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 ――それから数日後。



 私とレイちゃん、それに母さんの三人は、とある山林に来ていた。


 詳しい場所は分からない。なんせ軽飛行機と車での移動をはさんだのだ。


 なんとなく北の方じゃないか、くらいの感覚しか掴めない。


 そんな、何処とも知れない山中の獣道を先導する母が、後ろに続く私たちに説明してくれる。


「今回、アンタたちが招待されたのは、霊術師の資格が欲しい者が受ける成人の儀だ。この儀式を終えると一人前の霊術師として認められ、免許が発行される。当日は闘技場で妖怪と一対一で戦うという儀式を行う。昔は命を落とすような激しいものだったらしいが、今は形骸化して弱い妖怪を倒すだけみたいだ」


 あれ、そんな本格的な感じなの? 儀式を終えると免許が発行されるとか言ってるし。


 てっきり前回と同様、お披露目会みたいなものだと思っていた。


「それと、この場所にどんな関係が」


 まさか儀式に備えて、滝に打たれて身を清めるとかじゃないよね?


「成人の儀は、失敗が許されない。出来て当然なことを証明するためのものだからな。失敗したら、笑いものだ。そういうこともあって、他の参加者はあらかじめ妖怪退治を経験しているんだ。で、周りが準備してるのに、こっちは何もなしで行くのは心許ないだろ? だからアンタたちもここで練習してもらおうってわけ」


「つまり、ここで妖怪退治を経験すると?」


「その通り」


 なるほど、それはありがたい話だ。


 ぶっつけ本番より、心の準備ができて安心だわ。


「でも、なんでこんな面倒な場所まで来たの? 近所で適当に退治すればいいのに」


 近所に妖怪が出ないってわけでもないのに、偉く遠くに来たよね。


「資格の問題だ。往来での退治は、資格を持った正規の霊術師じゃないと、手続きが厄介なんだよ。絶対ダメってわけじゃないけど、練習目的とバレたら許されないな」


「へぇ、霊術師以外が退治してもいいんだ」


 資格が問題になってくるなら、一般人は絶対に退治しちゃだめなのかと思った。


 けど、違うみたいだ。


「森で猪や熊に襲われたとき、資格を持ってない人は抵抗しちゃいけませんってわけにはいかないだろ? だけど、基本は発見したら通報だ。それと同じ理屈だな」


「なるほど。それでこんなよく分からない所に来たんだ」


 つまり、今から我々はハイキング中に偶然妖怪と出くわし、止む無く抵抗するわけか。


「他のコソ練してる奴らも私有地で同じ様なことをやってる。うちもそういったところを探して見つけてきたってだけだ。分かったか?」


「要は、ここで妖怪に襲われて、抵抗すればいいわけね」


「さすが我が娘、理解が早くて助かる。それじゃあ、進むぞ」


「ここはどこなの?」


 この場に来た理由に納得し、母の後に続きながら尋ねる。


「北の方だ。関東の奴らの縄張りから外れている場所だな」


「それで飛行機を使ったんだ」


 東北方面は関東の霊術師たちの勢力圏外。


 紫前に見つかったとしても、口出ししにくい環境というわけだ。


「結構手間を掛けたんだから、一杯倒してしっかり経験を積めよ」


「どの辺まで行けば妖怪が出てくるの?」


 聞いておかないと、こっちも準備が整えられないからね。


「その辺だろ。獣っぽくて、熊、鹿、猪に見えなかったら妖怪だ」


 と、母がぶっきらぼうに答えた。


「ちょ、ちょっと待って! 妖怪ってどうやったら退治できるの? 私、見たことすらないんだけど!」


「わたくしもですわ!」


 まさか、現場に到着していたとは知らず、私とレイちゃんは慌てふためいた。


 いつものことながら、我が母はいきなりが過ぎる。


「ん〜……、それこそ猪や熊と変わらん。ちょっと見た目が奇抜だったり、シュールだったりするだけだ。私も殴り殺したり、刺し殺たりしたことがある。霊気が弱点らしいから、当てれば死ぬんじゃないか?」


「ザックリしすぎ!」


 余りに適当な解答に、つい突っ込んでしまう。


 できればもうちょっと専門的な知識を知りたかった。


 って、霊術師でもない母が知る訳もないか……。


 などと、大声で騒いでいたのが原因か、何かが接近する気配を感じ取った。


 人ではない。おそらく獣の類いだろう。


 草を踏んで駆ける音がする方へ、私と母が同時に視線を向ける。


「ほら来た」


 と言った母が、懐から消音器付きの銃を取り出し、発砲。


 三発の銃弾が、見たこともない獣の首と胴と足に命中した。


 あれが妖怪か……。


 妖怪は地に落ち、ジタバタともがく。


 母は妖怪に無造作に近づいて蹴り上げ、前足を掴み取る。


 そしてナイフを立て続けに突き立てた。


 傷口からは煙が溢れ、しばらくすると姿が消えてなくなってしまう。


 消えてなくなるのと同時に、石のような何かが地面に落ちた。


 ――って、母の動きがおかしい。いつ見ても早業が過ぎる。


 霊気を使っていないのに常人とは思えない動きだ。


「ほらな。こんな感じでいけばいい」


「霊術関係なくない?」


 霊術師の存在意義が問われる退治現場を目撃してしまった。


 銃とナイフで倒せるのなら、霊気を使う必要ないよね。


「マオちゃんのお母様って格好良いですのね! それに初めに使ったのはじゅ……」


「エアガンだよ!」


「エアガンだ」


「エアガンですのね」


 エアガンだから問題ない。レイちゃんも以心伝心、阿吽の呼吸で納得してくれた。


 といっても、こっちの世界は妖怪のせいで銃の規制が緩い。


 所持していても、おかしくはないのだ。


 まあ、子供の私が持つことは許されないので、一時期海外に行くことになったけど……。


 なとど、周囲を気にせず大声で騒いでいたせいか、新たな気配の接近を感じる。


「お、次が来たぞ。今度は手を出さないからやってみろ」


「了解」


 母の言葉に短く頷く。


 気配がする方へ視線を向ければ、木を飛び移りながらこちらへ迫ってくる何かがいた。


 猿ではないのは確かだ。なんせ、緑色だしね。


 ちょっと狙いを定めにくい動きだが、問題ない。


 こういった動きに合わせた射撃訓練なら、毎日のようにやっていたのだ。


 霊術で試すのは初めてだけど、当たるだろう。


「よっ」


 私は手袋型の霊装を掲げ、霊気を手加減して放つ。


 すると、土の属性色が色濃く出た黄色い霊気のビームが妖怪を貫いた。


 霊気を受けた妖怪は、蒸発したかのように消えてなくなってしまう。


 そして、先ほどと同じ様に石のような何かが地面に落ちた。


「これが凶石?」


「そうだ、よく知っていたな」


 昔、図書館で調べた記憶がある。


 妖怪を倒すと出てくる石。それが凶石。


 霊術師は妖怪の討伐報酬と、凶石を売って生計を立てているのだ。


 凶石は、燃料として利用されているんだっけ。


 確か……、凶石の癖が強いので発電所でしか使用できないとかなんとか……。


 大して興味がなかったから、あんまり覚えてないや。


「こいつは、妖怪が食うと力を増す効果がある。そのまま放置していても風化しないので、必ず回収する必要がある。その辺に放置すると、ゴミの不法投棄と同じ扱いになるから気をつけろよ」


「不思議な石ですのね」


 淡く光る凶石を手にしたレイちゃんが呟く。


「回収所に持っていけば買い取ってくれる。最後は発電所行きだな。お、また来たぞ。今度は礼香ちゃんがやってみようか」


「頑張りますの!」


 母から指名され、気合を入れるレイちゃん。


 今度の妖怪は、こちらへ向けて一直線に駆けて来るタイプだった。


 これは狙いを定め易いね。


「はい!」


 レイちゃんが扇型の霊装から霊気を放つ。


 が、微妙に狙いが外れ、直撃せずに掠る程度で終わる。


「く、もう一度!」


 レイちゃんは迫る妖怪にも焦らず、すぐに体勢を立て直して再度霊気を放出。


 今度は、対象の頭部を捉えた。霊気が貫通し、妖怪がその場にドサリと倒れる。


 そして、煙を上げながら消えていった。


「やりましたわ!」


「レイちゃん、ナイス!」


 喜ぶレイちゃんとハイタッチ。


 これは順調な滑り出しではないだろうか。


「やっぱり動いているものに当てるのは難しいか?」


「はい。こんなことなら流鏑馬やぶさめでも習っておくべきでしたわ」


 母の問いに、レイちゃんが考え込むような表情で答える。


 射撃の難しさを語るレイちゃんに、新鮮さと懐かしさを感じてしまう私。


 確かに、動くものを撃つ練習って日常ではやらないもんね。


 慣れている私と母が異常なんだよ……。


「今日はこのまま続けて、次回はうちの研修所で動く的を狙う練習でもするか」


「うん、それがいいかも。当たらなければ、倒せないもんね」


「よろしくお願いしますわ」


 実際に体験し、新たな課題と練習目標もできた。


 とにかく今日は妖怪を倒して感覚を掴んでいこう。





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