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◆九白圭
私は九白圭。私には小学五年生になる娘が居る
とてもかわいい娘だ。
娘は友人に恵まれ、学業、プライベート共に充実した生活を送っているようだった。
だが、その娘にも困った部分がある。
それは霊術だ。
娘は霊術にのめりこみすぎている。
余暇のほぼ全てを霊術につぎ込んでいた。
今までは、それだけ打ち込めることがあることはいいことだと思っていた。
しかしここ数年、ちょっとおかしいことになりつつあった。
修行のし過ぎで、娘の常識にズレが生じてきているのではないかと疑う場面が出てきたのだ。
一例を上げると、家で着膨れてパンパンになっていたり、趣味の悪いジャージを着用したりといった感じだ。
しかも、その格好に加えて、腰には縄を巻いている状態だ。
縄の行方を辿れば、娘の部屋まで延びている。
一体、あの縄の先には何があるんだ……。
だが、年頃の娘の部屋を無断で覗くわけにもいかない。
霊術にこだわりすぎて、ファッション感覚が狂ってしまったのだろうか。
といっても、変な格好をするのは家にいる時だけ。
外に行く時はいたって普通だ。ということは問題ないのか?
うーん、娘の感覚が分からない……。
これは久々に家族会議を行うべきか迷っていると、娘から久々のおねだりがきた。
なんでも、大きい空間が欲しいという。
空間ってなんだ? えらく抽象的な要望だな。
なんのことはない、詳しく聞けば土地だという。
まさか、小学生で不動産に興味を持ったのか、と思ったら違った。
何に使うのか、と聞けば、霊術の修行だという。
少し前に、自室の床を傷めたため、屋外でやりたいとのこと。
むむ、あの一件は霊術の修行が原因だったのか……。
土地と言うが、庭や近所の公園では駄目なのかと聞くと、人目につかない方がいいという。
この時の私は、まだことの重大さをあまり理解せず、娘のかわいい我がままを聞くつもりで、使っていない貸し倉庫の使用許可を与えた。
その日の夜、同行した運転手兼警護の長浜から、娘がおかしい、と報告を受けた。
何がおかしいんだと、聞いても返ってくる返答が要領を得ない。
仕方ないので、夕食の場で娘に直接尋ねてみた。
「真緒、霊術の修行といったけど、倉庫で何をしているんだい?」
「う〜ん、霊核の修行だよ。家で先生に教えてもらってるのを見たことあるでしょ?」
ほう、あれなら私も指導風景を見た。
ただ寝転がっているだけにしか見えなかったが、霊術では基本中の基本。
とても重要なものだと聞いた覚えがある。
なるほど、あれをやっているのか。
だとしたら、なぜ広いスペースが必要なのだろう。
そのあたりの疑問を解消すべく色々と質問した。
が、霊装が邪魔になるからとか、置き場所が無いからとか、という答えが返って来る。
これは言葉通りに受けとめていいのだろうか。
どうにも、想像ができない。
一度、同行して現場を見てみた方がいいな。
そう判断した私は、娘の修行についてくことにした。
そして当日、娘と港にある倉庫に向かう。
目的地の倉庫は、以前輸入雑貨を扱う店に貸していたものだ。
現在は店が経営難で倒産し、倉庫は次の借り手待ちとなっている。
だが、かなりの広さがあるため、中々次のお客が見つからないという代物だ。
そんな広さ倉庫に到着すると、娘は最奥に陣取って集中し始めた。
次の瞬間、娘の眼前にコンテナサイズの金属の塊が出現した。
音もなく突如現れたそれは黒一色。光沢のある表面が鈍い輝きを放っていた。
私が呆気に取られて棒立ちしている間に、娘は同じものを淡々と出現させていく。
そして、塊で倉庫を埋めながら、私が立っている入り口ギリギリのところまで移動してきた。
こっちの列が門で、こっちの列が器と説明を受けるも、まったく意味が分からない。
最後に出したコンテナの側に黒色のマットを敷き、こちらへ戻ってくる。
「もう少し広い方がいいんだけどね」
という娘の呟きが本音なのは、倉庫のギチギチ具合を見れば一目瞭然だ。
ここ、かなり広いんだけどな……。
「それじゃあ、始めるね」
まだ、始まってすらいなかったのか、と驚愕する私。
金属の塊に追い詰められた娘は、私の側に立つと集中を始めた。
よく見ると、その体には太い縄のようなものが巻き付いていた。
これは……、自宅で腰に巻いていたものと同じだ!
黒色の縄の行方を追うと、眼前のコンテナ群と繋がっているようだ。
「いくよ〜」
かけ声に呼び戻され、視線を向ける。
すると、一番近くにあった金属の塊から、ガコンと大きな音を立てて黒色の塊が転がり落ちた。
いきなり姿を表した塊は車ほどのサイズだ。
出てきた物は、倉庫に埋め尽くされたコンテナと大きさ以外の違いが無いように見える。
なのになぜ、出し方が違うのだろう?
出てきた黒色の塊がマットの上に落ちると、一瞬で消えてなくなってしまう。
一体何が!?
と思ったら、また同じ動作を繰り返す。
コンテナから黒色の塊が吐き出され、マットに触れて消える。
それが延々と高速で繰り返される。
その様は、まるで完全に自動化された工場のようだ。
結局、その作業(修行?)は丸一日行われた。
「ふぅ、今日も中々の成果だね」
満足げに額を拭う娘。
私には、全く理解できない光景だったが、娘にとっては満足の行く結果だったようだ。
運転手兼警護の長浜が、私に視線を送って問うてくる。
分かった、これはうまく説明できない。分かったから!
その日から、娘は少しでも時間ができると倉庫へ繰り出していた。
そんな出来事が記憶から薄れ始めた、数ヵ月後のある日。
娘から再度おねだりが来た。
内容は全く同じ。広い場所がないかという。
えぇ……、あの倉庫で駄目になったということなの? そういうことなの?
となると、最早建物では無理だ。
人目につかないことを考慮すると、山や島になってしまう。
それでどうだろうと尋ねてみると、距離の問題が出た。
なるほど、遠すぎると通えないというわけか。
うーん……、困ったな。そうだ! 確か使っていない採石場があったはず。
都市部から近いため、たまにテレビや映画の撮影に使う程度で持て余していた土地だ。
ほとんど放置に近い状態だったため、すっかり忘れていた。
あそこなら要望にかなうだろう。
というわけで、採石場跡地の話をしたら大層気に入ってくれた。
それから、娘の通い先が倉庫から採石場へ変わることとなった。
今回もどんな様子か確認しておきたかったので、仕事が休みの時に娘の修行に同行することにした。
娘に危害が及ばないように、事前に周囲の妖怪退治は依頼してあるので、安全は確保されている。
運転手兼警護の長浜に聞いても、問題は無さそうだった。
唯一の懸念点は、広さが足りているかどうかだろう……。
「それじゃあ、私はここで見ているから」
「うん、行って来るね」
採石場に到着後、娘は嬉しそうに最奥に駆け出した。
改めて見ると、本当に広い。駆けて行った娘の後ろ姿が点になり、ほとんど見えなくなる。
どうやら立ち止まったようだ。また、コンテナもどきを出すのだろうか?
と思ったら違った! そんな大きさじゃない!
三階建てのビルほどの塊を出し、それを密着させるようにして並べている。
「あれが霊装なのか」
娘の説明を聞く限り、あのビルみたいな塊が霊装らしい。
それを大量に配置する事によって、霊気の濃度と送る量を増大させ、一瞬にして圧縮を行うとのこと。
ビル群は以前使っていた倉庫の三倍ほど広さを埋め尽くした。
後は、以前と同じ光景だ。
ビルのようなものから、巨大な塊を高速で出す作業を延々と続ける。
娘の眼前で、バスくらいの大きさの塊が出現しては消えるという光景が繰り返される。
ここで私は、あることに気付いた。
倉庫と採石場。塊を作り出す大きさが変わっているのに、速度が同じだ。
…………いや、むしろ速いかもしれない。
つまり、ここもしばらくすればあの塊で埋め尽くされてしまうということではないのだろうか……。
しかし、これ以上大きな土地など近所にない。どうしたものか……。
次のおねだりが来る前に、もう無理だと断りを入れておいたほうが落胆させずに済むかもしれない。
そう思って娘に打ち明けると、「上に積んでいくから問題ない」と解答を戴く。
そうか、上か……。盲点だった。
しかし、あまり上に積みすぎると、不審物が投棄されていると通報されるかもしれないな。
周辺には事前に説明しておくか。
本日の連続更新はここまでとなります
お楽しみいただけたなら、幸いです
何より、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
というわけで、投稿二日で45話連続のぶっ放しです
ストックが一瞬で消えていく恐ろしさよ
ですが、投稿初っ端のブーストが終われば、新規の方の目には留まらなくなってしまうので、ここでぶっこむしか……!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、
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