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 ◆紫前増美



「わざわざ俺を呼びつけるとは、いい身分だな」


 紫前を前に参浄早雲は、苛立ちを隠そうともしなかった。


 ぞんざいな参浄の口調と態度から、かなり不機嫌であることが窺える。


「申し訳ありません、ですが是非見ていただきたい霊術師がおりまして」


 我慢し、話を進める。ここで感情的になるのは得策ではない。


「自分の息子のことだろう?」


 こちらの言葉に興味なさげな声音で返答が返ってくる。


 だが、息子のことが挙がったのは紛れも無い事実。


 参浄も、息子の実力を認めているという事だろう。


「さすが、参浄様。貴矢の実力を見抜いているとは」


「あれは三属性。至って普通。見る価値がないとまでは言わないが、突出した部分が無いのも確かだ。お前の親バカに免じて今回呼びつけたことは不問にしておく」


 貴矢の評価は可。紫前にとっては受け入れ難い評価だった。


「そ、そんなことは! 貴矢には才能があります!」


 なにせ、この私の息子だ。才能がないはずがないのだ。


 紫前には、揺るがない自信があった。


「あったとしても、三属性と四属性の間にある霊力差の溝は埋まらん。わきまえろ」


「……は、はい」


 属性数を出されると、何も言い返せない。悔しいが、黙るしかなかった。


「納得していないようだが、分かっているのか? 一属性で半人前、二属性で一人前、三属性で十人力、四属性で百人力、五属性で千人力。霊気に初めて触れた際に教わることだ。まさか忘れたのか?」


「いえ、そのようなことは……」


 子供に語って聞かせる話を今更説明される。屈辱以外の何者でもない。


 だが、参浄の話はそこで終わらなかった。


「息子もそうだが、お前の属性数は幾つだ? 言ってみろ」


「……三属性です」


「第十位とはいえ、十家に名を連ねる者が三属性など、先代の貢献がなければ本来はありえないことだ。そのことをお前は本当の意味で理解できなかった。今のような結果となってしまっては、先代も無念だろうな」


「……ッ」


 死んだ人間が評価され、なぜ自分が正当な評価をされないのか。


 紫前は自分の扱いに憤りを覚え、一瞬言葉を発することができなくなってしまった。


 そんな事などつゆ知らず、参浄は会場に目を向ける。


「ふむ……、成人の儀を見るのも久しぶりだ。こういう機会でもなければ訪れることもなかっただろう。……それから、お前から申し出のあった、デモンストレーションの話も、新人の向上心に繋がるというのならやろう。だが、お前の我がままに付き合うのはこれが最初で最後だ。心得ておけ」


「あ、ありがとうございます……」


 参浄が機嫌を損ねて帰ると言い出さなくて、胸をなで下ろす。


 あとは、計画通りにことが進めば、もう一つの目的も達成できる。


 息子の評価を得られなかったのは、誤算だったがやむを得ない。


 ここは切り替えていくべきだ。


 しかし、儀式を観戦する参浄は退屈そうだった。


「……いつも通りだな。全員、雑魚程度なら問題なく狩れそうだ。今年の参加者の属性数のはどうだ?」


「こちらが参加者名簿になります」


 紫前は、名簿を手渡した。


「ふむ、少し二属性が増えたか……。いつも通りの苗字が並ぶのは当然だな。……二名知らぬ名があるな。雲上院……? あの、雲上院か」


「その者たちは霊薬を飲んで霊核と繋がった新参者です。両者とも一属性。場をわきまえずに参加を希望した愚か者です」


 こちらから呼び寄せたが、向こうが無理矢理参加してきたことにする。


 これで、心象も悪くなる。いい気味だ。


「その者たちは理解しているのか? これは成人の儀、成功以外は認められない。失敗はありえないものとして執り行われる儀式だぞ」


「はい、何度も説明しましたが、頑として譲らなかったもので。向こうからの申し出で救助や助太刀などが介入するような特別扱いはしないでくれとのことです」


 今回、二名を招待する際、現場からは特別処置として救助用に霊術師を同伴させるべきだという声があがった。が、取り下げた。


 当然だ。そうしないと酷い目に遭わせることができない。


 なぜ、安全にしなければならないのか。


 が、そういったことは一切表には出さない。


 あくまでも、向こうの希望ということで押し切る。


「ふん、言うじゃないか。それではお手並み拝見といこうか」


 参浄は、今までの退屈そうな表情から一変。非常に楽しそうに振る舞いだす。


 一属性の人間が出るだけなのに、一体なにがそんなに楽しいのか。


 紫前には、全く理解できないことだった。


 儀式が進み、件の一属性の出番が回ってくる。


 アレが不正を行ったせいで、お披露目会は散々な結果に終わった。


 ここでは事前にボディチェックが行われるし、自慢のイカサマも使えない。


 不正したことを悔いながら、存分に恥をかくといい。


「丁度今入ったのが一人目ですね」


 属性数が一、属性は土とアナウンスが入る。


「待て。あれはいくつだ? かなり幼いように見えるが」


「小学六年生ですね。そんな年齢で参加を希望するなど、おこがましいにも程があります」


「なぜ止めなかった?」


「は? ですから向こうが強引に……」


 事情を説明しようとしたが、参浄に睨まれて口を閉ざさざるを得なかった。


「ならばこちらも強引に止めればいいだけの話だ。適当に話を作って、参加資格を得られる年齢に達していないとでも言えば済む話だろう。分かっているのか? 軽傷ならばいいが、重症以上だと責任問題になるぞ」


「ですが、向こうが勝手に……」


 招待したが、表向きは向こうが強引に参加したことになっている。


 なぜ、それで自分が責任を取らなければならないのか。


「そんな理屈が通るわけがないだろう、バカなのか? 自分の身が可愛かったら早くやめさせるんだな」


「確か、儀式合格の最年少記録は小学校低学年のはず。小学六年であれば、問題ないかと」


 噂に聞いた話では、最近小学校低学年で儀式を突破した者が出たと聞く。


 それならば今回の件も、それほど違和感はないはず。紫然は、そう考えた。


「何も知らないようだな……。その記録は五属性が打ち立てたものだ。一属性をそれと同列に扱うな」


「……残念ですが、始まってしまったようです」


 こうなっては止められない。今から行っても間に合わないだろう。


 一属性が怪我をしたら自分の責任? 誰がそんな責任取るものか。


 色々と理由をつけて、相手に不備があったと認めさせれば問題ない。


 紫前は表面では迷った素振りを見せながら、内心強気な姿勢を崩さなかった。


「選手の無事を祈るんだな。ほう、霊気を放てるか。……ん、いや、ちょっと待て」


 参浄は、試合風景を見て言いよどむ。


 まあ、それも仕方が無い。なんとも無様な試合内容だ。逃げ惑い、転倒している。


「ふふ、あんなに怯えて、バカみたいに震えて、いい気味だわ! そのまま顔に傷でも作ればいいのよ! チッ、転んで当たるなんて運がいいわね」


 試合は辛勝。後一歩で妖怪があの子供を傷つけてくれるところだっただけに惜しい展開だ。


 しかし、これは幸先が良いかもしれない。講師役であの程度の実力なら、アレの実力はもっと下。それなら、もっと手間取る。もっと苦戦する。つまりは……。


 先の展開を考えていると、参浄のため息が思考を遮った。


「運が良くて助かったのはお前もだろうに……。もう一人いるのだろう? 止めないのか」


「そ、そうでした。次の二人目はすぐ中止に」


 と言って室外に出て、連絡を取った振りをして戻った。


「駄目でした。向こうが頑として譲らず……。相手が雲上院家のため、こちらも強く出ることが出来ませんでした」


 こちらは止めた。あくまで向こうの強引さで決行せざるを得ない。


 そういう方向に話を持って行く。


 紫前の本命は、アレの方だ。今から中止になどできるはずもない。


「……そうか、ならやむを得まい。こちらとしても様子を見たいし、……いいだろう」


 参浄は、考え込むような素振りを見せた後、意外にも同意した。


 てっきり、強引に止めに入るかと思っていただけに拍子抜けだ。


「え、それはどういう……」


「今の試合を見て何も思わなかったのか?」


「とても無様な立ち回りだと思いましたが、それ以外は特に」


 偶然当たった霊気で妖怪を倒せただけ。


 不恰好であり、恥ずかしい。見るところのない試合内容だった。


「霊気の放出量だ。あれは一属性なんだろう? しかも小学生だ。なぜ何度も撃てる。もう一人も同じか確かめたい。」


「それは……。と、とにかく、向こうが強引に参加したいと言っているので中止になることはありません」


 紫前は、試合が決行されることを強調する。


「まあ、問題が起きても責任者はお前だ。私には関係ないしな。存分に観賞させてもらおう」


「そ、そんな!」


「どのみちお前は終わりだ。分かっているのか?」


「な、何のことでしょうか……」


 思い当たる節がない。


 楽しそうに口角を吊り上げる参浄の顔を見つめ返す。


 今になって不安になる。このまま決行して自分の身は大丈夫なのだろうか、と。


 怪我人が出るのは毎年恒例のこと。


 だが、その怪我人が重症かつ、一属性で幼いとなれば……。


 そこまで考えていなかった。やはり、責任問題になった場合、回避は難しいか……。


 いや、それ以前に参浄は、成人の儀の事を指摘しているのだろうか。


 どうもこの男の言葉からは、今回の成人の儀とは関係ないような雰囲気も感じられた。


 一体、何が言いたいのだろう。


「ここ数年、お前のところは妖怪の討伐数が落ちすぎている。毎年ギリギリで持ち堪えていたが、もうダメだ。今度の審査で国からの補助金は打ち切られるだろうな」


「ええ!?」


 寝耳に水だ。聞いていない。審査に落ちる?


 それでは元も子もないじゃないか。


「今まで何をやっていた? 十家の人間が審査に落ちるなど、前代未聞だ。怠慢が過ぎるぞ」


「そ、それが……私たちもやる事はやっていたのですが……」


 参浄に責められ、口ごもる。数字で示されているため、言い訳できない。


 そもそも成果が出ていないのは、一時ではなく、数年だ。弁解のしようがなかった。


「できていなかったということだろう。猶予は十分にあった。いくらでもやりようはあったはずだ。あそこまで数字を落として担当地域の被害報告件数が増加していないのは奇跡だぞ」


「違うんです! フリーの霊術師が我々の獲物を全部横取りしていったんです! それで成果をあげられず……。参浄様、どうか参浄様から、関係各所に口ぞえ願えないでしょうか」


「お、もう一人の一属性の試合が始まるようだぞ」


「参浄様!」


 参浄は話し飽きたのか、闘技場に視線を移し、こちらの訴えを無視した。


「……おい、なぜあんな妖怪を放つ。どういうつもりだ?」


 登場した妖怪を見て、参浄が尋ねてくる。


「あ、あれはデモンストレーション用の!? 誰か中止させなさい!」


 と、演技を行う。ここは計画通りだ。


 だが、この計画がうまくいっても、補助金が打ち切られては何の意味も無い……。


 紫前の心は乱れ、そのことが演技を真に迫ったものにする。


「駄目だ。実力のない者を闘技場に入れても怪我人が増えるだけだ。俺が行く。観客にはバレないように、うまく進行しろ。いいな」


「は、はい!」


 参浄はこちらから誘導せずとも、自ら闘技場へ向かってくれるようだ。


 本当にうまくいっている。だが、紫前の心はまったく落ち着かない。


 補助金の話が心を乱し、平静ではいられない状態となっていた。





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