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 訳知り顔の私の様子を確認し、九白真緒がレコーダーを再生しはじめた。



「それじゃあ、録音するね」


「かまいませんわ」


 なるほど、娘は学校でこんな感じで話しているのだな。


 うーん、盗み聞きしているようだが、非常に楽しいぞ


 と、思ったのは最初の一秒だけだった。


「まずはこの間、水族館から帰る途中で見かけた子の話を、もう一度してもらってもいいかな?」


「ああ、あの時の小学生の子ですか?」


「そうそう。私たちが通う学校以外の子の話」


「そうですわね。琴清小学校に通う以外の子。特に公立の小学校に通う子は将来我々の下で働く無能な子。私たちが厳しく監督し、将来を導く義務があるのですわ」


 ――what?


「そうそう、その話。あとは、身分とかの話もしてたよね?」


「ええ。人は平等ということになっていますが、実際は格があるのですわ。簡単に言うと、身分ですわね。最上位に属するのが五属性の霊術師。霊術の使えない無属性の人間はどんなにお金を持っていようと、霊術師の格には劣るのですわ。わたくしの家は、代々続く名家なので多少免除されているようですが、身分的には最下層に属するものですわね」


 ――why?


「霊術を扱える者は特別な存在。選ばれた存在なのですわ! ですから、霊術を使えない人間は、使える人間が最大限活躍できるよう、生涯奉仕に努めなければならないのです。それはとても光栄なことなんですのよ。マオちゃんも、そんなことも知らないなんて、よくないですわよ。これからは一緒に頑張りましょうね」


 えぇ〜……?


 なんだこの芯のない、上辺だけで語っているような感じは。


 誰かから教えられた知識を、自分発信のように見せかけて知ったかぶりで話しているのがはっきり分かる。


 声音から、娘が自慢げに語って聞かせている姿が目に浮かんでしまう。


 私は再度、秘書に視線を送る。秘書は高速で首を横に振った。


 ――ブルンブルンいっとるがな……。


 いや、プライベートなことを知るはずもないよな。


 彼女は優秀だから、線引きもしっかりしている。


「といった内容なんですけど、心当たりはおありですか?」


 彼女がレコーダーの再生を止め、尋ねてきた。


 多分、私の表情が優れないのを察して、家の方針という可能性はさっさと捨ててくれたのだろう。


「恥ずかしい話だが、初耳だ。これでも、仕事の合間を縫って会話の場を作っていたつもりだったのだが……」


 我が家は霊術師の家系ではない。


 つまり、そもそもの話、霊術の話題が親子の会話で上がらない。


 だから、こんな知識を持っているなんて知らなかった。


 時折、娘の発言から、高慢な所があるとは思っていたが、その根底に触れた気がする。


 しかし、なんだこの思想は。


 一定数の霊術師が持つ、差別思想そのものではないか。


 彼らは歴史的背景や、特殊な力を持つがゆえ、特権階級意識に目覚めてしまう者が少なくない。


 そういったことは、ずっと問題視されてきている。


 昔はそういった身分に繋がる力関係があったのは事実。


 実際、今でも強い力を持つ家もあるにはある。


 だが、今は表ではほぼ聞かない話だ。


 なんせ霊術師は絶対数が少ない。かつ、扱える力が時代の流れに取り残された。


 現代の社会で、大金を得る手段としては微妙。


 現代の戦争で、兵器を上回る活躍は不可能。


 特別で強い力を持つが、知識や頭の良さは、力を持たない人と変わらない。


 結果、時代の経過と共に埋没していった存在だ。


 特別視、神聖視する声は、時代の流れとともに穏やかに沈静化していった。


 今では、身体的特徴の一つ、生まれ持った才能の一つ、程度の認識に落ち着きつつある。


 今でも、特別な存在と思っているのは、当事者である霊術師や一部のカルト集団だけだろう。


 そんな中、霊術と無関係な我が家がなぜ、霊術師を崇めなければならない。


 いや、無関係とも言えないか……。


 とはいえ、一時期は目の上のタンコブ。敵対勢力扱いだった者達だ。


 そのため、崇拝とは真逆の感情すら抱いていたこともあるくらいだ。


「お嬢様は、胃根という人物から教わったと仰っています」


 ――そうなるか。


 胃根みどり。家事業務の統括であり、娘の世話係の統括でもある。


 彼女は、元妻が娘を妊娠した際に連れて来た。


 その後、娘の面倒と家事全般を監督する立場として働いてもらっている。


 元妻と離婚後、解雇するのも忍ばれたので雇用を継続し、今も家にいる。


「誰ですか、それは」


 ここまで黙って話を聞いていた母が口を開いた。


 顔を見れば、怒り心頭なのが一目で分かる。


 母は我が一族では異端の中の異端。霊薬を飲み、霊術師になった人だ。


 それ故、血統で差別する霊術師の社会に対して憎悪の感情を持っている。


「増美さんが連れて来た人ですね」


「また、ろくでもないことを。すみません、昭一郎。私が家に帰らなさすぎたせいで招いた結果が、孫にまで影響するとは……。あちら側に何か言っておきますか?」


「いえ、抗議に来られても面倒なので止めておいて下さい。胃根の方は目立たないように処理します」


「ふむ。その方が賢いか」


 私たちの会話を聞き、九白家の二人がキョトンとしている。


 貴重な情報を提供してもらったし、軽く事情を説明しておいた方がいいな。


「私は離婚していてね。元妻が育児と家事の手伝いに雇ったのが胃根だ。離婚後もそのまま雇用を続けていたんだが、考え直すよ。胃根だけでなく、関わったもの全員、それと報告に来なかった者全員処分するつもりだ。これを機に綺麗にするよ。そして、娘との時間をもっと作り、植え込まれた偏見を修正していくことにする」


 かなりの大工事になりそうだ。だが、娘のためなら何でもない。


 私の返答を聴き、九白親子は笑顔で辞去していった。


 九白真緒、彼女には感謝しかない。


 今まで気がつくことができなかったが、彼女のおかげで手が打てる。


 関係者、未報告者、は順次解雇していく。


 他の仕事であれば挽回のチャンスを与えたかもしれないが、娘のことなので徹底する。


 事を荒立てても仕方がないので、経営が傾いたから人員を減らすという名目にでもするか。


 しかし、あんな話が聞けるとは予想外もいいところだ。


 全てが片付いたら、お礼をしなければならないな。


 気付かず放置したままになっていたら、私と娘の人生がどうなっていたか分からない。


 改めて冷静に考えるとぞっとする話だ。


 これからは娘との時間をもっと増やしていこう。


 ……果たして娘は変わってくれるだろうか。


 いや、変えなければならない。


 今からでも父親としての役目を果たすべきだ





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