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 ◆九白真緒


 

 なんだ、この学校。ヤバイぞ。


 そう思ったのは、昼休みの出来事があったからだ。


 丁度その時、私はレイちゃんと二人でのんびり昼休みを過ごしていた。


 すると、たまたま先生に呼び止められた。


 なんでも、プリント運びを中沢さんに頼んだけど、一人じゃ大変そうだから手伝いに行って欲しいらしい。


 なんで私たちに? それはリラックスして昼休みを満喫していたからだ。


 他に声をかけやすそうな人がいなかったんだよね。


 指示を受けた私とレイちゃんは、中沢さんの後を追った。


 けど、追いつかない。結局四階まで着いてしまった。中沢さんって案外力持ちなのかな、なんて呑気に考えながら角を曲がったら、とんでもない光景が広がっていた。


 なんと床に散らばったプリントが燃えていたのだ。


 燃えるプリントの中心には、中沢さんと舞鶴さんたちがいた。


 ええ、一体どうなってるの? と状況の理解に努める。


 その向かいには上級生と思しき男子が指揮棒のような物をかざしている。


 あれはもしかして霊装!?


 そう思った瞬間、指揮棒から火の玉が飛び出した。その先には舞鶴さんが!


 私は無意識に火の玉へ向けて上履きを脱いで投げつけていた。


 上履きが火の玉にぶつかり、相殺される。


 ふぃ、うまく消せてよかった。


 すぐさま消火器を取りに行って、燃えるプリントも手早く消火した。


 怪我人もなく終わったのが不思議なくらい、荒っぽい出来事だった。


 下手したら火事になっていたかもしれない。


 当然、暴れた上級生は先生に叱られていた。


 ――どうやらそれで、私たちは上級生に目を付けられてしまったらしい。


 結果、トラブルが再度発生してしまったのだ。


 その後、授業を終え、レイちゃんと下校することになった。


 その日は掃除当番ではなかったので、直帰コース。教室を出て門に向かう。


 その途中、視線というか気配を感じた。相手が子供だから分かり易い。


 多分、昼休みに関わった上級生だろう。何かやってくるつもりだろうか。


 まあ、相手は子供。何をしてこようが、問題なく対処できる自信がある。


 むしろこっちに敵意むき出しなのがバレバレで、ちょっとかわいいと思えてしまうくらいだ。


 ただ、さっきは火の玉を出していたし、警戒はしっかりとしておこう。


 それにしても……、校内でああいった振る舞いをするということは、家が権力を持っているのかもしれない。


 そう考えると、あまり目を付けられたくないなあ。


 ここは、わざと報復を受けておくか。一度やりかえしたら、気が済むかもしれない。


 レイちゃんに何かされるのも嫌だしね。


 などと考え、様子見をしていたら、上から水をかけてこようとした。


 いや、いくらなんでも、その位置関係で水は届かないんじゃない?


 と思ったら、案の定外した。というか、こけた。


 水の量が多すぎてバランスを崩したのだ。結果、狙いがあらぬ方向へ。


 階下で掃除していた子に、全ての水が降り注ぐという最悪の展開になってしまう。


 とどめにバケツが直撃し、何の罪もない子が窓から落下してしまった。


 もう、何やってるのよ! こっちは今か今かと待ち構えていたのに!


 何で失敗したあげく、巻き添えを出す。これじゃあ、待っていた意味がないだろうに。


 私は落下した生徒を助ける為、慌てて駆けだした。


 どんな時も圧縮をかかさない私の全身には、霊気がぎっしり詰まっていた。


 そんな状態なので、身体能力を限界まで引き上げることが出来る。


 霊気を使って高い速度を維持したまま走り、壁に向けて跳ぶ。


 三角跳びの要領で壁を蹴り、落下してくる生徒を空中でキャッチ。


 ガッチリと横抱きにしたところで、地面に集中。


 衝撃を逃がすことに細心の注意を払い、ふわりと着地。


 よし、救助成功。怪我はなし。……ふぅ、ちょっと冷や汗かいたよ。


「ああぁぁ……」


 落下した子は放心状態で、水浸し。小刻みに震えていた。


 この子、何もしてないのに災難すぎる。


「もう大丈夫だからね」


 私はゆっくりと助けた子を地面に立たせた。


 だけどフラついて危ないので、しっかりと抱き締め、背を撫で続けた。


 そりゃあ、あんな怖い目にあったら、放心状態になるのも無理はない。


 しかし、咄嗟のこととはいえ、冷静に動けたものだ。


 これもやはり、母の訓練の賜物。そして霊術万歳。


 などと現実逃避気味に自分を褒めていると、騒ぎを目撃した生徒が周囲を囲みだした。


 そして、門で見送りをしていた先生が駆けつけたことによって、事件は一旦解決。


 後日、落下した生徒の親を中心に、騒ぎはそれなりに大きくなった。


 先生から事情聴取を受けた際、私の目撃証言で犯人はすぐに特定された。


 しかし、学校側が大事にしたくなかったのか、騒ぎは不完全燃焼気味に鎮火した。


 どうやら、相手の生徒が霊術師の子というのが、関係しているっぽい。


 こういう時、小学生の私にできることはない。騒いでも、逆に叱られるのがオチだ。


 もやっとした感じで終結したなあと思っていたら、件の上級生たちの転校が決まった。


 これは間違いなく、転校という名の退学処分。


 急にどうしたんだろう?


「娘が通う学校が安全ではないなんて、おかしいからね」


 という、雲上院パパのつぶやき。


 放課後、一緒の習い事に行くため、レイちゃんの車に同乗していた際、たまたま一緒に乗っていた昭一郎さんから発せられた言葉である。


 いやいや――、たまたま一緒に乗るなんてこと、今まで一度もなかったから。


 これって、私に暗に報告しにきてくれたのでは、と思うのは考えすぎだろうか。


 間違いなく、この人何かやってる――。


 非常に笑顔が怖いです。相当ご立腹の様子だ。


 今回の落下事件、もともとターゲットになっていたのは私だ。


 更に言うと、巻き添えでレイちゃんも狙っていた可能性がある。


 という証言が、屋上から一部始終を目撃していた生徒からあったそうだ。


 その生徒が必死に先生に訴えていたのが、色んなルートを経て昭一郎さんに伝わったそうな。


 どうやら、昭一郎さんへの報告システムが改善されたようだ。


 以前なら、こういったことも昭一郎さんまで伝わることが無かったからね。


 これならトラブルが起きても安心。


 昭一郎さんのお陰で、平和で平穏な学校生活が送れそうである。


 と思ったら、あの日以来、レイちゃんが霊術に強い関心を示し始めた。


 あの速度と跳躍力は、普通の小学五年生には出せない。


 あれはどういったものなのか、と聞かれ、仕方なく霊術によるものだと答えた。


 結果、休み時間の間は霊術についてずっと質問攻めだ。


 もしかして、例の家政婦さんに霊術師は人間としての格が違うとか教育されたせいか! と思ったら全然違った。


 素早く動いたり、凄い高さを跳躍できたりする様が、アニメの主人公みたいでカッコイイから、とのこと。


 それに加え、お祖母さんが霊薬を飲んで霊気を発現したことに憧れを持っていたらしい。


 それはもう目をキラキラにさせて、まくしたてる勢いで言ってきたよ。


 逆に、人間の格とか身分というのは、あまりピンと来ていない様子だった。


 それは、レイちゃんが幼いから理解できていないということではなく、胃根が語っていた内容に矛盾があるから理解できないのだ。


 現代における霊術師の立場や状況を見れば、人類を統べる上位者とか言われても、どこが? となってしまうわけで……。


 この調子なら、昭一郎さんからの教育を受けていれば、あっさり偏見からは抜け出せそうである。


 大事になる前に解決できそうで、本当によかったよ。


 もしかすると、マンガの雲上院礼香の強烈な性格の一端は、この偏見が関係していたのかもしれないね。





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