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◆九白真緒
――とんでもない講師の次に、とんでもない講師が来た。
「今日から講師を務める、兎与田だ。お嬢ちゃん、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
この講師――、とんでもない。
なんせ酔っ払いである。息が酒臭いし、顔が赤いので丸分かりだ。
しかし、こんな人にしか講師を頼めない理由も分かった。
霊術師の世界はガチガチの縦社会。
我が家のように霊術師の家系でないところだと、色々と障害が発生するのだ。
その結果が前回の失敗と、今回の酔っ払い召喚に繋がる。
さて、この人はちゃんと教えてくれるのだろうか。
今回からは両親も授業参観スタイルでの参加。
これで、おかしなトラブルは発生しないし安心だ。
「それじゃあ、まずは属性数と、何の属性を持っているかの確認だな。前の講師と重複する内容かもしれんが、改めて調べさせてもらうぜ」
と、言いながらスキットルに口を付け、ぐびり。
プハーっとか言ってるし、中身はお酒だよね?
「分かりました。前回の話では一属性という話でした」
今回も同じ結果かな?
「うむ。一属性で間違いないようだな。属性は土だ。これは初めて聞いたかな?」
飲酒はするが、調べることはちゃんとやってくれている。
苦い顔をしている両親が口を出してこないのは、そのせいだろう。
「そうですね。何の属性かは初耳です」
「よし。まずは属性数について説明しておこう。霊術師の家系は最低でも二属性を持って生まれてくる。一属性しか持たない奴ってのは、必然的に霊薬を飲んだ奴ということになる。……それでだ」
兎与田先生が言いよどむ。
……そして、たっぷり間を置いてからの――、一杯。
何か言うんじゃないのかよ! と九白家全員ずっこけた。
「へへっ、わりいわりい。言い辛いことを言うために喉を湿らせたんだよ。さて……、続きだ。霊薬を飲んで得られる属性数だが。一番多いのが二属性。ごく稀にあるのが三属性。極々稀、というかほぼないのが一属性という感じだ」
「なるほど、マイナスにウルトラレアを引いたというわけですね」
これまたなんという悪運。ついてないにも程があるな。
そりゃあ、釜崎も私をあなどるわけである。
「大正解だ。そして、属性。五属性の内訳は、火、水、木、土、風だ。その中で最も人気がないのが土。お嬢ちゃんの属性ってわけだ。……まあ、その、……なんだ。あんまり気を落として、やる気をなくすなよ? 俺の授業できる回数が減って、給料が減っちまうからな」
不器用ながらに励ましてくれる兎与田先生。
給料なくなるとか言ってるけど、ツンデレ的発言ではないでしょうか。
照れて顔が赤くなっているんじゃなくて、赤ら顔な酔っ払いだけど。
「お気使いありがとうございます。霊術師を目指していたなら、相当ショックだったでしょうが、そういうわけでもないですし、大丈夫ですよ。応援してもらったパパとママには申し訳ないですけど」
これだけ色々としてもらって、この結果はあまりにしょっぱい。
私は霊術を使えるようになって嬉しいけど、両親には悪いことしちゃったな。
「それは真緒が気にする事ではないよ。私たちも反対しなかったわけだからね」
「そうだ。むしろあんな不味い汁をよく飲み続けたもんだ。よく頑張ったよ」
と、笑顔の父と母。くぅ、申し訳ない。
「そんじゃあ、授業をやってくぜ。まずは霊核を感じるところからだ。それが最初の一歩であり、霊術の全てと言っても過言ではない」
「その、霊核っていうのは、どうやって感じるんですか?」
「……そうだな、分かりやすいように、仰向けに寝てもらおうか。初めての時は集中しすぎて倒れることがあるからな。そんで、両手をみぞおちに乗せろ」
「はい」
「よし、いい出来だ。次は目を閉じて。――宇宙を感じるんだ」
「先生、いきなりハードルが高いです」
とうとうお酒の影響が出たのだろうか。
今までの説明が明瞭だっただけに、落差が激しい。
残念だが、私は横になったとたん宇宙を感じられるような日常生活を送っていない。
いや、無理でしょ。
「おい、説明を省略すんな。クビにするぞ」
シュッ、と風切り音が鳴り、ドスッ、と壁に何かが刺さる音が聞こえる。
兎与田先生が、ヒッと小さな悲鳴を上げた。
母が先生を物理的にクビにしようとしたのだろうか。
目を開けて、どうなっているか見たいけど、今は我慢。霊術が優先なのだ。
「いや、省略してないですよ! ほんとに宇宙なんですから! 霊界とか心宙界とか神界とか、色んな呼び方があるんですけど、イメージしにくいでしょ!?」
震える兎与田先生の悲鳴がこだまする。
目を閉じたまま怯え声の説明を聞き、納得。
「確かに。どの言葉を聞いてもさっぱりです」
まだ宇宙の方が想像しやすいわ。
「霊薬を飲みきった今なら感じ取れるはずだ。こう、なんていうか……あれだ……う〜ん」
何かに例えようとしているのだろうけど、考え込んでしまっている。
現実離れしたものだから、説明が難しいんだろうな。
「あれだ! 変な健康商品や健康器具の広告で、人間のシルエットの内側に宇宙の絵が描かれてるやつがあるだろ? あんな感じなんだ。目を閉じて、両手とみぞおちに集中して感じ取ってみろ。くれぐれも眠ってしまわないように注意しろよ」
「分かりました、やってみます」
言われた通りやってみる。ここは素直にトライ。むぅん、集中。
ぽかぽかと暖かい感じだけが伝わって来る。
宇宙は見えないけど、あったかいです。
しばらくそうしていると、靴下を裏返すような感じで、自分がぐりんとひっくり返ったかのような感覚が襲った。が、すぐ元に戻る。
ちょっと不安定なため、どちらかにじっと留まることができない。
裏返ったり、元に戻ったり。
出たり入ったり、出たり入ったり。
力むと不安定さが増す。脱力を心がけ、安定させる。
試行錯誤しながら、裏返った瞬間に落ち着けるように調整。
――行った!
「おお! これは――」
まさしく宇宙。
自分の所在があやふやになり、自分をかたどった宇宙のような場所にいることだけを知覚できる。
なんとも不思議な感じである。
「どうだ、うまくいかったか?」
兎与田先生の問いかける声が、どこからともなく聞こえてくる。
「はい〜、とっても不思議な感じです」
「この短時間で辿り着けるとは、すげえ才能だな。本当に一属性なのが惜しいぜ」
「横になっているようにしか見えないけど」
「その通り。真緒は凄い」
父は疑い、母は娘が褒められて喜んでいた。
「あ〜、お静かに。一応集中状態なので」
兎与田先生の声で場が静まる。
安定させるのに結構集中する必要があるので助かるね。
「それで、だ。お嬢ちゃんの宇宙の中でみぞおちに当たる部分に霊核があるはずだ。本来の自分が手を当てている部分だな。そこに意識を集中して霊核を見つけてみろ」
「わかりました〜。……あ、これかな」
言われた通りにすると、あっさりそれっぽいのを見つけた。
大きさは人差し指くらい。見た目は水晶クラスターみたいだ。へぇ、綺麗だな。
「きっと、水晶や氷みたいなやつだ」
「ありました〜」
「よし、一旦そこまでで目を開けてくれ。そうすれば、簡単に戻って来れる」
「はい。おお、重力を感じる」
まぶたを開けて、無事帰還。自室で不思議体験。これは面白くてハマりそうだ。
「うまく行ったみたいだな。で、霊核の大きさはどのくらいだった?」
「えっと、指一本分くらいですね」
兎与田先生に問われ、人差し指をちょんと立ててみせる。
「予想通りか……。属性数が多いと霊核は大きくなるんだ」
「ということは、私のは小さいという事になるんですね」
比較対象がないから分からなかったが、あれは小さい部類なのか。
まあ、一属性だしね。仕方ないね。
五属性なら、五倍くらいの大きさなのかな?
「その通り、かなり小さい。霊核が大きければ大きいほど、霊気を生み出す量が多くなる。ちなみに、同じ年齢の二属性でもお嬢ちゃんの霊核の百倍以上の大きさがあると思ってくれ」
「なんとまあ。それじゃあ五属性だと、もっとすごいってことかあ」
私の霊核、小さすぎ!
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