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最近のレイちゃんは随分と変わった。
以前の話題は自慢話が主軸だったが、今はぱったりとなくなった。
逆に、周囲に対し興味や好奇心を示すようになった。
それに加え、所属していたグループには謝罪し、和解が成立。
今はほとんど私と一緒にいる。
長い時間一緒に居るせいか、愚痴を言ったり、素の表情を見せてくれるようにもなった。
それだけ気の置けない関係となれたのは素直に嬉しい。
レイちゃんは、仲良くなると結構スキンシップが激しかった。
どんな時も手を繋ぐか、腕組みが基本だ。多分、不安の表れなんだろう。
というわけで、されるがままにしている。
そんな最近の私たちの様子が周囲に知れ渡り、先生に急に呼び出された。
何事かと思ったら、もの凄くオブラートに包んでレイちゃんの事情説明を受けた。
私が休んでいる間に他の生徒には説明した話として、彼女は大変な目に遭った、だから仲良くしてあげて欲しいとのこと。
お叱りでも受けるのかと思っていただけに拍子抜けである。
そして、その少し前のタイミングで両親にも友人ができたと報告。
そうしないと、いつものようにどこかへ行くことになってしまうからね。
出張から帰ってきた母に友達と過ごしたいから、しばらく学校に通いたいと告げた。
すると、あっさりとOKを頂戴した。
何か言われるかと思っただけに、こちらも拍子抜けであった。
逆に、友達ができたのはいいことだ、と大層喜ばれてしまった。
これで面倒な訓練とはおさらば。のんびりとした学校生活という名の霊気圧縮に勤しめる。
これから毎日圧縮三昧の日を送るぞ! と思ったら、別の問題が浮上した。
それは、レイちゃんが霊術に興味津々問題だ。
レイちゃんは無属性。私と同じだ。
つまり、霊核と繋がっておらず、霊気を発することが出来ない。
ということは、霊術を身につけるためには霊薬を飲む必要がある。
そのことがどれだけ大変かを説明したのだが、うまく伝わっている感触がない。
とにかく自分も霊術を使えるようになりたいと言って聞かないのだ。
妙な必死さがあるというかなんというか……。
以前聞いた憧れという理由だけでは、説明が付かないくらい熱心な気がする。
うーん、気のせいだろうか……。
ちなみに、マンガ『きらめき☆スピリットスター』の設定でも、雲上院礼香は霊術を使えない。無属性だった。
逆に、主人公の因幡七海は、突然変異的五属性。
作中、雲上院礼香は、無属性であることがコンプレックスのひとつになっていた。
作品内では描かれていなかったが、霊薬摂取に失敗した可能性が高い。
雲上院礼香は生粋のお嬢様。
あんな不味い汁を飲み続けるなんて、耐えられるはずがないのだ。
という原作からのメタ読みをすると、今の状態でレイちゃんが霊薬を飲んでも失敗する可能性が高いと思われる。というか、どう頑張っても無理なのでは……。
ということを、何度となく説明した。
だけど、レイちゃんは「わたくし、苦いものは得意ですのよ。ピーマンだって食べれますし、大人の味覚であるワサビも嗜みますのよ」と、胸を張る。
そのセリフや仕草は、滅茶苦茶お嬢様してて可愛い。
可愛いんだけど、そんな苦さや辛さとはレベルが違うんだよね……。
あと、滅茶苦茶臭いんだよ……。
でも、想像できないんだろうなぁ。
実際に飲んだ私ですら、詳細な味の説明ができない物体なのだ。
今の雰囲気のまま、レイちゃんのお父さんである昭一郎さんに、おねだりしたらどうなるだろう。
娘に甘い昭一郎さんのことだから、一瞬で霊薬を手配しちゃいそうなんだよな。
そして、そのまま失敗してしまう未来が手に取るように分かってしまう……。
これは、ご実家に訪問し、親子ともども説得しておいた方がいいよね。
「……というわけで、霊薬を飲むのは止めておいた方がいいです。私が成功したのは運が良かった部分もあるので」
早まった事をする前に釘を刺すつもりで、雲上院邸にお邪魔し、霊薬の説明をした。
私が成功したのは、転生して精神が本当の子供ではなかったからという部分もある。
それに加えて、魔法(霊術)が使いたいという好奇心が強烈にあったからだ。
それでも途中でへこたれそうになったし、最後は意地になっただけだ。
普通の人はそこまで気持ちを維持できないと思う。
それに加え、継続しようとするメンタルにマイナスの負荷をかけてくるものがある。
それが、飲み切った後に得られる報酬だ。
頑張っても、得られるものがしょっぱいのだ。
高確率で二属性なんだよね。
「そういうことか。なら、やめておいた方がいいね……」
私の説明を聞き、納得してくれる昭一郎さん。
よし! 説得成功か!?
「お父様、いじわるしないで」
うるうる瞳で、すがり付くレイちゃん。
昭一郎さんが、ハッとした顔で固まってしまう。
「よしっ! やろ「ダメですって!」」
私が食い気味に押さえ込む。
今、あっさり手のひら返そうとしたし。
これは油断できない。
「マオちゃんもいじわるしないで!」
ぷくっと頬を膨らますレイちゃん。その顔、かわいいですね。
じっと見つめられると、ついハイって言いそうになる。
ダメだ私。気を緩めてはいけない。手の甲をつねり、必死にこらえる。
「さっきも同じ事を言いましたが、失敗すると二度目がないんです。霊薬は本当に不味いので、飲み続けることはとても大変だから止めておくべきです!」
「しかしなぁ……。これだけお願いされてしまうとなぁ……」
だ、だめだ。滅茶苦茶ゆれてる。あと一押しされたら、うん、って言いそう。
くっ……、どうすればいい。このままでは霊薬を飲むことになってしまいそう……。
せめて味変でもできれば、飲み切れるかもしれないんだけど、無理だしなぁ……。
霊薬は不安定なもので、飲みやすくするために何かを加えたりする事が出来ない。
それが許されるなら、私も水で薄めたり、ハチミツを加えたりしたさ!
でも、できなかったんだよね――。
「しかし、そんなに不味いのかい? ちょっと大げさに言い過ぎじゃないかな。うちの娘なら、案外飲めてしまうかもしれないよ」
「そ、そうですわ! わたくしなら出来ますわ!」
二人がそう思ってしまうのも無理はないか。
あれは、飲み物じゃないし、食べ物でもない。分類的には薬だ。
つまり、効果が優先され、味は一切考慮されていないんだよ。
――やっぱり、理解してもらうには、味わってもらうしかないか。
「じゃあ、私が食材を使って、霊薬の味を再現してみます。それを飲んで検討してみてください」
完全再現は不可能だが、似たものは作れる。
なんせ、半年も飲み続けたのだ。
こう見えて霊薬の味には、ちょっとうるさいよ?
「なるほど、事前に味を確かめるのは良い方法だ。礼香、そうしてみないか?」
「分かりましたわ。わたくし、どんな味だろうとへっちゃらですの!」
というわけで、味見してから判断するということに了承してもらった。
くくく、これで勝ったも同然。確実に諦めさせてみせる!
「じゃあ、そういうことで。完成までしばらく掛かると思うけど、待ってて。必ず地獄の底へ突き落とされるような味を再現してみせるから!」
「張り切っているところ申し訳ないんだが、味の表現がおかしいと思う」
「不穏ですわ……」
雲上院親子を説得した私は、味の構想を練りながら帰宅。
そして、その日から霊薬もどきの製作に取り組むこととなった。
こうなったら完成度の高い偽物を飲ませて、きっぱりと諦めてもらおう。
霊薬への挑戦は、レイちゃんがもう少し成長して、苦味や辛味に慣れてからの方がいいと思うんだよね。
そのためにも、ここは全力でまずい汁を完成させてみせる。
目指せ、完全再現!
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