27
◆中沢冬美
私は中沢冬美。
前の席の九白さんをネタにして、新しいクラスに馴染んだごく普通の生徒だ。
最近、雲上院さんと九白さんが仲良くなった。
きっかけとなったのは、九白さんが雲上院さんを水族館に誘ったことだ。
それから、雲上院さんの雰囲気が随分と変わった。
学校にいる間はずっと二人で行動している。
基本、手を繋ぐか、腕を組んでいる。それも雲上院さんから。もうベッタリだ。
その姿が、親犬から離れないようにしている子犬みたいで可愛いのだ。
九白さんも邪険にせず、優しく接している。
そんな二人の様子を温かく見守るのが、クラス全体の暗黙の了解となりつつあった。
結果、雲上院さんが舞鶴さんたちと一緒にいる時間はゼロになった。
ハラハラしながら見守っていた私たちからすると、予想外の展開である。
予想外なことはもう一つあった。
雲上院さんが、舞鶴さんたちに謝ったのだ。
張り合うようなことばかり言って申し訳なかった、と。
自分には自覚がなく、同年代の子と話し慣れていなかったため、話題作りのつもりだったと。
謝られた舞鶴さんは、とても驚いている様子だった。
九白さんが居なかった当時、遠巻きに見ていた私は、雲上院さんが発言選択ミスをしていると気付いていた。
だけど、当の舞鶴さんは対抗意識を燃やしていたせいか、そういったことには全く気付いていなかったようだ。当時の事を思い出し、なんとも気まずげな表情をしていた。
それから、クラス全体の雰囲気が少しずつ良い方向に変わっていった。
その原因となったのは雲上院さんだ。
雲上院さんは、クラスの皆に積極的に話しかけるようになっていった。
といっても、二言三言発言する程度で、九白さんの側から絶対に離れないけど。
ただ、発言内容が大きく変化したのだ。
今までは、何か言おうとして悩みに悩んで、家のことを比較対象として話題に出す感じだった。
だけど今は、相手に興味を示し、褒めるように変化したのだ。
髪型がかわいいとか、小物のデザインが綺麗とか。
以前なら、自分の髪は有名美容師がやっているとか、自分の小物はどこそこのブランド物だとか、言っていたのが大反転である。
きっと雲上院さんの中では、それが普通で対等なことだと思っていたのだろう。
みんなも、どこかの有名美容師にやってもらい、ブランド物を携帯しているに違いない、みたいな感じで。
確かに、うちの学校だとそういう子は一杯いる。
けど、雲上院さんはそういった子たちより更に上の上になってしまうため、自然とマウントを取っているみたいになっちゃうんだよね。
そういったことに気付いたのか、自分のことを引き合いに出さなくなった。
舞鶴さんに対しても、一歩引いた感じで接するようになった。
張り合ったりしないのだ。むしろ譲って立たせる感じにまで変わった。
一八〇度の変化。
ここまでの変わりぶりには、きっと九白さんが絡んでいるに違いない。
というか、雲上院さんは九白さんと仲良くできれば、他のことはどうでもよくなったのかもしれない。
舞鶴さんも、雲上院さんの影響を受けてか、ガツガツした感じがなりを潜め、穏やかさが出てきた。居丈高な感じがなくなってきたんだよね。
しかも、クラスで困ったことがあれば率先して前に出て解決してくれるようになった。
今まではリーダーなのを傘に来て横暴に振舞う感じだったのに、今は皆から頼られる本当のリーダーらしくなったのだ。
なんていうか、かっこいいんだよね。すごくリーダーらしくなった。
今も、私が先生に頼まれたプリント運びを友達と一緒に手伝ってくれている。
「みんな、ありがとう。これだけの量を一人で運べって言われた時はどうしようかと思ったよ」
自分のクラスだけでなく、学年全部の提出用プリントなので相当な量だ。
これを四階まで持って行けって……。
ひとりで運んでいたら、何往復かしなければならないところだったよ。
「丁度手が空いていましたし、気にしないで。そもそも、これだけの量を一人に運ばせようとする先生がおかしいのです」
「本当ですよ。中沢さんのことをどれだけ力持ちだと思っているのかしら」
「皆で運べば、軽くなるし、一度で行けるから、昼休みを使いきらなくて済みますね」
「みんな、本当にありがとうね。今度、何か手伝えることがあったら言ってね」
舞鶴さん、それに舞鶴さんのお友達の皆さん……なんていい人なんだ。
一時期、高慢な人たちだと思っていた自分を引っぱたいてやりたい。
……でも、あの時は本当に近寄り難いお嬢様グループって感じだったんだよなぁ……。
それがまさか、こんなに変わるなんて。
などと考えている間に四階に到着。運び込む先は音楽準備室だ。
皆で話しながら廊下を歩いていると、音楽室から誰かが出てきた。
二人組の男子だ。体格は大きいけど見覚えが無い。
きっと上級生だ。なんだか、凄く不機嫌そうに見える。
「横に並んで歩くんじゃねえ、邪魔だ!」
上級生の一人がそう言って、私を突き飛ばそうとした。
「何をするんですか!」
すかさず、舞鶴さんが私の前に立って防いでくれた。
だけど、上級生の腕が当たり、衝撃で持っていたプリントが周囲に散乱してしまう。
「俺に口答えするんじゃねえ! 生意気なんだよ!」
上級生の手にはいつの間にか指揮棒が握られていた。
その指揮棒を地面に向けてかざした瞬間、火の玉が飛び出す。
この生徒、霊術を使うんだ、と思ったときには火の玉は地面に散ったプリントに当たっていた。プリントに火がつき、炎が燃え広がっていく。
このままじゃ危ない! 服に火が移っちゃう!
本作品を読んでいただき、ありがとうございます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、
ブックマーク登録をしていただけると、作者の励みになります!
また、ページ下部にある評価ポイントを入れていただけると嬉しいです
よろしくお願いします!




