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◆九白真緒
――そして、迎えた儀式当日。
「視線を感じますわ」
「なんか空気が悪いね」
会場入りした途端、方々からこちらを窺う不躾な視線を感じる。
「前は私の知り合いが出席している場だったが、今回は紫前が関係している会だからね。アウェーと思った方がいい。残念だが、これから私たちは接待になるだろうから、一緒に行けない。控室には警護の者をつけよう」
レイちゃんのお父さんの昭一郎さんから説明を聞き、納得。
フォーゲートのときは昭一郎さんが選んだ場だったが、今回は紫前が選んだ場。
そりゃあ、雰囲気も悪いわけである。
「おいおい、本当に来るとはな。恥をかかない内に帰った方がいいんじゃないのか?」
通路を歩いていると、異父弟君が登場。
開口一番に、挑発してくる。
「来て欲しいか、欲しくないのか、どっちなんだか」
こっちが簡単に帰れないことを知っていて、調子のいい事を言ってくれる。
「今回の儀式で失敗するようであれば、雲上院家としても対策を講じる必要があるでしょう? その際は、講師の件、再考願いますよ」
異父弟君の挑発が終わったと思ったら、今度は紫前が登場し、下心丸出しの要求をしてくる。
「いや、それはない。失敗しても問題はない。二度とこういった招待はしないでほしい。まあ、こちらから釘を刺したから、もう誰も乗ってこないとは思うが」
それに対し、毅然と断る昭一郎さん。まったくブレないねえ。
「ま、まあ、儀式を受ければ考えが変わるかもしれません。話し合いは終わった後にでもまた……」
紫前は、若干怯んだ様子を見せ、そのまま退場していった。
このまま会わずに最後まで済めばいいけど、そうはいかないんだろうなぁ。
「ふぅ、行ったか。礼香、君の力は見せてもらったから安心している。だけど、無理だと感じたらすぐに辞退するんだ。仕事の事を気にしてくれるのは嬉しいが、私にとっては礼香の方が大事なんだからね」
今回のイベントに参加するに当たって、事前に私たちの実力を昭一郎さんに見てもらっている。
そうしないと、安全かどうかの判断ができないからね。
今まで霊核を大きくしているところしか見ていなかったため、レイちゃんが力を振るう姿を見た昭一郎さんは驚愕すると共にとても安心してくれた。
ふっふっふ、今のレイちゃんは凄く強いのだ。
「ありがとうございます、お父様。わたくし、精一杯頑張りますわ」
「真緒ちゃん、君も気をつけて。君の実力はちょっとおかしいから心配はしていないんだが、それでも万が一……、いや億が一ということもある。くれぐれも注意してくれ」
昭一郎さんが、レイちゃんと私を心配して声をかけてくれる。
「お気遣い感謝します。まあ、観客を入れるわけですし、向こうも無茶なことはしてこないと思いますよ」
紫前の息がかかっているとはいえ、公式の場だし、変なことはしてこないと思いたい。
「雲上院さんは心配性だなあ。あ、でも……真緒」
父が昭一郎さんのことを笑いながら、何か思い出したかのように私に声をかけた。
「ん、何?」
「くれぐれも会場は壊さないように。修理できる範囲ならいいけど、無茶しないでね」
「加減を誤るなよ?」
両親から真顔で警告される。
雲上院家と我が家の落差がひどい。どういうことだ。
「そんなことしないよ。霊気がもったいないじゃない」
無駄撃ちしたら、霊気圧縮する分が減ってしまう。
そんなもったいないこと、私がするわけないじゃない?
両親も、まだまだ私のことが分かっていないね。
「……そうか、ならいいんだけど」
別の意味で不安そうな顔をする父。
大丈夫、加減はするって。
「二人とも、ぶっ飛ばして来い」
と、母が私とレイちゃんの背を叩いた。
「うん!」
「はい!」
やる気満々の私たちは、元気よく返事を返し、控え室へ向かった。
でも――。
「とは言ったけど、なるべく辛勝するんだけどね」
「ですわね。目立たないように、ギリギリ勝てた感じを演出するのでしたわね」
事前に立てた計画では、一属性の弱い霊術師を演じるつもりなのだ。
「うん、これ以上絡まれないようにするには、それが一番」
「強すぎず、弱すぎず。紫前貴矢よりも弱く立ちまわり、相手の自尊心を満足させる、でしたわね」
私たちの目的はここで大活躍し、目立つことではない。
弱いけど、最低限の力は持ち合わせていて指導する余地は無い、と思わせること。
「そう。私たちは一属性だから、将来性がないと思われている。この場で発揮された力が成長の限界だと思わせることができれば成功だね」
そうすれば、紫前も絡んでこないだろう。
相手が招待してきた場だが、それを逆に利用してしまおうという計画なのである。
「……わたくし、マオちゃんと同じ気持ちですの」
「うん?」
「こんなところで力を使うなんて、霊気がもったいないですわ! なるべくなら全て圧縮に回したいですの」
霊装の洋扇で口元を隠したレイちゃんが、目を細めて笑う。
「だよね」
ほんと、こんなイベントに駆り出してきて、紫前親子にも困ったものである。
そのまま、霊気の効率的な圧縮について二人で盛り上がっていると、黒服さんがこちらへやってきた。
「失礼します。どうやら、控え室が別になるようです」
「へえ、個室が使えるんだ」
それぞれに部屋が割り当てられるなんて、意外だ。
どうせ、一属性のお前たちには控え室など必要ないから廊下で立っていろ、とか普通に言ってくるものだと思っていたのに。
「その、申し上げにくいのですが、個室なのはお嬢様だけで、九白様は大部屋です」
「なるほど」
黒服さんが言いにくそうに話してくれた内容に納得。
雲上院家は、ちゃんと高待遇。お連れの一属性は、ちゃんと冷遇。
しっかりしていることで。
「なら、マオちゃんも私の控え室に来ればいいのですわ」
「お嬢様、定められた事以外をすると、不正を疑われる可能性があります」
「だね。大人しく大部屋に行くよ」
レイちゃんが誘ってくれたが、余計な動きはしないほうが賢明だろう。
「さ、寂しいですの」
控え室へ向けて通路を進む中、目を伏せたレイちゃんが私の服の袖を摘まんだ。
「そっか。全部終わるまで、しばらく会えなくなっちゃうね」
「確か、わたくしの順番は最後だったはず……」
私も後半の方だったと思うけど、レイちゃんは最後か。
となると、半日以上会えないわけだ。
初めての場所で、そこがアウェーともなれば心細くもなるよね。
「修行を頑張ってきたレイちゃんなら大丈夫。先に客席に行って応援するね」
「はい!」
私の言葉に、レイちゃんが少し元気を取り戻した。
そうこうしている内に、分かれ道に到着する。
一人部屋と大部屋では行き先が違うようだ。
「お、こっちみたい。それじゃあ、頑張ってね」
「マオちゃんも、ファイトですわ!」
私たちはお互いにエールを送りあうと、それぞれの控え室へと向かった。
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