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◆雪沢智仁
僕は雪沢智仁。
煌爛学園高等部の一年だ。
僕には夜月澄香さんという同い年の婚約者がいる。
――今日は彼女と二人で外に遊びに行くことになった。
勉強ばかりだと息が詰まるし、たまには息抜きが必要ということで意見が一致したのだ。
とはいえ、少し前にスキー旅行に誘った際は、全力で断られた。
そのため、今回も断られるかもしれないと考え、誘った時はかなり緊張した。
だけど今回は、非常に乗り気で快諾してくれた。
……この差は一体なんだろう。
もしかしてスキーが苦手だったのだろうか、と思って理由を尋ねた。
すると全く違う理由が返ってきた。
曰く、九白さんと雲上院さんの邪魔をしたくなかったから断ったらしい。
今回は僕と澄香さんの二人だから問題ないとのことだった……。
な、なるほど。
次から誘う時は、そういったことを考慮すればいいわけだ。
うん、その辺りを深く考えるのはよそう。受け入れればいいだけだ。
切り替えていこう。
というわけでアスレチック系の施設に来た。
建物は巨大な体育館が何棟か接続されたような形になっており、屋内で体を動かす様々なアトラクションが遊べるようになっている。
以前なら、外に遊びに行くとなれば、カフェや美術館、映画館が多かった。
この手の身体を動かす施設には初めて来る。
僕たちは早速動きやすい恰好に着替え、アスレチックを楽しむことにした。
アスレチックはテレビ番組でよく見る課題クリアで先に進んでいくような配置になっていた。
彼女がワクワクして先に行くので、その後を僕が追う形でアスレチックを進めていく。
って、おかしい!?
彼女が凄まじい速度で動いている。
失敗はなし。クリア速度は異常。
アスレチックを一つ終えるたびに、体の動かし方について分析しているため、進行速度自体はそれほどでもない。
むしろ納得いかない時は、再挑戦して体の動きを見直して最適化を図ったりしている。
非常にストイックだ。
遊びに来たって雰囲気じゃない。
顔が真剣過ぎる……。
そんな一幕がありつつも、コース巡りは終了。
最後に訪れたのは、ボルダリングのコーナーだった。
そこでも彼女の能力がいかんなく発揮されることとなる。
どっかぶりの壁を凄まじい速さで上下往復を繰り返し始めたのだ。
さすがにあれは真似できない。
強靭な体幹、高い握力、洗練されたバランス感覚など、さまざまな能力が総合的に高くないとできない芸当だ。
見守っていたインストラクターの人も驚いている。
僕が凄いと褒めると、雲上院さんと九白さんはこんなものじゃないと言う。
彼女たちなら、足を使わずに同じことが出来ると言うのだ。
と、そこで澄香さんは、「いや、マオお姉様なら、どっかぶりやルーフを片手でできるかも……」と真剣な顔で訂正した。
えぇ……?
ボルダリングウォールを片手で高速上下往復とか……。絵面が全く想像できないんだけど。
そう思って、「それはさすがに……」と言いかけると、澄香さんがこちらを遮るようにして言った。
「ええ。それはさすがに過小評価が過ぎるというもの。マオお姉様であれば小指一本で問題ないでしょう」
と、断言してしまった。
澄香さんの九白さんに対する信頼が分厚過ぎる。
本当に小指一本でボルダリングしたら、重力を無視した奇抜な作画の自主制作アニメみたいな動きになっちゃうと思うんだけど……。
それにしても――、あの二人は一体どこを目指しているんだ……。
澄香さんは、そんな二人に近づきたいと言う。
憧れの人だから、と。
そ、そうなんだ……。
少し前に霊薬も飲み終え、今は霊術の訓練をするのが楽しくて仕方ないらしい。
て……、えぇ!? 霊術まで使えるようになったの?
聞けば、サロンメンバーのほとんどが霊薬を飲んだらしい。
そ、それは驚きだ。
参ったな……。
アキラや七海ちゃんも霊術を使えるし、自分だけ使えないと疎外感を覚えてしまう。
僕は思い切って澄香さんに相談してみた。
自分もサロンに参加させてもらえないだろうか、と。
僕も彼女も、雲上院さんがサロンを開いた経緯は知っている。
原因と発端はアキラの誕生日会だ。
アキラを慕う女子が増えて、収拾がつかなくなってしまったんだよね……。
その状況を改善しようと、雲上院さんが一肌脱いでくれたのが始まりだ。
新たな出会いの場としてサロンを開いてくれたのである。
そう言った経緯があるため、アキラに近い位置にいる僕が参加すると混乱を招くかもしれない。
そのため、確認してみないと分からないと言う答えが返ってきた。
――後日、確認の結果が知らされた。
なんと、あっさり参加の許可が下りた。
なんでも、今では参加メンバーも落ち着き、サロン運営も安定しているので、大きな混乱には発展しないだろうから問題ないとのことだった。
その際に、アキラも条件付きでの参加が認められた。
その内容は、サロンのメインである交流の場は参加不可。
霊術の修業のみ参加可能というものだった。
まあ、これは仕方ない。
周囲への混乱を最小限に抑えるためにも必要な対応だと思う。
運営側からすれば、トラブル回避のためにも全て参加不可にしておきたいはず。
それを曲げて部分的に許可してくれたのは、僕が孤立しないように向こうが気を使ってくれたのだろう。
だけど、アキラは参加しないだろう。
サロンが開かれるようになった経緯も知っているし、迷惑になると考えるはずだ。
僕が強引に連れてこようとしても、きっと断ると思う。
――というわけで、雲上院家のサロンへは僕一人で参加させてもらうことにした。
といっても、メインの場には参加しないつもりだ。
澄香さんはサロンで友人たちと過ごしたいだろうし、お邪魔になるからね。
僕の目的は、あくまでもトレーニングだ。
これで僕も体を鍛えることが出来る。
とりあえず、何も知らないアキラをあっと言わせる位には鍛えたいところだね。




