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だが、調査開始と同時に、先生が固まったまま一切話さなくなった。
属性数と属性の調査は一瞬で済むはずだ。
私の時はそうだったけど、何か問題があったのかな。
「先生?」
呼びかけ、顔を覗き込む。すると、顔から汗が滝のように流れていた。
まるで苛酷な減量を終えたボクサーのように頬がこけ、ゲッソリとしている。
「ちょ、大丈夫ですか!?」
もしかして体調が悪いの!?
「あ、ああ……平気だ。なんともねえ……」
と言ったきり、また黙り込む先生。
「ちょっと、どうしたんですか? なんで無言なんですか」
黙る理由を尋ねると、あからさまに目をそらした。
「あ、あの、もしかしてわたくしに何か?」
「何か問題でも?」
不審に思ったレイちゃんと昭一郎さんが尋ねる。
すると先生が、ブルブル震えだす。
先生は、しばらく葛藤の後、覚悟を決めた顔で重い口を開いた。
「た…………たいへん……申し上げ………………にくいことなんですが」
皆がゴクリと唾を呑み、先生の言葉を待つ。
「お、お嬢様は…………属性数が……ひ、ひとつ……です」
そこまで言った先生は、膝から崩れ落ち、フウフウと荒い息を吐く。
全身汗びっしょりで、この世の終わりみたいな顔をしている。
調べた結果、雲上院礼香の属性数は一。
なるほど、それで言い出し辛かったのか。
それにしても、まさかレイちゃんまで一属性とは。
一属性って、滅多に引かない大外れって話だったけど、案外当たるものだね。
でも、よく考えると私もレイちゃんも、十代で命を散らす運命の持ち主。
運は相当悪いのかもしれない。
「やりましたわ! マオちゃんと同じです!」
結果を聞いて大喜びになるレイちゃん。
……それでいいのか、レイちゃんよ。
「いやいやいや、大ハズレの属性数一だよ? 喜ぶところじゃないからね」
抱き付いて来るレイちゃんを宥めながら、丁寧に説明。
霊術師としては、お先真っ暗なんだよ。
「はあ、そうなのですか」
と、全く実感のこもっていない相づちが返って来る。
「ちなみに属性は火でした。安定して人気がある属性ですよ」
レイちゃんの喜びようを見て、復活した先生が属性を教えてくれる。
ほほう、火か。不人気の土じゃなくて良かった良かった。
「ええっ、土じゃありませんの!? どうしてですの!」
頬を膨らませプンプンになるレイちゃん。
「なんとか土にならないのかい?」
冷たい笑顔で先生に詰め寄る昭一郎さん……。
「ヒッ、ヒエェェエエ! お許しを〜〜〜!」
寝土下座ばりに、床にピッタリひれ伏す先生。
雲上院家の人々のオーラが凄すぎて、先生が不憫すぎる。
ここは助け舟だ。
「先生が行ったのは調査なので、属性を変えるのは無理ですよ」
「むぅ、マオちゃんと同じ属性が良かったですわ」
と、不満を洩らすレイちゃん。
「人気の属性らしいですし、良かったじゃない。私の土属性は不人気らしいしね」
属性に関する霊術なんて使ったことがないのでピンとこないけど、人気なのはいいことだ。
「残念ですわ」
ガッカリするポイントがズレてるよ、レイちゃん。
――というわけで、つつがなく属性数と属性の調査は終了した。
その後のことは私が引き継ぐので、退室する先生を玄関まで見送ることになる。
廊下を歩いていると、ホッとしたのか、先生が口を開く。
「いやあ、一属性ってことを伝えなきゃいけないと分かった時は、死を覚悟したぜ」
「そんな大げさな」
「いや、一属性ってことは霊術師として死を宣告されるのと同義だぞ? お前は一属性なのに、なんでそんなに平気な顔しているのか、よくわからん。あれから随分経つけど、霊核も少しは大きくなったのか?」
「それはもう。今も大きくなってますよ」
凄いですよ? 見せられないのが残念でならない。
「そ、そうか……。早くまともに霊術が使えるようになるといいな。その時は、ちゃんとレクチャーしてやるから、俺を呼べよ?」
「はい。報酬は弾みますので、よろしくお願いします」
霊核も随分大きく育ったし、そろそろ霊術を習っても大丈夫かもしれない。
でも、すぐに必要という訳でもないし、急ぐこともないか。
「分かってるじゃねえか。いやあ、お前の指導をしておいてラッキーだったぜ。この後も、何もしなくても金が入ってくるなんて夢のようだ。じゃあ、気を落とさず頑張れよ!」
報酬を貰い、懐が潤って機嫌の良い先生は、笑顔で雲上院邸を去って行った。
見送りを終えた私はレイちゃんの許へ戻り、指導を再開する。
さて、レイちゃんにも霊気圧縮の素晴らしさを理解してもらおう。
――その後、数日掛けて、霊核、霊装、霊気についての授業をし、無事習得。
そして最後の締めに、私流の霊核拡張術を習得してもらった。
レイちゃんは霊術のセンスがあるのか、霊気の扱いがうまい。
すぐにコツを掴み、私と同様に日々霊気圧縮をする日々に移行した。
結果、霊核を大きく育てる楽しみを覚え、私と一緒にじっとする時間が増えた。
そのせいで、お嬢様が呆けてボーっとするようになったと、あらぬ噂がたってしまったが……。
今は事情を説明し、理解を得ている。
圧縮に慣れてきたら、マルチタスク的に行動をこなせるようになり、日常にも支障がなくなってくる。だから、ボーっとしているように見えるのも、今の内だけだしね。
――無事に講習も終えて数日経過したある日、雲上院家に呼び出しを受けた。
霊術授業の時のように、雲上院親子に出迎えられ、応接室で落ち着く。
こういった改まった感じは久しぶりだ。
特に思い当たることはないけど、何かあったっけ?
「わたくしとパーティーに行って欲しいのですわ」
という、レイちゃんからの突然のお誘い。
急にどうしたんだろう。そもそも何のパーティー?
「真緒ちゃんのお陰で礼香も、とても元気になった。特に霊薬を飲みきってからは、自信がついたように見える。だから、そろそろ社交の場にも慣れてもらおうかと思ってね。ずっとそういった場には行かせていなかったから、元気な姿を周知させるのも目的だね」
という昭一郎さんからの説明。
なるほど、そういうことね。
「分かりました。私でよければ喜んで」
断る理由が無い。むしろ、レイちゃんの晴れ姿を間近で見れるチャンス。
なんとか参加させてくださいと、こちらからお願いしたいくらいである。
「ありがとうですの!」
レイちゃんが、嬉しそうに抱き付いて来る。
最近は本当に明るくなったなぁ。
「礼香ももうすぐ中学だ。それ以降のことを考えると、今からでもギリギリなんだ。今回は慣らしが目的だから、小規模なパーティーに顔出し程度で行くつもりだ。真緒ちゃんが同行してくれると、助かるよ」
雲上院家の令嬢としての初めの一歩、みたいな感じなんだね。
――そういえば、霊薬を飲みきった記念のご褒美というか、お祝いの品的な物を渡したりはしていなかった。
今回のパーティー出席記念と併せて、何かプレゼントでも贈ろうかな。
二人が一属性を引いたのは、運が悪いのはもちろんのこと、別の理由が存在します
そのことが描かれるのは、かなり先のことになります




