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◆九白圭
私は九白圭。九白真緒の父だ。
娘は、ちょっと変わり者だ。だが、両親である私たちが変わり者なのだから仕方ない。
子は親に似るもの。そう思えば変わった部分も、たちまち愛らしく思えてしまう。
そんな娘にとうとう友達ができた。とても喜ばしいことだ。
娘を焦らせないよう、好きなことを伸ばしながらのんびりと様子を見て来たが、遂にその時が来たのだ。娘から友人の報告を聞いた時は、本当に嬉しかった。
しかも、妻より先に聞けたのがまた嬉しかった。
現在妻は出張中。しばらく帰って来ない。
私が先に報告を聞いたことを知ったら、きっと悔しがるに違いない。
いつか家にも連れておいでと言ってあるので、その内会えるだろう。
一体どんな子だろうか。
今のところ、友達の事を話すのが恥ずかしいのか、名前すら教えてくれない。
あまり強引に聞き出そうとすると嫌われてしまうだろうし、なんともじれったい。
――と、思っていたら、案外あっさり話してくれた。
なんと娘の友人は、あの雲上院家の一人娘だった。
今まで友達がいなかったと思ったら、初めての友達が雲上院家。
娘よ、触れ幅が激しすぎるぞ。
いや、人を家柄や血筋で見るつもりはない。
だが、それにしても雲上院家は規格外なのだ。
接し方を間違えると、どうなるかわからない。
子供同士のケンカは許されるのだろうか……。
ケンカが原因で、会社を乗っ取られたりとかしないよな……。
まずい、震えてきた。
少し前までは嬉しい気持ちで一杯だったのに、今は恐怖で押し潰されそうだ。
娘から友達の話を聞くのがスリル満点に変化してから、しばらく経ったある日、娘がお嬢様との会話を録音して持って帰って来た。
盗聴ではない? それは一安心。
いやいや、なんで録音なんかしたんだ。
本人に了承を貰ってる? なら、いいのか。
録音にも何か意味があるのだろう。ここは娘を信じねば。
意を決して会話を聞くと、頭を抱えるような内容だった。
これを、雲上院昭一郎にぶつけたいという娘。
もう、なんでそういうこと言うの。いや、知ってて放置もできないよなぁ。
しょうがないか、と伝手を頼ってアポを取った。
その後は、案外スムーズに事が進み、円満解決に至った。
まさしく、案ずるより産むが易しである。
まあ、娘が凄いだけですね、はい。
しかし、こうやって娘と行動を共にすると、長年に渡る妻の仕込みが活きてきたのか、存在感が増している気がする。
それからも、娘は学校を舞台に中々刺激的な毎日を送っているようだった。
なんでも、霊術を使って人助けをしたそうで、学校側から感謝の言葉を戴いたりもした。
早速その事を褒めたのだが、あまり嬉しくなさそうだ。
それが原因で別の問題が発生したとかなんとか……。
詳しくは話してくれなかったので、自分で解決できる問題ではあるのだろう。
娘はそういった状況に陥った際、親の私が心配する必要がないほど客観的な判断ができる。
自分で対処できると判断すると解決するまで全く話さない。逆に、親の力が必要と感じた時はためらいなく相談してくれる。
まあ、そのせいで雲上院昭一郎と会うことになるとは思わなかったが……。
あれ以来、雲上院さんとは、たまに飲みにいくようになった。
酒の肴は娘の成長である。お互い同い年の娘がいる親同士、会話が盛り上がるのだ。
だが、結局はお互いの娘の自慢に発展し、険悪なムードでお開きとなる。
それなのに、お互いから誘い合って飲みに行く関係が続いているのは、仕事が絡まないからだろう。
やはりこの年齢になって、仕事以外での付き合いは貴重なのだ。
そんな我が家の自慢の娘が、ある日突然、料理にこだわり出した。
ふむ、料理ができるようになるのはいいことだ。
私も妻も、料理は得意だし、好きだ。美味しい物を食べると、心が豊かになるからね。
キッチンにこもる娘の背を見た私は、懸命に取り組む姿に感動し、目を閉じて深く頷く。
以前、妻と一緒にサバイバル訓練をした時は、大して料理に興味を示さなかったと聞く。
何でも適当に焼いて塩を振って食べていたという話だったが、心境の変化でもあったのだろうか。
と、物思いにふけっていると、異臭が立ち込め始めた。
クサッ! いや、鼻の粘膜が痛い!?
慌てて様子を見ると、ガスマスクを装着した娘の姿が――。
え、料理じゃなかったの?
マスクをしてるってことは、臭いは想定してたってことだよね?
異臭の原因を探ろうと、テーブルに散らばる材料に視線を向ける。
ふむ、食べ物以外の物があるわけではない。
どうやら、ちゃんと食材を使っているようだ。
なになに……、ワサビ、コーヒー豆、緑茶、どくだみ茶、パクチー、ゴーヤー、にんにく、ブルーチーズ、マーマイト、サルミヤッキ?
他には塩辛とか、納豆、くさや、鯖寿司の姿も……。
うん……、料理なのかな。
娘よ、一体どんな完成図をイメージしているんだ。
私は、調理という名の実験に集中している娘に声を掛けた。
え、これをお嬢様に食べさせる!?
私は全力で娘を止めにかかった!
最終的に、がっちりと手四つで組み合う形に。
くっ、何としても、この名伏し難い冒涜的料理のような何かは廃棄しなくては!
ここで私が止めなければ、お嬢様の命に危険が!
友人となった雲上院さんにも申し訳が立たない!
娘よ、すまない。大人気ない父を許してくれ。ここは全力で行く!
あれ?
……………………全然勝てなかった。
今の小学五年生って、こんなに力が強いの?
え、合気から関節技?
え、滅茶苦茶痛いんだけど!
ギブです!
色々な自信が砕け散った私は、その場に崩れ落ちた。
と――いう、光景の一部始終を見ていた妻が自慢げな顔で深く頷く。嬉しそうだ。
あ、むせ始めた!
あ、ガスマスクつけてる!
すみません、私の分も下さい。
「パパ、私の手料理を味見して欲しいの」
と、真緒が瞳を潤ませてお願いしてくる。
もう、こういう時だけパパって言う。
瞳がウルウルしているのは、調理時に出た煙か臭気のせいかな?
「食べてやれよ。初料理だぞ」
「いや、初料理ではないだろ。野外で色々作ってたでしょ?」
と、妻の援護射撃を撃墜。
だいたい、それは食べるものなのか? 液体に見えるけど……。
妙にニチャニチャしてるな……。
「んん〜。今までのは、時短の栄養補給法って感じかな。ちゃんと調理したのは今回が初めてだよ」
「そうそう、そういうこった」
と、ガスマスクを着用した母子がにじり寄ってくる。
娘の手には、黒い粘液が入ったビーカー。
妻の手には、ロート。
これは、だめかもしれん……。
………………その後、換気扇を回していたせいで、周囲にも異臭が漏れてしまった。
幸い、臭いの拡散は敷地内で済んだが、隣家と近ければ通報されていたかもしれないな。
後に、霊薬に味が似た物を作って、諦めさせるためだと説明してもらった。
それならそうと、先に言ってくれればよかったのに。
というか、霊薬ってあんなにマズイものだったのか。
え、あの程度ではない? そうですか……。
我が娘の膂力は小学生とは思えないほど強いが、忍耐力の強さはそれ以上のようだ。
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