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「私も出来たけど。どうかな?」




 と、地面を指さす。


 そこには砂で作った蟻がトコトコと歩いていた。


「蟻か、着眼点は悪くないな。目立たないし、気づかれにくい。だが、それだと視点が地面に近すぎる。あと、速度が出せないな。そう考えると、探査には使いにくいかもしれん」


 良い出来だと思ったけど、先生の評価は今いち。


 実際、指摘事項は納得のいくものだった。


「なるほど……。もう少し考えてみます」


 探査術は、すぐに習得できた。が、とある問題が発生した。


 それは、私の属性では作り出したものを飛ばせないというものだ。


 土と木の属性は重さとの関連が深く、飛行させるのが難しいのだ。


 鳥なんかを作っても、本物より重量があるため飛ばすことができない。


 先生曰く、解決策はないとのこと。


 というわけで、見つかりにくい蟻で作ってみたけど、今いちだった。


 こうなったら、犬か猫にするかな……。


 でもそれも中途半端な気がする。三人のものと比べて使い勝手が悪そうなんだよね。


 やっぱり、空を飛ばすことができないのがネックだ。


 私がレイちゃんのように魚の探査霊体を作っても、地面でピチピチ跳ねるだけになってしまう。


 選べるのは陸上で活動している動物に限られてくるということだ。


 どういったものがいいだろうと、考え込む。


 色々な動物を思い描いてみるも、ピンとこない。


 飛行というアドバンテージに比肩するような特性を持たせたいところなんだけど、そんな都合のいいものなんて思い浮かばない。


 よし、諦めよう。


 私は蟻を作ったときに考えたコンセプトを全て捨てた。


 そして、どういったものが探査に向いているか、再度考えてみる。


 高所から見下ろした方が見渡せる範囲は広がる。


 探す対象は妖怪なんだし、探査霊体の見た目なんて二の次でいい。


 …………キリンか?


 数頭のキリンを出して妖怪を探す絵面を想像してみる。


 駄目だ。大きさがネックとなって、探査に支障が出る気がする。


 人より視線の高いものを作ろうとすると、どうしても胴体が大きくなってしまう。


 それでは、人がいる住宅街での使用には向かない。


 となると、人と同じくらいの大きさの動物が妥当か。


 …………ゴリラか、クマか?


 それも、駄目だ。ゴリラやクマは、直立して歩かない。四足ダッシュだ。


 つまり、視線の位置が低くなってしまう。捜索には向かない。


 それに加え、一般人が目撃したら通報しそうな見た目なのもマイナスだ。


 むう、思い浮かばない。


 探査に丁度良いサイズの動物なんて、そう都合よくいるわけがないのだ。


 それならいっそのこと、人間でいいのでは?


 そうだ、そうしよう。無理に動物をひねり出す必要なんてなかったのだ。


 そう思い立った私は、早速制作にかかった。


 ただ、ちょっと手間がかかりそうではある。


「って、おい。何作ってるんだ。いくらなんでもデカすぎだろ。それだと、低出力で機動できるっていう、この術の強みがなくなっちまうぞ?」


 製作途中の私の術を見て、先生が苦言を呈する。


 私はその言葉を聞き流し、制作に集中する。


 ――お、そろそろ完成しそうだ。


「そこは諦めたよ。代わりに、汎用性を高めました。どうです?」


 と、出来上がった術を皆に披露する。


 それは、完全な人型。


 土の粒を限界まで小さくし、色もこだわったせいで、至近距離で見ても人間にしか見えない出来となっている。


 どうよ、かなりの自信作なんだけど。


「リアルすぎる。まるで実在する人みたいなんだが……」


 術の完成度に、先生が驚きつつも探査霊体の顔に触れる。


「うん。伊藤さんを参考にしたからね」


 本人の隣に置いても瓜二つだと思う。


「誰?」


「うちで働いている人」


 ナナちゃんの問いに簡潔に答える。


 伊藤さんは、うちで一二を争う強さの人だ。当然、母は除外した状態での話だけど。


 私の体の動かし方は、伊藤さんを参考にしている。


 訓練中、動画を撮らせてもらったり、フォームを見てもらったり、スパーなんかもよくやってもらった。


 そんな感じで、普段からよく見ていたので、一番作り易かったのである。


「見た目が人でも動作しなければ意味がないぞ。骨格や筋肉まで詳細に作りこんでいたみたいだが、そんな複雑な構造のものを動かせるのか?」


「やってみます」


 早速動かしてみる。


「……難しいな」


 初めは思ったように動かず、ギクシャクとした感じ。


 段々と慣れ始めて、ロボットダンスを踊っているように進化。


 そこから何度か試行を繰り返すと、みるみるうちに動きが改善していく。


「お、コツが分かってきたかも」


 しばらくすると、ロボットダンスからブレイクダンスを踊れるようになった。


 うん、もう完璧に動かせるね。


「なんで動かせるんだ。霊力はもちろん、精神力と集中力をかなり消耗しそうだが……」


「動きが精巧すぎて人にしか見えないんだけど……。私には、あんなの絶対無理……」


 ブレイクダンスを踊る伊藤さんを見て、先生とナナちゃんが何とも言えない表情になる。


「まあ! さすがマオちゃんですわ」


 レイちゃんは、伊藤さんのブレイクダンスに手拍子を合わせて楽しんでいた。


 よーし、スワイプやウィンドミルもやっちゃうぞ~。


 などと激しく動かしたせいで、益々精巧な操作が可能となっていく。


 指先までこだわって動かしていたせいか、随分と慣れてきた。


「うん、いい感じ」


 これなら、もう少し人数を増やせそうだ。


 探査に使うなら、数は多い方がいいしね。


 次の機会までに数を増やせるようにしておこう。


 ――そして第三回目。


「じゃあ、今回はタレコミがあった場所へ向かうぞ。そこは広いから、探査術の練習にももってこいだ」


 というわけで、先生の運転する車に揺られて、到着した先は団地。


 少し住宅街から離れているせいか、周りは山が目立つ。


 周囲に民家は少なく、ポツンと孤立した状態で建っていた。


「ここですか?」


 私の問いかけに、先生が首肯する。


「ああ。老朽化が進んで、近日中に取り壊す予定の団地だ。妖怪の目撃情報はこの近辺に集中している。まだ狭間が消滅していないなら、あの団地にあるとみている」


「つまり、これから発生した妖怪と狭間を探査術で探すの。発生した妖怪は見つけ次第倒していく。もし、狭間を見つけたらラッキーね。消滅するまで狩り放題だから」


 と、ナナちゃんが先生の説明を補足する。


 なるほど、これは探査術の良い練習になりそうだ。


「承知いたしましたわ。それでは早速。行け!」


 レイちゃんが霊装の洋扇を振り、術を発動する。


 すると、大量の小さな熱帯魚が発生し、方々へ散った。


 扇を振る姿も様になっているし、非常に格好良い。


 これは私も負けていられないな。


「じゃあ、私も。行ってこーい」


 と、指揮棒型の霊装を振る。


 すると、戦闘服の上からボディアーマーを着用した伊藤さんが六体出現。


 ツーマンセルでフォーメーションを組み、周囲の偵察を開始する。


 よし、行くんだ伊藤チーム。


 と、勢いに乗ろうとしたところで、先生に肩を掴まれる。


「おい、伊藤を何人も出すな! 顔が同じだから目立つんだよ」


「え、私だけ駄目なの? レイちゃんのだって普通の魚は空を飛ばないんだから目立つでしょ」


 大量の光る熱帯魚が空を飛ぶのだって、不自然だと思うんだけど。


 私だけ、酷くない?


 という私の意をくんだかのように、整列した探査霊体が六体同時に先生の方を向く。


「大きさだよ。レイカお嬢さんのは、小さいしひと目で霊術と分かる。だけどお前のはリアルすぎる。顔がそっくりの人間たちが、一糸乱れぬ動きをしているのは不気味なんだよ。二人くらいにとどめて、バラバラに行動させろ」


「しょうがないな。じゃあ、そういう感じでよろしく~」


 私は伊藤さんを二体にしぼり、バラバラに団地へ突入させた。


「速っ!?」


 伊藤さんの動きを見て、ナナちゃんが驚く。


 まあ、人の形をしているけど、探査術だからね。


 移動速度も調節可能です。


「……まあ、あれなら廃団地で高速移動する不審男性の範疇に収まるか」


 伊藤さんを二体にしたことで、納得してくれる先生。


 く、せっかく術をマスターしたんだから、もっと沢山だしたいのに……。


 とりあえず、伊藤さんには人型の利点を活かして、ドアを開けたりしてもらっている。


 だけど、二体だと効率が落ちるなぁ。


 そんな感じで探査を続けていると、レイちゃんが声を上げた。


「見つけましたわ。四階の踊り場に狭間らしきものがあります」


「よくやった。ここからは、すでに外に出てしまった妖怪の討伐に変更だ。マオ嬢ちゃんの探査術なら妖怪を取り押さえられるはず。捕まえてから退治する安全策で行くぞ」


 と、先生の指示が飛ぶ。


 レイちゃんとナナちゃんは、探査術で空から捜索。


 私と先生は、探査術の伊藤さんとともに、発見した妖怪を地上から捕獲かつ討伐。


 この連携が、上手くハマった。


 レイちゃんとナナちゃんから連絡が入ると、私たちは現場に急行。


 現場に着くと、伊藤さんを先行させて妖怪を拘束。


 妖怪が動けなくなったところで、私と先生で止めを刺す。


 妖怪の数が多い場合は、伊藤さんを囮にしつつ死角から強襲。


 数をこなせばこなすほど、無駄が省かれて最適化されていく。


「やはり人数が増えると、それだけペースが上がるな。こいつはいい感じだ」


 ひと段落付いたところで、先生が満足そうに言う。


「でも、報酬の取り分が減るんじゃないの?」


 二人でやっていたことを、四人でやっているんだから、儲けが減っていそうだけど。


「今のペースを維持できるなら、さほど変わらん。それに、一人の負担が減るので疲労度が全然違う。そもそも、まだ始めたばかりだし、さらにペースアップが見込める。こいつは稼げるぜ!」


「ふふ、私の目に狂いはなかった。二人にはガッツリ働いてもらうからね」


 目が¥になったナナちゃんが、私とレイちゃんの肩に腕を回してくる。


 どうやら、上機嫌なご様子。


「もちろん、そのつもりですわ」


「霊術の練習にもなるし、一石二鳥だね」


 レイちゃんの目的はお金。私は霊術の練習。


 皆、それぞれに自分の得たいものを得て、ウィンウィンである。


 それから私たちは、フォーゲートの練習と妖怪討伐に明け暮れる日々を続けた。


 妖怪退治のアルバイトも初めは土日だけだったが、平日の練習後にも時間を作って参加した。


 そして、そこそこの金額がたまった時点で、レイちゃんが昭一郎さんに稼いだお金を渡すことになった。


 レイちゃんは、もっと貯めてから渡すかどうかで随分迷っていたけど、渡す前にバレては本末転倒。


 気付かれる前にサプライズを仕掛けたかったので、一旦区切りをつける形とした。


 レイちゃんからお金を渡された昭一郎さんは感涙。


 記念に額に飾ると言い出してしまう。


 しかしそれは、絵面が余りにも成金すぎるということで却下された。


 結果、書斎の机の上に厳重にコーティングされた状態で置かれることとなった。


 はたから見れば、趣味の悪いペーパーウェイトに見えることだろう。


 というわけでサプライズは大成功。レイちゃんの念願が叶う最良の結果となった。


 これでサプライズは終わったが、妖怪討伐は続ける予定だ。


 北海道の予行演習と霊術の練習になるからね。


 霊術と言えば、サプライズを行った際に、レイちゃんが探査術を昭一郎さんに披露していた。


 昭一郎さんは術の美しさに大変感動し、後藤さんと一緒になって撮影にいそしんでいた。


 得意顔で披露したレイちゃんも、撮影が入ると照れて顔を真っ赤にしていたのが微笑ましかったのを覚えている。


 あんな光景を見たら、自分も探査術を家族に披露したいという気持ちが湧き上がる。


 だけど、私はやっていない。


 なぜかと言われれば、無許可だからだ。


 何が無許可かって? 伊藤さんをモデルにしたことです、はい。





 本日の連続更新はここまでとなります


 お楽しみいただけたなら、幸いです


 何より、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


 そして、誤字、脱字報告ありがとうございます!


 面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、


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