」
灘蔵さんから好印象を得るも、嬉しい気持ちは微塵も湧いてこない。
彼女は、私に言いたいことを言って満足したのか、今度はレイちゃんに視線を向ける。
「雲上院さん」
「何でしょう」
「もともと貴方は鷹羽家が関連する場には、あまり参加されていないようだし、釘を刺す必要性は薄いと感じるけど、一応言っておくわ。霊術師と婚姻を結ぶのにふさわしいのは、同じ霊術師。つまり、貴方の出る幕はないということよ、お分かりかしら?」
「意味は理解しました。ですが、もとよりそのつもりはありませんので」
思わせぶりなことは一切言わずに、きっぱり断るレイちゃん。
これは意外だ。今のレイちゃんはマンガの雲上院礼香とは違う。
とはいえ、鷹羽アキラに対して何の感情も抱いていない状態にまでなっていたとは。
「なら結構よ。貴方が働きかけて、資産家の子たちを引き下げてくれたみたいだし、感謝しているわ」
「それは貴方がたのために行ったことではありません。彼女たちのためを思ってのことです。誤解なきようお願いしますわ」
どこまでも真顔で素の対応。ひたすら冷静に受け答えていくレイちゃん。
灘蔵さんは、レイちゃんが一切心を乱さない様を見て、逆に感情的になっているように見えた。
「ふん、まあいいわ。行くわよ!」
彼女は、そう言って片手を上げて回れ右。
手下を引き連れて去っていった。
そんな離れる集団の中から、「後は、あの女狐を引きはがすだけ……」なんて会話が漏れ聞こえてくる。
女狐とは、もちろんナナちゃんのことだろう。




