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 ◆九白真緒

 


 最近の日課の定番は、図書館通いである。


 なぜそうなったかと言えば、家にいられなくなったからである。


 悪さをしたわけではないが、心配されてしまうのだ。


 なぜ心配されるかと言えば、じっとしているから。


 実際は、必死に霊気を圧縮しているんだけどね。


 動くと集中が乱れて、霊気圧縮の速度が落ちる。だから不動を徹底。


 霊装をつけっぱなしにした効果か、多少の動作をやりながらでも霊気を溜めることは問題なくなってきた。


 だけど、圧縮は別。


 圧縮する時は、かなりの集中を要する。


 以前のように大声で力まなくてもできるようになったが、そのせいでぼーっと何もしていないようにも見えてしまう。


 私としては、とにかくじっとして霊気を溜め込んでいたいのだ。


 そして圧縮に圧縮を重ね、霊核を少しでも大きくしたいのだ。


 だけど、家でじっとしていると何もしていないように見えてしまって、よろしくない。


 そりゃあ、一日中一点を見つめて微動だにしない娘がいたら、心配するよね。


 そこで活躍してくれるのが、図書館というわけだ。


 図書館で適当な本を開いて、流し読みをしつつ霊気をためる。


 圧縮中も本を読んでいる振りをすれば問題なし。


 とても大人しく図書館を楽しんでいるように見えるという寸法である。


 初めは本が読みたいなら買うと言ってくれたのだが、それだと困る。


 私が欲しいのは本ではなく、動かないでいても怪しまれない環境なのだ。


 一冊買って終了、となってしまっては本末転倒。


 そんなわけで、何が欲しいのかも分からないから、本が沢山ある場所で選びたいと言い、今の状況を構築した。


 運転手兼警護の人には、ご迷惑をお掛けするが、仕事と思って諦めてほしい。


 図書館で霊気を圧縮しちゃうぞ計画は、順調な滑り出しだった。


 が、数日後、ちょっとしたことが起きた。


 同い年くらいと思われる女の子が私に興味を持ち、話しかけてきたのだ。


 前からチラチラとこちらの様子を窺ったり、側を通ったりしていたのは知っている。


 そしてとうとう話しかけてきたといった感じだ。


 圧縮のために動きたくないのだが、無視するわけにもいかない。


 できれば口も動かしたくないんだけどね。


「ねえ、何の本を読んでいるの?」


 うさぎのぬいぐるみを抱いた女の子が、小さく首をかしげて聞いてくる。


「霊術の本ですね」


 霊気を溜める際、よく読んでいるのは霊術関係の本だ。


 一族の秘伝みたいなものもあるだろうし、霊術に関する本は世の中に出回っていないだろうと思っていたが意外に色々あった。


 テレビでも時代劇やドラマもあったし、結構オープンな様子。


 まあ、修行方法に関する本は一切なかったけど。


 一番多かったのは、フォーゲートというスポーツの本だ。


 私が霊術を知るきっかけとなった、ゴルフのような競技である。


 フォーゲートは見た目が派手でテレビ受けするせいか、人気がある。


 そのため、関連書籍が結構出ていた。


 暇つぶしに流し見るには丁度いい、どうでもいい本として最適なのである。


「ふ〜ん、面白い?」


 この子、私と歳が近そうなのに、とても落ち着いている。


 大声で騒いだり、じっとしていられずに走り回ったりしない。


 遊ぼうとせがまれて、霊力を溜めるどころじゃなくなるかと思ったが一安心である。


「そうですね、詳細が書かれていないので、かゆい所に手が届かない感じです。それでも、各選手の特徴や、競技の成績、スーパープレイなんかが載っていて面白いですね。他に読むのは歴史関係でしょうか。霊術師は、その力の特別性を維持する為に、昔はわざと人口を増やさなかったみたいですね。そのせいで子供が二人以上生まれた場合は、能力の高い方を残して殺していたそうですよ。そんな行いが近代まで続いていたというのですから、驚きですよね」


「ちょっと、早口になったね」


「……う」


 オタクが好きなことになると、周りを気にせず自分のペースで好きなだけ話したいことを話すという、例の状態に私もなっていたようだ。


 恥ずかしい。


 小さい子に冷静に指摘されたから、余計に恥ずかしいよ!


 顔が赤くなったのが恥ずかしく、少しうつむいてしまう。


 すると、女の子が抱いているうさぎのぬいぐるみと目が合った。


「プレゼントでもらったの。私の髪の色と同じだから、この子になったんだよ」


「かわいいですね」


 ぬいぐるみの色は桃色。つまり、女の子の髪色も桃色だ。


 私は前世と変わらず黒なので、カラフルなヘアカラーにはちょっと憧れる。


「えへへ。ねぇ、あなたは霊術使えるの?」


「いえ、使えないですね」


 何となく嘘をついた。


 一属性という引け目もあるし、自慢できるようなものでもないからかもしれない。


「本当に?」


 じっと見てくる女の子。


 その、子供ならではの純真な瞳。


 キラキラした瞳で見つめられると、嘘をついたことに対する罪悪感が強烈にのしかかってくる。


 く、これは耐えられそうにない……。


「本当は使えます。でも大したことないんで、使えないと言いました。ごめんね」


「ううん。私は使えないから凄いと思うよ? 霊術ってどんなの?」


「まあ、こんな感じです」


 と、軽く霊気を放出してみせる。


 一杯出すと勿体無いので、小さな花びらが舞うように調整。


 しっかりとイメージし、形にこだわってみた。


「わぁ、綺麗だね」


 女の子は目を輝かせ、興味津々といった感じだった。


「見た目は綺麗にできましたが、お金を稼げるレベルではないんだよねぇ」


 霊術師が扱う霊力には遠く及ばないのが現状だ。


 プロはもっと凄いことができるんだよなぁ。


「霊術を使う仕事って何があるの?」


「そういえば、よく知らないですね」


 軽い気持ちで投げ掛けられた質問に答えようとして、はたと気付く。


 ――そういうこと、全く知らないな。


 私は霊術を鍛えるのがファンタジーな魔法に触れているようで楽しいからやっているだけ。


 前世では存在しなかった不思議な力に魅了されているだけなのだ。


 将来仕事にしようとか、お金を稼ぐ為に霊力を鍛えていこうとか考えていたわけではない。


「……どうやら、霊術師とフォーゲートの選手がメジャーなようですね。意外に少ないみたい」


 本棚から持ってきていた関連書籍を流し見る。


 意外に、プロレスや格闘技のような霊術を使った格闘スポーツは存在しないようだ。


 見た目が派手だから受けそうだけど……。


 対人に使うには、威力が高すぎるのかな?


 ざっと見た感じでは、霊術を使えることが必須となるような職業は他になさそうである。


「霊術師っていうのは何をするのが仕事なの?」


 女の子に問われ、調べる。


「う〜ん、これによると、妖怪を倒すのが主な仕事みたいですね」


 いるのか、妖怪。


 どんな存在なんだろう? 見たことないな。


 剣と魔法のファンタジーで、モンスターを倒すような感じなのかな?


「あ〜、あれか〜」


 女の子は私の説明を聞き、大きく頷いていた。


 おう、妖怪という単語が説明もなく通じてしまったよ。


 私なんて、会話で使うのが初めての単語なのに。


 妖怪って頻繁に出てくる存在だったりするの?


「見たことあるの?」


「あるよ。なんかね、大人の人が野良犬みたいなのをビビビってやっつけたりしてるね。外を歩いてると、たまに見かけるよ?」


「私は見たことないなぁ」


 女の子の口振りでは、そんなに珍しいことでもなさそうな雰囲気だ。


 だけど私は一度もそんな光景を目撃したことがない。


 やはり、今まで幼稚園にも通わず、家で過ごすことが多かったからか。


「ねえねえ、君ってさ、お金持ちだったりする? 車で送り迎えされてるみたいだし」


 女の子から、唐突に家の質問が来た。


 むう、そういう所も見られていたのか。


「まあ、多分、そうだと思います」


 直球で聞かれたけど、つい答えてしまう。


 キラキラした目でじっと見られると、どうしてもウソがつけないんだよなぁ。


 ただ、相手が子供だからというわけでもなく、この子特有の個性というか、なんというか。


 不思議な魅力、カリスマ性のような強い存在感を感じる。


 なんとも不思議な雰囲気の子だ。


「前、大人の人が言ってたけど、お金持ちの人が住んでるところは退治する人が巡回してるんだって。だから見た事がないんじゃない?」


「へぇ〜、そういうこともあるんですね」


 確かにあり得そうな話だ。


「うちの近所だと、生ゴミ漁りに来たりするよ? ふ〜ん……、あれをやっつけると、お金になるのかぁ」


 女の子は何やら考え込んでいる。


「どうしたんです?」


「ううん、何でもない。ありがとうね。じゃあ、ばいばい」


 女の子は私に手を振ると、その場を去って行った。


 さすがに霊術の会話にも飽きたのだろう。


 同年代の子との会話。そういえば、初体験だったな。中々良い経験ができたかもしれない。


 さて……、私は霊気圧縮を続行するとしよう。





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