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 ◆紫前増美


 

「そんなこともできないのですか!」


 紫前家の修練場で紫前増美の叱責が飛ぶ。眼先では息子の貴矢が項垂れていた。


 肩で息を切らし、全身から汗を流している。疲労困憊といった様子だ。


 しかし、この程度で疲れてもらっては困る。


 この間開かれた成人の儀でも大してアピールできずに終わってしまった。


 これから先は、地道な活動で功績を上げていくしかない。


「いや、貴矢君はよくやってるだろう。三属性なんだろ? 十分じゃないか」


「ああ。あんなメニュー、四属性じゃないと付いていけないぞ」


「四属性というか五属性だろ。明らかに霊力が不足している。無謀すぎるな」


 同じ場で訓練に励む者たちの話し声が聞こえてくる。


「黙りなさい! 我が家の方針に口を出さないでいただきたい!」


 苛立った紫前は周囲に向けて怒りを露わにした。


 そして、貴矢に向かって叫んだ。


「ここは空気が悪い。場所を変えますよ、貴矢!」


「はい……」


 壁に手を沿え、這うようにして歩く貴矢を置き去りにし先に進む。


(こんなはずではなかった……)


 お披露目式への乱入。若年での成人の儀への参加。


 どちらも我が家の威光を示すはずだったのだ。


 お披露目式では競合する他家より、後進が育っており紫前家は安泰というアピール目的。


 成人の儀では、息子の実力を示すと共に、雲上院家の娘を棄権退場に追い込み、金をむしりとる。


 そういう計画だった。


 それが、蓋を開けてみれば真逆の結果。


 式でも、成人の儀でも大した成果を出せずに終了。


 更には、目ざわりな一属性が活躍し、衆目を集める結果となってしまった。


 想像する中でも最悪の結果と言っても過言ではない。


 そこへ、追い打ちをかけるように、ここ数年のトラブルが重くのしかかる。


 本業での業績の悪化だ。


 何処の誰とも知れぬ、無所属の霊術師による妖怪の乱獲。


 それは、十家の一つである紫前家が任されるエリアで重点的に行われた行為だった。


 初めは隣接するエリアの十家の工作を疑ったが、証拠は無かった。


 むしろ、ここ最近はその周囲の家まで横取り被害を受けているようだ。


 到底一人でやったとは思えない結果だが、集団で行われた気配はなし。


 届出が出されているので、正体不明というわけではない。


 凄まじい業績を上げている霊術師の名は兎与田太良。平凡なフリーの霊術師だ。


 今回の一件が明るみになるまで、一切名を聞かなかった者である。


 正規の手段で行われている為、違反行為ではない。


 けん制のために口や手を出そうと思ったら、なぜか鷹羽家が口出ししてきて何もできなかった。


 しかも、当主である鷹羽雷蔵が直接関わってきたのだ。普通なら考えられないことである。


 といっても、十家の上位に位置する鷹羽家が妨害しているとも思えない。


 お節介な正義感を振りかざしてきただけだろうが、厄介な話だ。


 結果、野放しにするしかなかった。


 それにより、我が紫前家の討伐数の大幅減。


 同日、同週、同月、年度、全ての昨対を割り続けた。


 そしてあっという間に、下がりようのない底まで落ちてしまった。


 そうなると隠すしかない。改ざんし、その間に数字を回復させるしかなかった。


 だが失敗した。取り返せなかったのだ。


 それほどまでに兎与田の腕は凄まじかった。


 とうとう行政にもばれ、業務として機能していないという判定を受けてしまう。


 近く、補助金が打ち切られることになった。


 こうなっては組織の維持どころか、明日からの生活の心配をしなければならない状態だ。


 最早、取れる手段は限られる。


 ――そう、もう一度あの手を使うしかない。


 しかし、本来は二度もやることではない。


 やる内容が同じでも、以前とは比べものにならないくらい難易度が跳ね上がってしまう。


 成功させるためには、人を揃えるしかないだろう。


 そうなると、人件費がかかり、儲けが減る。


 ならば手を加え、手に入る金額を増やす必要がある。


 この際だ、徹底的にやってしまえ。


 金の事を考えなくて済むだけの額を手に入れてしまえばいいのだ。


 しかしそうなると、準備にかなりの金額が必要になりそうだ。


 以前は、こういったことは全て胃根に任せていた。非常に頭が切れ、裏のことにも顔が利くからだ。


 だが、今はもういない。自分を騙して雲上院と結婚させたので、あの家に置き去りにしてきたのだ。


 面倒だが、今回の準備は全て自分でするしかない。


 とにかく、金に換えられるものは全て処分する。担保に出来るものを全て使って現金を用立てるしかない。


 夫は霊術で屈服させて上下関係を分からせてからは何も言ってこないので、自身の決定に異を唱える存在は紫前家には存在しない。


 これで計画が成功すれば、何十倍にもなって返ってくる。


(金さえ手に入れば、どこかの高属性の子供を養子に取ることもできる)


 高属性を二人以上抱えている家であれば、交渉も叶うだろう。


 ひと昔前であれば、世継ぎ争いを回避するために片方を処分していただろうが、今のご時世ではそんなことはできない。そういう人材も捜せば見つかるはず。


 そうなれば、これの面倒に手を焼くことも無くなる。


 できれば、紫前の血を継ぐ者に、と思って今まで目をかけてきたがここまでだろう。


 紫前はそう思いながら、未だ息を切らして壁にもたれかかる息子を一瞥する。


 ――とにかく、今は我慢のときだ。




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