37
レイちゃんは、ロビーに言いがかりをつけている集団に突っ込んでいった。
そのまま一直線に一人の女性へ向けて駆けて行く。
滅茶苦茶目つきがキツい、金髪の女性だ。
「お久しぶりです、お母様!」
息をはずませ、笑顔で声をかけている。
あの人が、レイちゃんのお母さん?
確か離婚しているんだよね。今の苗字は紫前だっけ?
うろ覚えだけど、フルネームは紫前増美だった気がする。
レイちゃんと見比べると、確かにどことなく似ている感じはする。
だけど、レイちゃんを見る目が冷たい。いや、不快そうに顔をしかめている。
声をかけられたのに、返事を返そうともしない。
それでもレイちゃんは、構わずに話を続けていた。
「お母様、わたくし、霊気を扱えるようになんったんですのよ!」
「属性数は幾つなの?」
その言葉に少し興味を示したのか、質問を返してきた。
「ひとつですわ!」
レイちゃんが、満面の笑みで答えた瞬間、場が凍りつく。
「おいおい、一つって……」
「属性数一の奴が、なんでこんなところにいるんだ」
次いで、失笑が漏れる。周囲に居た人間がレイちゃんを見て、クスクスと笑い出した。
途端、レイちゃんのお母さんの表情が大きく歪み、怒りに満ちた顔に変わる。
「お前のせいで、かかなくていい恥をかいたではないか! どういうつもりですか!」
「そんなつもりは……」
憤怒の形相で詰め寄られ、言いよどむレイちゃん。
何という言い草だ。私はあの人をレイちゃんの母親とは認めないぞ。
これからは紫前さんと呼ぼう。いや、紫前で十分だな。
それにしても黙って見てられない。これは、ひとこと言い返してやらねば!
そう思って一歩踏み出した途端、昭一郎さんが私を手で制した。
「あそこにいるのは全員霊術師だ。目を付けられると面倒な事になる。私が行くので、そこにいなさい」
昭一郎さんは私にそう説明すると、クレーマー集団の方へ歩いていった。
一方、レイちゃんの方は、新たに男の子が加わっていた。
クレーマー集団は全員声が大きいので、ここにいても会話が良く聞こえてしまう。
「全く、一属性なんて、よくもまあ恥ずかしげも無く言えたものだな! お母様になんの恨みがあるんだ!」
紫前の怒声を引き継いで、男の子が更に罵声を浴びせる。
お母様って言ってるってことは、レイちゃんの弟?
でも、雲上院家で会ったことないし、今まで話にも出てこなかった。
離婚した後に再婚して出来た子供ってことかな。
それにしては、私たちと大して歳が変わらない見た目なんだけど……。
「邪魔だ! 一属性の分際で道を塞ぐな! 開始時間に合わせて来たのに、これ以上こんなところで時間を取られてたまるか!」
「きゃっ」
避けて通り抜けることもできるのに、男の子がレイちゃんをわざわざ突き飛ばした。
その拍子に洋扇が地面に落ちる。
「二度と近づかないで」
と、紫前が言い放ち、洋扇を踏み割った。
「……ッ」
割れた洋扇を見て、固まるレイちゃん。目には薄っすらと涙が浮かんで……。
おいおい、許さんぞ!
「その辺にしないか。見苦しいぞ」
私の我慢の限界が近づいた時、昭一郎さんが紫前の前に到着した。
「貴方!? どうしてここに!?」
目を丸くし、驚いた様子で固まる紫前増美。
クレーマー集団も昭一郎さんの顔を知っているらしく、急に静かになった。
「娘が一人でこんなところに来るはずがないだろう。少し考えれば分かるはずだ。そもそも、すぐ側にいたんだから普通なら気がつくだろうに……」
目と鼻の先にいたんだよなあ。
ロビーとのバトルに執心で、全然こちらの方を見ていなかったから気付かなかったのだろう。
「今のは不可抗力です! 向こうから来たのですから、私にどうこうできるはずがないでしょう!」
紫前は、昭一郎さんに対し言い訳めいたことを口にする。
あれ? なんで強気に振舞わないんだろう……。
昭一郎さんは霊術が使えないはず。つまりは無属性だ。
そういう人相手なら傲慢な態度を取りそうなものなのに、滅茶苦茶弱気だ。
「一部始終を見ていた相手に、そんな言い分が通るわけがないだろう」
昭一郎さんが呆れたようにため息をつく。
そこへ母の窮地を救おうと考えたのか、男の子が割って入ってきた。
紫前は止めようとしたみたいだったが、間に合わなかった。
「誰ですか、この男は? こいつもどうせ大した属性数じゃないでしょう」
「私は無属性だ。霊術など使えないよ」
当然のように無属性と答える昭一郎さん。
「ハハハ! 一の次はゼロか! お似合いの親子だな! ちなみに僕は三属性だ! お前みたいな奴が話しかけていい存在じゃないんだぞ!」
鬼の首を取ったかのように、男の子が嘲笑する。
この展開ならクレーマー集団が便乗して全員でバカにしてきそうなものなのに、全く乗ってこない。
それどころか、無言を貫いたまま、そそくさとその場を離れ出した。
紫前が周りに誰もいないことに気付き、焦り出す。
残されたのは、紫前と男の子だけだ。
まるで見捨てられたみたいな展開だ。
「だ、黙りなさい! 皆と会場に行ってなさい!」
紫前が、男の子の襟首を掴み、強制退場させようとする。
「お母様?」
「貴矢! 早く!」
結局、男の子を無理矢理その場から引き離した。
へぇ、あの子は貴矢君というのか。いや、貴矢でいいか。
貴矢は何度も振り返りつつもその場から退き、残ったのは紫前増美一人となった。
「君の息子だ。あの子がどんな教育を受けていようと私には興味がない。だが、礼香を傷つける者は誰であろうと許さん。しばらくは一緒に居た身だ。温情として、一度は最低限に抑えよう。来月以降の援助は打ち切りとさせてもらう。今回はこの程度で済ますが、次は遠慮なしにいく。覚えておきなさい」
「待って! そんなことをされたら!」
昭一郎さんの言葉を聞き、紫前が突然慌て出す。
「どうだというんだ? 君も三属性だろう。君達のいつもの振る舞いを正当化したいなら、せめて無属性からの施しなど倍返しにしてみせるくらいの気概を見せたらどうなんだい」
「……ッ」
「話は終わりだ。私の前から消えろ」
昭一郎さんの言葉を聞き、紫前は早足でその場から立ち去った。
紫前がいなくなったのを見計らって、昭一郎さんがレイちゃんを抱き締める。
「大丈夫かい? 嫌な思いをさせてしまったね。だけど礼香、あの人を母親と思うのは、やめなさい」
「そんなこと……」
レイちゃんが昭一郎さんの言葉を受け止め切れないのか、黙りこくってしまう。
「アレは、視野が狭い。礼香がどれだけ気持ちを込めて話しても、アレの心には届かないんだ。悲しい話だけどね……」
昭一郎さんの言葉を聞いたレイちゃんは涙を流していた。
そして、泣きながら昭一郎さんを振りほどき、がむしゃらに走り出してしまう。
「礼香!」
昭一郎さんが慌てて追いかけようとする。
しかし、レイちゃんは子供の体格を活かし、人込みの間をすり抜けて行ってしまった。
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