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 とにかく、一発目は限界まで弱めて撃とう。




 そこから2打目を何倍の力で撃てばいいかを逆算するんだ。


「大丈夫かい?」


「はい、打ちます」


 私は、最低限の返事を返すと、改めて構えた。


 そして、指揮棒を振り下ろすと同時に霊気をほんの少しだけ放出。


「あ、やば……」


 霊気が球に当たった直後、分かった。


 ……これはやりすぎた。


 あれだけシミュレートしたのに。私のバカ……。


 ――――でも、もう遅い。


 霊気によって飛ばされた球は、重力に逆らい地面と平行に驀進。


 凄まじい速度で第一から第三ゲートを抜け、そのままフィールドを突き進む。


 そして、一度もバウンドしないままゴールゲードに直撃した。


 球の威力が強すぎたのか、ゴールゲートが大きく傾いてしまっている。


 いやあ……、ゴルフならホールインワンだね!


 私のショットを見て、時間が止まったかのように静まり返るギャラリー。


 ゴールゲートから落下した球が地面にバウンドする音が、ここまで聞こえてくるようだ。


 まあ、二人組のスコアは上回ったし、いいか。


 私はレイちゃんの方を向き、ウィンク。やったぜ。


「イ、 イカサマだ! ズルをしたんだ!」


「そうだ、そうじゃないとあり得ない! あんなに飛ぶはずがない!」


 途端、二人組が難癖を付け出した。


 それを境に、止まった時間が動き出すが如くギャラリーも騒ぎ出す。


 色々言われているが、二人組があれだけ騒いでるってことは、それなりにやり返せたってことだ。


 イカサマと思われようが、私にとってはどうでもいい。


 レイちゃんの気分が少しでも晴れてくれれば、それでいいのだ。


「彼女は私の娘の友人だ。彼女に対する誹謗中傷は、私に対するものと同義と考えて欲しい」


 小さなざわめきが細波のように起きる中、落ち着いた通る声が響いた。


 声の主は、雲上院昭一郎。レイちゃんのお父さんである。


 視線が昭一郎さんに集まり、別種のざわめきが発生する。


 よし、昭一郎さんに視線が集中している今の内に撤収だ。


「ちょっと、君……」


 私は、進行役の人が呼び止めるのを無視し、レイちゃんの手を引いて飛び出した。


「あいつらの顔、見ましたか? すごく驚いていましたよ」


「マオちゃん! マオちゃんは一属性なんですよね?」


 レイちゃんが興奮気味に尋ねてくる。


「そうですよ?」


「なら、わたくしも……、わたくしもあんなことが出来る様になるのですか?」


「すぐには無理だけど、いつかは出来るよ」


「凄い、凄いですわ!」


 興奮しきりのレイちゃんを車に押しこめる。


 車内では、昭一郎さんが待っていた。おう、どこで先回りされたんだろう。


 などと考えているうちに、黒服さんが扉を閉めて、発車。


「ただ一緒に付いてきてほしいという話だったのに、こんなことになってしまって、すまない」


「いえ、大丈夫ですよ。一泡吹かせてやれて気分もいいですし」


「マオちゃん、かっこよかったですわ!」


「ありがとう」


 レイちゃんが笑顔だと、私も嬉しい。


 随分暴投しちゃったけど、やってよかったよ。


 車が動き出してからしばらく後、昭一郎さんが何やら真剣な顔で口を開いた。


「礼香、彼女にはご迷惑をお掛けしたし、ある程度事情を説明した方がいいと思うんだ。礼香には辛いかもしれないが、紫前のことを話してもいいかい?」


「マオちゃんになら、構いませんわ」


 レイちゃんの同意を得て、昭一郎さんが話し出す。


「今日、礼香が声を掛けた女性は、紫前増美。私の元妻であり、礼香の元母でもある」


 母に元ってつけるあたり、相当な確執があるのかな。


 昭一郎さんは、私からレイちゃんに視線を向ける。


「礼香がまだ受け止め切れていないことは分かっている。だが、改めて言うが、彼女に関わるのは止めなさい。アレは、考え方が独特で、分かりあえることは無い」


「……はい」


 納得いっていない感じで、渋々頷くレイちゃん。


「そんなになんですか?」


「彼女とは色々とあってね。ただ、問題が表出したのが、結婚してしばらく経ち妊娠が分かったあとだったんだ。出産後、礼香が無属性と分かると、向こうから離婚を申し出てきた上に親権も放棄。離婚が成立すると同時に行方をくらまし、音信不通になった」


 昭一郎さんは水を飲んで一息つくと、続けた。


「しばらくすると今度は一方的に金だけは請求してくる状態で、すぐに新しい相手を見つけて、妊娠。期間が空けると相手を婿に入れてすぐに再婚だ。次に生まれた子供は霊術が使えると分かり、結婚を継続しているようだ。つまり彼女にとっては霊術が全てなんだよ」


 それでレイちゃんにあんな態度で接していたのか。


「といっても霊術が使える子供に対して愛情がある訳でもない。子供も自分を飾るトロフィーの一つ程度の感覚のはずだ。どれだけ自分が凄いかを見せるための存在としか認識していないんだ」


 それはあの義弟君もかわいそうだな。


 と思う反面、レイちゃんに対する振る舞いを見ていると、あまり同情もできない。


 以前のレイちゃんのように上辺だけ洗脳されているというより、どっぷりと霊術師の縦社会に浸かっている感じだったからなぁ。


「そういえば、なんでレイちゃんは、あの人のことをお母さんって分かったの?」


 話を聞く限り、接触する機会もなさそうだけど。


「それは……、胃根が……」


 なるほど。そこに繋がるのか。


「私の知らない所で、胃根が仲介して何度か会ったみたいだ。あまりいい結果にはならなかったようだけどね」


「……はい。会ったときはいつも今日の様な感じで……。ですから、霊力が使えるようになった今なら、少しは違うかもしれないと思って話しかけたのですが……」


 昭一郎さんの視線を受け、レイちゃんが何か言おうとするが俯いてしまう。


 きっと、会った時にろくでもないことを言われたのを思い出したのだろう。


 むう、レイちゃんが滅茶苦茶しょんぼりしている。


 あんな人のことで落ち込まないでほしいよ。


 これは何としても元気付けたいぞ。


「レイちゃんは、とてもいい子です。そして、とてもかわいいのです」


 レイちゃんがびくっと身を震わせる。


 ふむ、反応あり。ちゃんと声は聞こえているようだ。


「最近のレイちゃんは、とても頑張り屋さんです。気配りも出来て、クラスメイトにも人気なんです」


 レイちゃんは相変わらず俯いたままだが、耳の先っぽが少し赤くなった。


 よし、中々いい反応だ。この調子でいくぞ。


「レイちゃんは勉強も運動もできます。文武両道を体現する姿は私たちの憧れです」


 嘘は何一つ言っていない。全て事実だし、評価されるべきことだ。


 私の言葉を聞いたレイちゃんの耳が真っ赤になり、顔が小刻みに震え出す。


「レイちゃんは踊るのがとてもうまいです。私も彼女のように優雅に踊れたらいいなと常々思っています」


 レイちゃんの顔全体が真っ赤になり、頭から湯気が立ち上っているかのようになる。


 彼女の所作は本当に綺麗だ。私も見習いたいとは思うんだけど、母譲りの豪快さが勝っちゃうんだよね。


「つまり、何が言いたいかと言うと、霊力なんて、あってもなくてもレイちゃんは凄いんです!」


「そうだな。礼香は凄い。よく頑張っているよ」


 昭一郎さんが深く頷く。


 私は視線で頷き返し、話を続けた。


「霊力は一つの個性、能力、技能そういった範疇に収まるものにすぎません。レイちゃんは霊力以外に、それと同等かそれ以上のものを沢山持っています。そして、そんなものがあろうがなかろうが、私はレイちゃんが大好きです」


 霊力でしか評価できない紫前は視野が狭い。あの人の価値観が変わることはないと思う。


 けど、レイちゃんの親は紫前だけではないし、家族以外にも大事に思ってくれる人が沢山いるんだよ、という思いを強く込めて話す。


 そもそも、私と同じ修行を行っているんだから、近いうちに紫前親子の霊力なんて抜いてしまうだろう。


「私は、レイちゃんが生まれてきてくれて、私と友達になってくれて、とても嬉しいです」


「そうか……、ありがとう」


 昭一郎さんが短くお礼を言った。というか、手で目元を覆い、言葉を詰まらせている。


 む、レイちゃんを一杯褒めて元気付けて、紫前のことを忘れさせる計画だったのに妙なところで被弾が発生してしまった。


 本来のターゲットであるレイちゃんは、シートの隅っこで小さく丸まってしまって動かない。


 相変わらず俯いたままだが、僅かに見える口元は微笑んでいたので、多少は効果があったようだ。


 ――ちょっとは元気になってくれたかな?


 ……と、そんなことを話しているうちに車は我が家の前に。


 雲上院親子に挨拶を済ませ、後藤さんに扉を開けてもらって外に出る。


 すると、帰宅していない両親の代わりに迎えに来たお手伝いさんが挨拶してくれた。


 別れの挨拶も終わり、車を見送る態勢になったところで、レイちゃんが私の服の裾を掴んだ。


「…………………………わたくしも、マオちゃんが大好きです」


 聞き逃してしまうような早口の小声でそう言ったレイちゃんは、逃げるようにして車に乗り込んでしまう。


 そして車が出た後は、姿が見えなくなるまでお互いに手を振り合った。


 こうして、レイちゃんの社交デビューは幕を閉じた。





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