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 ◆とある便利屋



 俺は便利屋。


 金持ちの要望に応え、グレーな仕事をするのを生業としている。


 今回は瀬荷城家からのご依頼だ。


 なんでも、次回に行われるテストの問題が知りたいらしい。


 ふむ、テストで良い点でもとりたいのだろうか。


 その程度なら、お安い御用だ。


 こちとら、会社に侵入して、機密情報を盗み出すぐらいは朝飯前。


 それに比べれば、テスト用紙なんて余裕である。


 というわけで、早速、学校の情報を取り寄せた。


 すると、テスト用紙の原本の取り扱いは独特な方法で管理されていることが分かった。


 出来上がった問題は、教員のパソコンには保存せず、全て印刷。


 それらを金庫で保管するという方法を取っていたのだ。


 生徒に邪な気持ちを抱かせないようにする対策だろうか。


 簡単に盗めるような管理体制なら、一時の気の迷いで誘惑に負けることもある。


 金庫という見た目にも分かり易い物理的な障壁を用意することによって、そういった気持ちの発生を未然に防いでいるのかもしれない。


 シンプルだが、学生相手には良い手段だ。


 だが、俺に掛かれば学校の金庫など、ただの鍵無し引き出しにすぎん。


 さっさと中身を拝借させていただくとしよう。


 テスト用紙は持ち帰らず、その場で撮影してすぐに戻す。


 そうすれば、盗られたことにも気づけない。


 俺は侵入準備を整え、夜の学校へ忍び込んだ。


 一応、金持ちの学校だけあって、警備がいたが大したことはなかった。


 監視の目を盗んで、あっという間に金庫のある部屋の前に到着する。


 この部屋も中途半端だ。


 保管してあるのがテスト用紙だけで金目のものがないせいか、監視カメラがない。


 扉の鍵も教室に使われているものと同様。これなら楽勝だ。だが油断はしない。


 俺は中の様子を探ろうと、窓から室内を覗き込んだ。


 そして驚愕する。


 なんと、金庫の前に専用の警備員がいたのだ。


 警備の男は、まるでマネキンの様に微動だにせず、金庫を守っていた。


 く、想定外だ。


 そもそも事前に調べた時には、こんな情報はなかった。


 どう考えても過剰警備だろ。なんで、ここ一点を守る人員を配置しているんだ。


 警備員は巡回しておらず、金庫の前から一切動こうとしない。


 最悪の状態だった。


 くそ、こうなったらやるしかないか。


 俺は、侵入中に人と遭遇した時に備え、ある物を持参していた。


 そいつを鞄から取りだし、瓶のキャップを外す。


 そして、中の液体をタオルにたっぷりと振りかけた。


 ――行くぞ。


 俺は意を決し、扉を開けて飛び出す。


 そして、液体で濡らしたタオルで警備員の口を塞ごうとした。


 しかし、すんでのところで手首を掴まれた。


 凄まじい力のため、こちらの抵抗が意味をなさない。


 そのまま腕をひねられ、タオルを奪われる。


 警備員はそのタオルで、俺の口と鼻を塞いだ。


 途端、刺激臭が充満。意識が薄れていく。


 ――やっちまった。


 完全失敗だ。これは捕まる。


 俺は、逮捕される未来を想像しながら意識を失った。


 ――そして目が覚めると、空が白んでいた。


 あれから、どうなった?


 慌てた俺は、時計を確認する。


 警備員にやり返されてから数時間経過し、早朝になっていた。


 どういうことだ? なぜ捕まっていない。


 改めて現状を確認すると、意識を失う前と同じ場所にいた。


 つまり、目の前に金庫がある。


 そして、警備員の姿はない。


 これなら金庫を開けられるか?


 仕事人としての性が逃げることより、依頼の完遂を優先しようとする。


 しかし次の瞬間、人の声が聞こえた。


 早朝練習に訪れた生徒と顧問だろうか。


 まずい。このままでは姿を見られる。


 俺は、すぐさま部屋を出て、学校から脱出した。


 ……なぜかは分からないが命拾いした。


 そして、そんな俺がやることは一つ。再チャレンジだ。


 依頼の期限は三日後。今なら、まだ間に合う。


 今度は、警備員対策もしっかりした。


 そして夜を迎え、学校へ侵入。金庫のある部屋の前にたどり着く。


 俺は、恐る恐る部屋を覗き込んだ。


 そして驚愕する。


 なんと、警備員が二人に増えていた。


 金庫の前には風神雷神像を思わせるほど、どっしりと構えた警備員が二人、微動だにせず立っている。


 しかも、前日の対抗策なのか、二人ともガスマスクを装備していた。


 いや、おかしいだろ!


 いくらなんでも、ピンポイントに人員を投入しすぎだ。


 昨日の一件で警備を増強したということなのか?


 いや、それならなぜ、昨日の時点で俺を拘束して警察に突き出さなかったんだ。


 意味が分からない……。


 しかし、今回こういった事態は想定済み。対策は用意してきたのだ。


 俺は鞄から吹き矢と吹き筒を二本取り出した。


 想定していた警備員の数は一人。


 予備に一本多めに持ってきておいて良かった……。


 こいつを連続発射して、二人を仕留める。


 矢には麻痺毒がたっぷり塗ってある。命中すれば、一晩は動けなくなる。


 俺は吹き矢をセットし、筒を構える。


 そして扉を少し開け、狙いを定めて思い切り息を吹く。


 ここで当たったかどうかを確認している暇はない。


 相手が反応していない間に連射する必要がある。


 俺はすかさず次の筒を構え、二人目の警備員に狙いを定めて矢を吹いた。


 吹き矢が発射され、二人目の警備員目掛けて飛んでいく。


 丁度その時、一発目の矢が一人目の警備員に当たるところだった。


 しかし、その矢を警備員が人差し指と中指で挟んでキャッチし、反転。


 こちらへ投げ返してきた。


 俺は二本目の矢を吹いた直後だったため、身動きが取れない。


 あ、と思った時には、眉間に矢が刺さっていた。


 俺に矢が刺さった瞬間、二本目の矢を二人目の警備員が人差し指と中指で挟んでキャッチし、反転。


 こちらへ投げ返してきた。


 二本目の矢が俺の額に命中する。


 嘘だろ!?


 なんだ、お前らの身体能力は……と、突っ込むのと同時に意識を失った。


 次に目が覚めると、朝となっていた。


「きゃぁああ! 泥棒!」


 という金切り声で、自分の状況を理解する。


 俺は、すぐさま起き上がると、人を押しのけつつ校外へ脱出。


 痺れが抜けていなかったが、なんとか捕まらずに逃げ切ることに成功した。


 侵入がバレたが、目出し帽をかぶっていたので、顔は見られずに済んだ。


 しかし、完全失敗なことに変わりはない。


 もはや、夜に侵入するのは不可能だ。


 テスト当日まで、金庫前は二人体制で警備されていると考えた方がよさそうだ。


 そうなると、仕掛けるのは学校が開いてから。始業時を狙うしかない。


 というわけで、一日挟んで翌日。


 麻痺毒をしっかりと抜いた俺は、早朝に学校内へ侵入し、身を潜めてやり過ごす。


 そして、全職員と生徒が出席する全校朝会のタイミングで、警備員の制服に着替えて金庫のある部屋に向かった。


 金庫前の警備は夜だけのはず。


 始業後は職員も出入りするため、警備体制が変化しているに違いない。


 そう思って、足早に廊下を進む。


 すると、前方から女子生徒がやって来た。


 目が合ったが、怪しんでいる気配はない。


 大丈夫だ、こちらの変装には気づいていない。


 向こうは、警備員に変装した俺に、「おはようございます」と挨拶し、通り過ぎようとした。


 俺も挨拶を返し、やり過ごす。


 しかし次の瞬間、首に痛みが走る。


 まるで虫に刺されたかのような鋭い痛みだった。


 それと同時に体に力が入らなくなり、歩けなくなる。


 そして、そのまま意識を失ってしまった。



 ◆九白真緒



「ふう」


 私は麻酔銃を仕舞い、廊下に倒れた偽警備員を見下ろした。


 まさか、こうもしつこく侵入してくるとは……。


 ある程度けん制すれば、諦めると思っていただけに驚きだ。


 泥棒の癖に、受けた仕事は完遂しようというプロ意識だけは高かったようだ。


 こちらとしては、警察に捕まって欲しくなかった。


 そこから、芋づる式に瀬荷城宝子まで辿り着かれるとまずいと思ったからだ。


 このことが原因で瀬荷城宝子が停学、もしくは退学や転校に追い込まれると、大事な時期に悪役令嬢ポジションのキャラがいなくなってしまう。


 現状を維持したかった私は、なるべく最小限の抵抗に抑え、けん制して近づかせないようにしたのだ。


 だけど、ガッツがある奴で中々諦めなかった。


 私は、うつぶせに倒れた泥棒を用意しておいた特大の布袋に詰め込む。


 そして、肩に担いで駐車場へと向かった。


 そこで待機していた後藤さんに、泥棒を手渡す。


 こういう時、レイちゃんが事情を知っているという状態は非常に助かる。


「それで、この中身はどうしますか?」


「私たちが関与していることを悟られたくないので、意識が回復する前に、どこかに捨てて来て下さい」


「承知いたしました」


 と、後藤さんは布袋を粗雑に車内へ放り込み、車を発進させた。


 あの泥棒は依頼を受けて行動している。


 依頼の期限が来れば活動を中止し、身を隠すはず。


 それまでは根競べとなるが仕方ない。


 また挑んで来るなら追い返すとしよう。


「さて、トイレに行ったふりにしては長居しすぎたかも」


 私は軽く伸びをした後、全校朝会へ戻った。


 ――その後、泥棒が侵入してくることはなかった。


 また、別の者が雇われて侵入してくることもなかった。


 多分、依頼が失敗したため、瀬荷城宝子が諦めたのだろう。




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