3
◆九白真緒
……まずかった。
…………異常な不味さだった。
何が不味かったかって? 霊薬だよ!
味も凄かったけど、匂いも強烈だったって!
きっとこれを開発した人は、味覚と嗅覚が無かったのだろう。
そうとしか思えない。そんな物を半年間も根性で飲み続けた。
一度でも飲むのをやめると、終わり。再挑戦は不可能だからだ。
両親は、入手できずに失敗する事を恐れて、ある程度一括購入してくれた。
つまり、私が飲まなければ、確保した分を含めてお金が無駄になってしまう。
一本三万。それが一月で九〇万。それが半年で五四〇万。
両親に感謝しかない、この金額。
絶対に失敗できない。
その思いで完遂した。
思い起こせばこの半年、私も頑張った。
朝一で霊薬をキめ、午前中は家庭教師。午後から夕方にかけては習い事。
中々にハードスケジュール。これぞ、お嬢様ライフというものである。
それでも、習い事は前世でも経験したことがないものばかりで面白かった。
子供だから失敗も許されるし、色々試せて楽しいんだよね。
「そして、とうとう今日から霊術の勉強がプラスされるわけね……」
感慨深い。
霊薬を飲みきり、これから講師が家に来て霊術を教えてもらうこととなった。
今のところ、霊気や霊力なるものを感じることはない。
本当にこれで霊術が使えるのだろうか?
使えなかったら、半年間罰ゲームしたようなものなんですけど……。
何より、お金を出してもらった両親に申し訳なさすぎる。
これから更に、講師までつけてもらえるわけだし、何としてもものにしないと!
今日からお世話になる講師の人も、父が知り合いの伝手で有名な方を手配してくれたらしい。
頑張らねば。どんな授業になるか楽しみである。
……う、久しぶりに緊張してきたかも。
ドキドキしながら待っていると、インターホンが鳴る。
玄関に向かい、家族三人でお迎えした。
「どうぞ、上がってください。お待ちしていました」
「どうも初めまして、私、釜崎と申します。今日からお嬢様の霊術の講師を勤めさせていただきます」
「どうぞ、よろしくお願いします。娘は昨日、霊薬を飲み終えたところです」
「ほう、霊薬を……」
父の説明を聞き、感心したような顔を見せる講師の釜崎さん。
「ほら、ご挨拶して」
「九白真緒です。今日からよろしくお願いします」
母に促され、ぺこりと頭を下げる。
「この子なのですか? 随分幼いように見えますが、お幾つなのでしょう」
どうやら授業の相手が、想定していたより随分若かったため、釜崎さんが首を傾げた。
「今年で四歳ですね。頑張って霊薬を飲み続けたんですよ」
「その歳であの薬を飲みきるとは。素晴らしい忍耐力をお持ちですね」
「はは、自慢の娘です。それでは、授業は娘の部屋でお願いします。何かあれば、声をかけてください。我々は邪魔にならないように、リビングにいますので」
「かしこまりました。それでは失礼します」
皆で話しながら、私の部屋に到着。両親を送り出し、釜崎先生と二人きりとなった。
あらかじめ聞いていたが、霊術を取り扱う授業は秘匿されているものが多い。
いわゆる、秘伝や口伝といったやつである。
流派や派閥によって、授業内容、練習方法などが微妙に違うらしい。
そのため両親の同席は許されず、マンツーマンとなる。
「さて……、それでは属性を調べましょうか」
両親が去った途端、一気に冷めた顔になった釜崎先生が、鞄を床に投げ置きながら言う。
おいおい、態度が豹変しすぎでしょ。
いくらお金を払う両親がいなくなったからって、あからさまが過ぎる。
そんな態度だと、あとで私が告げ口しちゃうぞ。
「手を出しなさい」
本当に面倒臭そうな口調で釜崎先生が、ちょいちょいと指で手招きする。
「……はい」
私は応じられるまま、手を差し出した。
釜崎先生は私の手を握り、小型の機械を押し当て、何かを計測しているようだった。
「チッ、まさか一属性とは」
この人、舌打ちしましたよ!
本当に大丈夫なの、これ?
「金のためとはいえ、三属性であるこの私が一属性の者に、ものを教えるなどありえない……」
小声でブツブツ言っているが、丸聞こえである。
属性のことは、事前に調べて知っている。
霊術を扱うということは、霊気を操るということ。
霊気には属性が存在する。それは、火、水、風、土、木の五種類だ。
この五種類の属性を何種類扱えるかというのは、生まれながらに決まっていて増減することはない。
霊薬を飲んで、霊気に目覚めた場合も同様である。
今の呟きを聞くに、釜崎先生は三種類の属性を操ることができ、私は一種類だけだった、ということだろう。
「まあいい、次の準備に入ろう。これにサインしなさい」
釜崎先生は鞄から一枚の紙を取り出すと、机に置いた。
何やら文章を書き足し、私に見せてくる。
「凄い、光ってる」
紙には文章がつづられていたが、その文字が光っていた。
蛍光ペンで書いてもこんな風にはならない。
まるで、LEDでも仕込んだかのようにピカピカである。
「何をボンヤリしている! サインして、血判を押しなさい!」
と、強い口調で促してくる。
……………………怪しい。
いや、いくらなんでも怪しすぎるよね!?
私はサインするふりをしながら、文章に目を走らせた。
本来の四歳の子供には読めない漢字がびっしりであるが、私には問題ない。
……うん、ヤバイ。
なんだ、この内容は……。
序盤こそ、教授される内容を外部に洩らさないこと、練習を人前でしないことなど、機密を守るための約束事的なものが書かれているが、後半に行くとおかしい事がてんこ盛り。
師の言葉には絶対服従とか、霊術を使って得た金銭の三割を譲渡するとか、師の指示は法律より優先されるとか、頭がおかしい文章がドンドコ続く。
というか、さっき書き足してたよね!?
こんなもの、サインしても守るわけがないだろう。
それでも契約を強制してくるということは……、何かがある。
文字がピカピカ光ってる上に血判が必要なところから予測するに、超常的拘束力が働くトンデモ契約書の匂いがプンプンしてくる。
幼児が保護者の同意なく契約したから無効とか言っても、無意味な感じがビンビンである。
「どうした早くしないか!」
怒鳴る釜崎。
もう、先生と呼ばなくてもいいよね……。
「これだから一属性は……。何をやらせても役に立たない! 手を出せ! 私が書く!」
釜崎は私の手を上から握り込み、ペンを固定して無理矢理サインさせようとしてくる。
「っ、はなして……!」
大人と子供。力ずくで敵うはずも無く、成す術もない。
このままでは、よく分からない契約書にサインしてしまう。
……なんとかしないと。
ここは、子供特有のアレを使って、回避するしかないか……。
と、ここまで高速思考。これでも、結構あせってはいるのだ。
精神が子供ではない身からすると、抵抗がある方法だけど……。
やむを得ないよね。
本作品を読んでいただき、ありがとうございます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、
ブックマーク登録をしていただけると、作者の励みになります!
また、ページ下部にある評価ポイントを入れていただけると嬉しいです
よろしくお願いします!




