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 後は眠るだけ。しばらく会話を楽しみ。就寝時間となった。




 だけど電気は消さない。煌々と明かりがついている。


 後藤さんが部屋に来て、私に何か話そうとしたけど、レイちゃんに追い返された。


 天蓋つきの巨大ベッドへ戻ってきたレイちゃんがぺたんと座った。


 そわそわした気配で察した私は、起き上がって座りなおし、居住まいを正す。


「……その、水族館でのことなんですけど」


 と、レイちゃんが言い出しにくそうに話を切り出す。


「うん」


「マオちゃんが暗い所が苦手と聞いて、わたくし、ちょっと嬉しかったのですわ」


「え、どうして?」


「実はわたくしも、暗い所が大の苦手なのです。それで、水族館に入れなかったのですわ」


「ああ、そうだったんだ。でも、二人で一緒だと、そんなに怖くなかったね」


 そういえばそんな風に誘ったっけ。ちょっと懐かしい。


 などと思っていると、レイちゃんが目を輝かせて強く頷いた。


「その通りですわ! だから今日は部屋の電気を消してみようと思いますの」


「普段はつけたまま寝ているの?」


「はい。お恥ずかしい話ですが、以前は夜に寝ることもできなかったのですわ。だけど、今は電気をつけていれば、夜に眠れるようにはなったのです」


「そっかぁ、苦手を克服してきているんだね。レイちゃんは偉いなぁ」


「……そんなことありませんわ。普通の人はそんなことをしなくても眠れるはずですもの。こんな簡単なこともできないなんて、私は本当に駄目ですわ」


「そんなことないよ」


「いいえ……、そんなことありませんわ」


 むう、強情な。でも譲らないぞ。


「ううん、周りの人が簡単にできるかどうかじゃなく、自分にとってどれだけ難しいかどうかが重要なんだよ。誰にだって、他の人には簡単に出来るけど、自分にとっては苦手なことなんていくらでもあるからね。だからレイちゃんは凄いんだよ」


 落ち込んだ顔でレイちゃんが何度も否定するので、つい言い返してしまった。


「そ、そんなことありませんわ!」


 条件反射的に反応し、ブンブンと首を振るレイちゃん。


「そんなことないよ。レイちゃんは凄く頑張ったんだよ。レイちゃんが何と言おうと、私はこの意見を変えるつもりはないから」


 こちらもすかさず返す。


「い、いいえ! そんなことはないですの」


「ううん、そんなことないよ」


 ……と、しばらく、そんなことない合戦が続いてしまうが決着は付かず。


 お互いむきになって言い合ってしまう。


 そのうち、その状況が可笑しく思えて笑いが込み上げてくる。


 私もレイちゃんも、必死に堪えていたが限界がきた。


 どちらが先というわけでもなく、ほぼ同時に噴き出してしまう。


「もう、マオちゃんは強情ですわね」


 可笑しそうに笑うレイちゃんが可愛らしく頬を膨らました。


「ぷっ、あはは。ごめんね」


「いえ、わたくしの方こそ。マオちゃん……、実はわたくし……」


 同時に謝って笑った後、穏やかな雰囲気に落ち着く。


 すると、レイちゃんが急に深刻な表情になって言葉を詰まらせた。


 私は、「うん」と小さく頷き、次の言葉を待った。


「以前、誘拐されたことがあるのですわ。その時、暗い場所に閉じ込められてしまったのです。そのせいで、暗い所が苦手に……」


「そっか……、それは怖かったね。無事に帰って来れて、本当に良かったよ」


 私は俯くレイちゃんの手を取って抱き寄せ、背を撫でた。


 以前予想した通り、雲上院礼香は誘拐を経験していた。


 やはり、そのことが彼女の心に暗い影を落とすきっかけの一つとなってしまったようだ。


「お父様が手を尽くしてくださったのです。助けられた後は怖くて家から出られなかったのですが、お医者様に看てもらって、今は随分と良くなったのですよ」


「……話してくれてありがとう。いつも元気そうにしていたから、話してくれなかったら気がつかなかったよ」


 本当は予想していたし、学校でもある程度の情報はあった。


 だけど、それを今言うのははばかられた。


 ところどころに違和感を覚えたからそうじゃないかと思っていた、などと言っても彼女が喜ぶとは思えない。むしろ傷つけてしまうだろう。


 それなら、とてもそうは見えないほど回復していると言ってしまった方がいい。


 実際、本当にそうなってきているしね。


「はい……。水族館ではマオちゃんと一緒だと、暗い所でも全然怖くなかったのです。だから、今日は部屋の明かりを消してみたいんですの。マオちゃん、暗くなったら手を繋いでいてくれますか?」


「もちろん。明かりも全部消すんじゃなくて、常夜灯とベッドサイドランプはつけておこう。そしたら真っ暗じゃないからね」


「うん……」


「眠れなかったらいつでも言ってね。すぐ明かりをつけるから」


「分かりましたわ」


 というわけで、部屋を暗くして就寝することとなった。


 といっても、今まで会話していたのに、いきなり眠れるわけもない。


 まずは暗い所に慣れる意味も兼ねて、引き続きお話しでもしますかね。


 レイちゃんが誘拐という秘密を打ち明けてくれたわけだし、私も何か話したい。


 何か丁度いいものはないものか。


「私ね、魚が苦手なの。なんでかっていうと、無人島でしばらく生活することがあってね。その時、魚ばっかり食べてたからなんだ。…………うーん、ごめん。レイちゃんが話しづらいことを話してくれたから、私も何か打ち明けようと思ったけど、こんなことしか思い浮かばなかったよ」


 うぅ……、ダメダメだ。ネタとして弱さを感じる。


 そもそも、今では苦手意識も消失して、普通に食べられるし……。


 母に連れられて行った荒行の中には、もっとガチな恐怖体験がいくらでもある。


 砂漠で脱水症状を起こし幻覚を見てから、しばらく砂浜が苦手だったとか。


 沼地で脚に大量のヒルが付いたのを見てから、しばらくヒルが苦手だったとか。


 打撃に慣れる訓練で肋骨にヒビが入り、呼吸をするたびに激痛が走ったため、くしゃみをするのが一時期怖かったとか。


 が、それらは秘密を打ち明けるって感じでもない。


 どちらかというと、怖い話に分類されるものになってしまう。


 こんな暗くて雰囲気のある状況で話すのは良くないよね……。


 私の最大で唯一の秘密といえば、前世の記憶があること。


 だけど、今この状況で前世の知識があると話しても、別の意味で恐怖話だ。


 ぶっちゃけ、怯えさせるだけだろう。


 信頼して秘密を打ち明けた相手が急に、『私には前世の知識がある、この世界はマンガの世界だ』とか言い出したら、新しいトラウマを生み出しかねない。


 急にそんなトンデモ話を打ち明けられても、相手も困るだろう。


 そうなると当たり障りの無いことしか言えないジレンマ。


 く、こういう場面に丁度いい経験をしておけよ私。


「うふふ、わたくしは生け花が苦手ですわ。実はわたくし、軽度の花粉症ですの。生け花で使う花なら問題ないと分かってはいるのですが、どうしても苦手意識が出てしまいますのよ」


「じゃあ……、えーっと……、私はイカの塩辛が苦手なんだ。あの見た目と匂いがどうしてもね……」


 前世の私はお酒を呑まなかったようだ。それも関係してか、酒の肴的珍味は全般的に苦手だ。


 生まれ変わったからいけるかと思ったけど、駄目だったよ。


「わたくし、虫が苦手ですの。足が多い生き物はどうしても駄目なんですの……」


「ああ、私もだよ。ミミズみたいに足がないのもダメかも。後はね〜、ヘビが苦手かなぁ」


 毒蛇にかまれた時に血清が無くて右往左往したのも、今となってはいい思い出だ。


 でも、威嚇の鳴き声を聞くと、ビクッと反応してしまうようになっちゃったんだよね。


「それでは私は――」


 と、そんな感じでお互いの苦手なものの話をしているうちに、随分と時間が経った。


「わたくし、今、毎日がとっても楽しいんですの。マオちゃんといると、一日があっという間に終わってしまうんです」


 眠くなってきたのか、うつらうつらとした表情でレイちゃんが言う。


「私も楽しいよ」


「マオちゃんは、ずっとわたくしのお友達でいてくれますか?」


「もちろん。むしろレイちゃんは私の友達でいてくれるの?」


「当たり前ですわ」


「それなら一緒だね。私、どんな時もレイちゃんの味方だから」


「わたくしだって」


 どちらからというわけでもなく、目を閉じる。


 私はしばらく様子を見てから目を開け、そのままレイちゃんの様子を見守る。


 すると、穏やかな寝息が聞こえてきた。


 よかった、うまく眠れたみたいだ。


 また目を覚ますかもしれないし、今日は浅い眠りを維持して、いつでも目を覚ませる状態をキープしていくかな。


 こういった状況での睡眠のコントロールも訓練して身につけている。


 このまま朝になって、レイちゃんに電気を消して眠れたという経験をプレゼントできるといいな。


 でも、さすがに一回目でうまくいくのは難しいかな。まあ、これから少しずつ慣らしていけばいい。


 とりあえず、こちらから刺激を与えないように大人しくしていよう。


 しかし、そうなるとちょっと暇だ。時間を持て余す。


 そんな時は霊気の圧縮だね。などと、圧縮をしながら物思いにふける。


 それにしても……、この家、大きすぎるよなあ。


 レイちゃんの部屋も大きすぎだよ。これだけ大きいと逆に不安になってしまう気がする。


 明かりを消して実感したが、いくらなんでも部屋が広すぎる。


 常夜灯をつけていても、部屋の九割以上が暗闇に覆われてしまう。


 これでは必要以上に暗さが強調されてしまっている。


 そもそも、普通の人でも暗闇は苦手なものだ。


 夜にトイレに行くのが怖い、なんてよく聞く話だし。


 それ位の苦手意識の人が、この部屋にいたら結構辛いと思う。


 ということは、レイちゃんは更に辛いということだ。


 これは昭一郎さんに相談して、改善してもらった方がいいかも。


 間接照明の明るさだけで部屋の隅まで見えるくらいの広さの部屋に変えるべきだと思う。


 それに加えて、誰かが側で寝てあげた方が安心できるんじゃないかな。


 一番いいのは昭一郎さんと一緒の寝室になることだと思うんだよなぁ


 それが駄目でも、後藤さんとかが一緒に寝るだけでも大分違うと思う。


 事情があってどちらも駄目なら、私が立候補するかな。


 いくら夜に眠れるようになっても、明かりをつけっぱなしでは、体内時計や自律神経に影響が出るかもしれないしね。





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