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 ◆雲上院昭一郎



「あ、危ない!」


 仕事の書類を確認していた雲上院昭一郎は、運転手の今野が発した声で顔を上げた。


 すると、眼前に巨大な影が!


 突如車線変更したダンプが正面から迫って来ていたのだ。


 今野が慌ててハンドルを切る。が、ダンプが追従して曲がる。


 その結果、両車共に無人の歩道に乗り上げることとなってしまった。


 車同士が衝突する事はなかったが、お互いにビルの壁に激突してしまう。


「くっ!」


 運転席のエアバッグが作動し、今野の自由を奪う。


 後部座席は前より衝撃が少なかったせいか、エアバッグが作動しなかった。


 衝撃から立ち直った昭一郎は、ひび割れた窓から外の様子を窺った。


 すると、後ろを走っていた二台のバンが、こちらの進路を塞ぐ形で停車するのが見えた。


 完全に囲まれた。これでは車外に出ても逃げ道が無い。


 隣席に座っていた警護の田村がその事に気づき、臨戦態勢になる。


 昭一郎は携帯端末から連絡を取ろうとした。


 が、遅かった。


 バンから覆面の男が三人降り、こちらへ走って来たのだ。


「開けろ」扉越しに大声が聞こえてくる。


「開けてはいけません。このまま篭城します。街中でここまで派手にやれば、すぐに周囲に伝わります」


 田村の意見に賛成だ。扉を開ける意味が見いだせない。それより誰かに連絡しなければ。


 昭一郎は再び携帯端末をいじろうとする。


 田村は昭一郎を守るため、周囲に目を光らせていた。


 しかし、篭城はあっけなく失敗に終わった。男たちが金属用丸ノコを持ち出し、扉を切断し始めたのだ。


 金属が切れる高音と振動が車内に響く。


 扉は数秒と経たずに、力技で強引に引きはがされてしまった。


「出ろ」


 男の一人が昭一郎の腕を掴み、車外に引き出す。


「よせ!」


 田村が抵抗しようとした瞬間、蹴りが叩き込まれた。


 車内で不自由な姿勢で抵抗しようとしていた田村は、頭部に蹴りを受け失神した。


 今野はエアバッグに意識を奪われたまま、ピクリとも動かない。


 昭一郎はあえなくバンに連れ込まれ、そのまま連れ去られた。


 車内で探知機を当てられ、普段から着用しているGPSを外されてしまう。


 次に手錠で拘束され、目隠しをされる。完全に万事休すだ。


「助けを期待しても無駄だ。最近、お前が懇意にしている九白家も、今頃パニックになっているはずだ。こちらに構っている暇はないだろう」


「あの家に何をした!? あそこは無関係だ!」


 まさか、九白家まで手を出すとは。


「ああ? あれだけ仲良くしておいてよく言う。お前が仕事以外で会う人間が、どれだけ希少か分かっているのか?」


「……ッ」


 男の指摘に、言い返す言葉が浮かばない。


 確かに、改めて自分の人間関係を振り返ってみれば、そうかもしれない。


 どれだけ過去に遡っても、家か仕事が絡んだ関係しか思い浮かばない。


 昭一郎は男の何気ない言葉によって、自分がどれだけ雲上院の人間か痛烈に思い知らされることとなった。


「しらばっくれようとしても無駄だよ。今頃、あそこの娘は洞窟で崖から突き落とされて死んでいる。大人の男三人が相手だから、逃げる事も無理だろうな。そして、それを知らない両親は捜索に躍起になるって寸法だ。お前に気を配っている暇は無い」


「なんだと!」


「おっと、そろそろ黙ってもらおうか」


 と、口を布で覆われてしまう。


 そんな……、真緒ちゃんが殺されたというのか……。


 それが本当だというのなら、とんでもないことに巻き込んでしまった。


 全て私のせいだ。九白さんと弓子さんに何と侘びれば……。


 昭一郎は、自分の身が危険にさらされていることも忘れ、後悔の念に苛まれていた。


(……いや、ちょっと待て)


 と、ここで引っ掛かりを覚える。


 今、男は九白真緒を崖から突き落としたと言った。


 次に、大人の男三人が相手と言った。


(…………あれ? そのくらいなら、何とかなるんじゃないのか?)


 以前、訓練を終えた娘の実力を確認させてもらった時、デモンストレーションとして彼女の実力も見せてもらった。


 その時、大人四人を相手に組み手をしていた。


 しかも、反撃禁止で。


 その後、ビルの三階から無手で飛び降りていた。


 しかも、霊力を使わず。


(だ、大丈夫なんじゃないかな……)


 不謹慎かもしれないが、そう思ってしまう。


 そもそも、デモンストレーションの時も全力は出していなかった。


 息一つ乱さず、涼しい顔をしていたから間違いない。


 やっぱり、大丈夫なんじゃあ……。


 むしろ襲った方が返り討ちに遭ってそう……。


 拘束された昭一郎は、自分が誘拐されていることも忘れて熟考した結果、九白真緒が辛うじて生存しているどころか、滅茶苦茶元気なのではないかという結論に確信を持ちつつあった。




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