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 レビューをいただきました! ありがとうございます!



 


 ◆鷹羽アキラ



 俺は鷹羽アキラ。鷹羽家の長男だ。


 今日は珍しい面子でダブルデートを行うことになった。


 相手のカップルは、智仁と婚約者の夜月澄香だ。


 智仁の婚約者は引っ込み思案だと聞いた。


 実際、智仁に婚約者と紹介されて以来、ほとんど会っていない。


 社交の場に顔を出すことも稀だった。


 俺とは挨拶をする程度で、いつも智仁の側から離れなかったと記憶している。


 それがダブルデートとは。どんな心境の変化があったのだろう。


 実際に夜月と会ってみると、以前と印象が変わっていた。


 少し積極的になったか? 久しぶりに会って見た第一印象はそんな感じだった。


 今日はテニスを楽しもうという話だった。


 テニスをしようという話になったのは、智仁と夜月からの提案があったためだ。


 これも珍しい。


 智仁も婚約者の夜月も、どちらかというとインドア派。


 体を動かすことより、ゆったりと落ち着いたことをするのが好みなのだ。


 観劇やテーブルゲームを好むタイプなのに、今日に限ってスポーツを選択するとは驚きだ。


 とはいえ、智仁は運動神経が悪いわけではない。


 スポーツをやらせれば何でもそつなくこなせる。


 ただし、普段から体を動かしていないので、スタミナはないが……。


 だから、テニスもそれなりにできるはずだ。


 遊びでプレーする分には問題ない腕であると言える。


 とはいえ、なぜテニスなんだ、という疑問が残るが……。


 テニス場で合流した俺たちは、更衣室へ向かいスポーツウエアに着替える。


「お前の方からテニスに誘うなんて珍しいな」


 と、智仁と二人きりになったタイミングで気になっていたことを尋ねる。


 すると智仁が、笑顔で口を開く。


「ちょっと、成果を披露したくてね」


 俺は智仁の意外な回答に驚く。


「練習してたのか」


 こいつが積極的に体を動かすなんて珍しい。


 しかも、練習と呼べる頻度を継続するなんて。


 明日は、雪でも降るんじゃないのか。


 という俺の反応が想定内だったのか、智仁はしてやったりという顔になる。


「トレーニングの一環でね」


「それは楽しみだ。あっさり負けるなよ」


「歯ごたえがある試合になることは保証するよ」


 と、智仁が意味深な雰囲気を漂わせて微笑んだ。


 試合はダブルスで行う。


 つまり、智仁は夜月とペアだ。


 ダブルスなので個人でフォローできる範囲には限界がある。


 いくら智仁が上達していても、夜月の腕が大したことなければ意味がない。


 そのことを分かっているのだろうか。


 ここまで出来る空気を出しておいて、ボロ負けしたら相当恥ずかしいが本当に大丈夫なのか?


 相手が智仁だけなら容赦しないが、今回は夜月もいる。


 大差が開くようなら、手加減することも視野に入れるべきかもしれない。


 という――、俺の心配は杞憂に終わった。


 試合が始まり、実際に対戦してみると予想外の展開になった。


 二人の動きが異常なのだ。


「おいおい、お前ら身体強化でも使っているんじゃないのか」


 と、冗談を言いながらレシーブする。


「何のことかな」


「私は使っていません。そんなことをすると霊気がもったいないので」


 俺の言葉にとぼけた雰囲気で流す智仁に続き、明確に否定する夜月。


 二人とも、プレーしながら会話が出来ている。


 かなりスタミナに余裕がありそうだ。


 それにしても、今言った夜月の言葉に違和感があった。


 聞き間違いでなければ、『もったいないから使っていない』という答えが返ってきた。


 まるで使おうと思ったら使えるような言い回しだ。


 と、その時、夜月の言葉に七海が反応する。


「その思考、知ってる。……やっぱりか」


「何か知ってるのか、七海」


「最近仕事重視でサロンに顔を出してないんだけど、ちょっと小耳に挟んだ事があるんだよね」


「何をだ」


「サロンメンバーがトレーニングしまくってるって」


「雲上院のサロンは、スポーツクラブか何かになったのか?」


「アキラ、そんな生易しいものじゃないよ。霊気がもったいないという思考は、マオちゃんとレイちゃんの系譜。霊薬も飲んでるなら、きっとガチめの戦闘トレーニングだよ」


「益々分からん。雲上院のサロンは穏やかな交流の場を提供しているんじゃないのか?」


「そうだよ」


「お前が言った戦闘トレーニングという言葉と合致しないのだが?」


 俺は、七海とそんな会話をしつつも、智仁と夜月ペアのボールを必死に捌く。


 くそ、あいつらの打球の威力がおかしい……。


 二人の球を受け続けたせいで、手が痺れて握力が落ちてきた。


 ペース配分を無視して、一球一球全力で打ってきているんじゃないかと疑うほどの威力だ。


 気を抜くとラケットを取り落としそうになる。


 このままでは、じり貧だ。


 俺は七海の方を見て、身体強化を使おうとアイコンタクトを送る。


 すると、こちらの意図をくみ取った七海から首肯が返ってきた。


 よし、ここから逆転だ。


 ラケットを落として負けるくらいなら、多少はハンデを貰うとしよう。


 向こうは練習を重ねてきたようだが、こちらは何の準備もしていない。


 だから、これでおあいこだ。


 智仁、悪く思うなよ……。


 ――と意気込んで身体強化を使って戦ったが、結果は惜敗。


 向こうも身体強化を使って応戦してきたため、異次元テニスと化した試合は熾烈を極めた。


 しかし、こちらの経験不足で一手及ばず敗れた。


 まさか、こんな結果になるとは……。開始前は予想もしなかった展開だ。


 全力を出して疲れた俺は、倒れる様にしてベンチに腰掛けた。


 すると、俺と同様に疲れ切った様子の七海が隣に座る。


 俺がスポーツドリンクを差し出すと、七海がノールックで受け取った。


「惜しかったな」


「面白かったし、いいんじゃない」


「こっちも日ごろからプレーしていれば負けなかった」


「もう、負けず嫌いなんだから」


 と、七海に苦笑される。


 そんな俺たちの目の前では、智仁と夜月がシングルスで試合を始めていた。


 おいおい……、どれだけ体力があるんだよ……。


 二人は軽く流すようなプレーではなく、全力の試合を展開している。


 球を打つ音の迫力が尋常ではないんだが……。


「あいつらってあんなにアクティブだったっけ?」


 と、隣の七海に尋ねる。


 そもそも、テニスの腕がどうこう以前に、性格傾向から違和感があるのだが……。


「多分、サロンの影響じゃないかな」


「さっき言ってたトレーニングってやつか」


「マオちゃんが主導しているなら、滅茶苦茶ハードメニューだと思うよ。多分、霊術の修業も並行してやってるんじゃないかな」


「随分熱心なことだな。そんなこと、十家でもやってないぞ……」


 霊術師の上位に位置する十家。


 高位霊術師が多数所属し、実力者集団と認識されている。


 だが、その実態は権力と属性数の多さに胡坐をかき、増長してたるみ切った集団というのが俺の認識だ。


 あいつらは修業らしい修行などやっていない。


 霊力が高いから力技で解決する癖がついてしまっているのだ。


 そのくせ北海道を奪還するつもりでいたのだから笑える話だ。


「十家がどうかは知らないけど、レイちゃんとマオちゃんの所は環境が凄くいいんだよ。場所も広いし、相手にも困らない。良いトレーナーもいる。やる気さえあれば、どこまでも伸ばせるんだよねぇ……」


 と、七海が遠くを見ながら答える。


「そんなにか?」


「そんなにだね」


 俺の問いに、七海が被せるように答えた。


 その答えを聞き、俺はしばらく考え込む。


 眼前では智仁と夜月が強烈な打撃音を出しながらラリーを延々と続けていた。


 ラリーと言うより、逆サイドへ打ち合うスマッシュ合戦になっているんだが……。


 二人が奏でる打撃音を聞きつつ考えをまとめた俺は、七海の方を見る。


「なあ」


「何?」


「智仁がサロンに行くことになった時、俺も条件付きで参加していいとは言われていたんだ。だけど、やめておいた方がいいだろうと思って断った」


「うん」


「やっぱり、参加してもいいか?」


 雲上院のサロンが開かれるようになった理由は理解している。


 だから断った。だが、今の話を聞くと気になって仕方がない。


 俺は妖王を倒したい。


 といっても、俺自身が中心となって倒したいという意味ではない。


 被害を最小限に抑え、七海が傷つかないようにしたいのだ。


 そのために、もっと自分を鍛えたかった。


 雲上院の提供する場が、そんなに理想的な環境なら是非利用したいと思えてしまったのだ。


「一度大丈夫って言われたなら問題ないよ。気になるならレイちゃんとマオちゃんに相談すれば、特別な場所を提供してくれると思うよ。私から聞いておこうか?」


「頼む」


 俺は頭を下げ、七海に確認を頼んだ。


 ――数日後、こちらの要望が叶い、修業への参加が認められることとなった。


 これで最適な環境を手に入れることは出来た。後はやる気の問題だ。


 智仁に後れを取った分は、これからきっちり取り返す。




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