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◆九白真緒
私は寝室のベッドで、とあることに悩んでいた。
きっかけは、雪山で狙撃されたことだ。
私は今まで、脱獄犯襲撃イベントのために動いてきた。
できればイベントの発生自体を阻止したいが、今の所それは難しそうだ。
だが、その辺りは抜かりない。
監視体制を構築し、自前の警備を配置し、万全の防御態勢を整えてある。
しかし、これだけでいいのかと不安に思うようになってしまったのだ。
そう思ったきっかけが狙撃だ。
監視と警備の強化では、銃弾に対する物理的防御力は増強のしようがない。
一応、防弾装備を着用することである程度は防げる。
が、フルフェイスヘルメットでもしない限り、完全防弾は不可能。
脱獄犯襲撃イベントは前触れなく突発的に発生する。
そのような状況下で、即座に全身を防弾装備で包み込むのは難易度が高い。
私やレイちゃんであれば、霊装を纏うなり、霊気を放出すれば即座に物理防御力も高められる。
が、一般の生徒はそんなことできない。
襲撃犯の狙いが逸れたり、跳弾した場合を考えると不安が残る。
「防弾対策が必要な気がする……」
今更になって、強くそう思うようになった。
思い立ったが吉日、私は先生の下を訪れ相談。
自身はもちろんのこと、対象と認めた者全てが術の効果を得るようなものを作りたい、と術のイメージを話す。
二人で、あれやこれやとやって、術の骨子を完成させた。
後は微調整だけとなったので、うちの研修所でテストを行うことにした。
銃を使用する必要があるため、母に事情を説明して射撃場の使用許可を得る。
未だ免許を取得していないが、今回のような使い方なら問題ない。
この世界では妖怪がいるため、国内で銃の所持が認められている。
その関係で、前の世界より銃に対する法律が緩い。
車と同様に私有地での発砲ならギリOKなのだ。
なら、なんで子供のころは海外に行って撃っていたのかといえば、OKじゃない銃も撃っていたためだ。
ロケットランチャーとか、対物ライフルとか、ミニガンとか……。
まあ、国内で人に向かって麻酔銃を撃っておいて今更ではあるけど……。
それはさておき、早速防弾の術を使用した的に発砲してみる。すると、弾丸が跳ね返った。
狙った通りの効果だ。しかし、跳弾が危ない。
できれば、ふわっと着弾し、ぽろっと下に落ちるようにしたい。
そうすれば、偶発的な事故も防げる。
ここからは微調整だ。
何度も試行した結果、とうとう思い通りの術が完成した。
的に撃っても跳ね返らず、ぽろっと落ちる。的にダメージもなし。完璧である。
後は人体で実験するだけとなった。
というわけで、自分の手に撃ってみようと構える。
すると、そのタイミングで伊藤さんがたまたま射撃場に来て、こちらに駆け寄ってきた。
大慌ての様子で、危ないから止めろと言う。
そうは言っても、撃ってみないと肌感がつかめない。
ここからは、自分に撃って更に微調整をしたいのだ。
そう説明したのだが、伊藤さんが首を縦に振らない。
これは困ったな……。
◆九白圭
私は九白圭。
私には、可愛い娘がいる。
娘の真緒はすくすくと成長し、今や高校生となった。
真緒は中学生のころから実家を離れて生活しており、中々会えない。
それが、今日はたまたま研修施設に来ていると言う。
なんという偶然だろう。
お互い忙しいので最近はずっと会えていなかった。元気にしているだろうか。
久しぶりに娘の顔を見たかった私は、社員にどこにいるのか尋ねた。
場所を聞くと、射撃場にいるらしい。さて、何の練習をしているのだろう。
久しぶりに娘と会えると分かり、ご機嫌となった私は、射撃場の扉を勢いよく開けた。
――するとそこには、伊藤に向けて発砲する娘の姿があった。
うおぉい、なにやってるんだ!
私は、慌てて止めに入る。
しかし、伊藤が制止してきた。ど、どういうことだ。
なに? 自分が望んでやってもらっている、と。
ますますどういうことだ?
ふむ、防弾霊術の調整。自分を撃って試そうとしていたから志願した、と。
なるほど、それならいいか。
いや……、どうだろう。
防弾装備をしていない社員への発砲は、コンプラ的に大丈夫か?
しかし、実証実験をしないと精度を上げられないという説明も納得できる。
私は、許可を出すべきか悩んだ。
と、その時、隣室から派手な発砲音が聞こえてくる。やたらめったら撃ちまくってる音だ。
何? 隣で弓子が同じことをやっているだと。
それは大丈夫なのか?
気になった私は、隣室へ向かった。
――するとそこでは、横一列に並ばせた部下に機関銃を乱射する妻の姿があった。
その光景を目にした私の頭の中に様々な言葉が浮かび上がる。
社内暴力、可愛がり、パワハラ、職権乱用、隠蔽、炎上……。
「コンプラー!」
私は叫びながら止めに入った。
「社長、この術すごいですよ!」
しかし、実験台となっていた部下たちが、嬉しそうな顔でそんなことを言う。
悲愴感はゼロ。心の底から楽しそうにしていた。
「これは革命的だぞ」
と、妻も太鼓判を押す。
え、そんなにすごいの?
じゃあ、私にも試してくれないか。
実際に体験してみたくなった私は、そう言った。
すると、なぜか弓子がショットガンを持ちだした。
待ってほしい。一体それをどうするつもりなんだ。
なに、これが一番体感できるからだって?
そ、そうなのか。じゃあ、お願いします。
結果、術の凄さをその身で味わうこととなった。
至近距離からショットガンで撃たれても、そっと手で押さえられたかのような感覚しかしなかったのだ。
なんだ、この術は。今までの防弾装備では、味わったことのない感覚だ。
ほとんどの威力が相殺され、体に衝撃が伝わってこないぞ。
す、凄すぎる。
ただし、土属性以外の術者が使用するには、相当霊核を大きくしないと難しいそうだ。
しかし、それに見合う価値はある。
部下たちの霊核の大きさなら、現段階でも問題ない。
これは全員の習得が必須だな。
私は弓子と相談し、全社員が習得できるように勤務計画の調整を行う事にした。
◆九白真緒
スキー旅行が終了した今、そろそろ次に介入を予定しているイベントが発生する。
ちなみに次に起きるイベントは、テスト原稿盗難疑惑事件である。
概要は、こんな感じだ――。
突然、ヒロインの成績が良いのは、テスト用紙を事前に盗んで情報を得ていたからという疑惑が浮上する。
なぜ、そんな噂が広まったのか。当然、悪役令嬢の仕込みによるものである。
悪役令嬢が人を雇い、テスト前にテスト用紙を盗み出し、記録。
それを、あたかもヒロインが行ったかのように偽装する。
捏造された証拠が挙がり、追い詰められるヒロイン。しかし、ヒーローの推理により逆転。
悪役令嬢が噂を広めた事実が明るみに出て、反対に追い詰められるという展開である。
――このイベントは発生自体を阻止する。
その理由は、前回にもあったニセ恋人騒動と同じものだ。
マンガでは、イベント終了後に全てがリセットされ、何事もなかったかのように話が進んでいく。
しかし、実際にそんな事件が起きれば、そうはならない。
噂は尾を引き、疑惑が解消されたことを知らない人物たちの間でくすぶり続ける。
そんな状態になれば、日高さんの学校生活に支障が出てしまう。
特に、綾小路君の実家への心証が悪くなる。
日高さんのことを大して知らない状態では、そんな噂を持つ女の子を息子の身近に置きたいとは思わないだろう。
だから、未然に防ぐ。
イベントが起きなければ、噂が広まることもない。
今回に関しては、それがベストだと判断した。
ただし、ここで問題になってくるのは、悪役令嬢が人を雇って盗みを働くという点である。
多分、瀬荷城宝子が、この計画を実行するのだろう。
その行為自体を未然に防ぐことは難しい。
つまり、盗っ人が現れること自体は防げない。
その泥棒をどうするか、という話になってくる。
捕まえて警察に突き出せば、関与した瀬荷城宝子もただでは済まない。
しかし、今の段階で悪役令嬢ポジションのキャラクターを退場させるわけにはいかない。
それでは、これから先の展開が分からなくなってしまう。
むしろここから先が本番なのに、それでは困るのだ。
もしかすると新しい悪役令嬢ポジションの人物が現れるのかもしれない。
しかし、そんな定かではないものを当てにするわけにはいかない。
申し訳ないが、私にとってはテスト用紙を盗んだ泥棒が捕まることより、この先の展開が予測可能な状態を維持する方が重要なのだ。
というわけで、泥棒は捕まえずに追い払う方向で行動しようと思う。
本作を、ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
お楽しみいただけたなら、幸いです
そして、誤字、脱字報告ありがとうございます!
さて、本作も残すところあと僅かとなってまいりました
それに伴い、ラストを週末に合わせるための調整を行います
そのため明日以降の更新において、一話更新の日が複数発生します
一日一話更新か一日複数更新で調整するか迷ったのですが、今回は一話更新でいくことに決めました
というのも、一月から二月の約二か月の更新で60万字
三月も二話更新を続けたので、かなりの文字数となってしまいました
投稿序盤は、ある程度のボリュームを確保した方が楽しんでいただけるだろうという判断でしたが、ここまでくると、新規の方が身構える分量に到達してしまった気がします
というわけで、今更な気もしますが、少しペースダウンをはかります
今の更新ペースが丁度いいと感じていただいている方には、申し訳ないのですがご理解いただけますと幸いです
完結は四月十八日となります
すべて予約投稿済みなので、ここから先の更新が途切れることはありません
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