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 今は日高さんの方を優先すべきだろう。




 そう判断した私は元居た場所へ戻ると、日高さんを介抱しているレイちゃんと合流した。


「この方、不幸の星の下に生まれたのでしょうか。いくらなんでもトラブルに巻き込まれる回数が尋常ではありませんわ」


 レイちゃんが不憫そうな顔で、日高さんの顔を覗き込んでいた。


「一時的に運勢が悪いのかもね。それこそ、綾小路君と結ばれたら、運気も上昇するかも」


「まあ! 日高さんにとって、綾小路君は幸運の星というわけですね」


 私の言葉にレイちゃんが、ぱっと顔を綻ばせる。


 マンガのラストでは、ヒロインとヒーローが結ばれ、あらゆる障害が綺麗さっぱり無くなるハッピーエンドではあった。


 そういう意味では、ヒーローはヒロインにとっての幸運の星に違いない。


 ――まあ、その後、新連載でバトル編に突入してたみたいだけど……。


「ま、冗談はさておき、これからどうしよっか。背負って下山する?」


「彼女の不幸具合を考えると、また今回の様に近づくことがある気がします。綾小路君たちと直接会って引き渡すと、後で面倒になりそうですね……」


 レイちゃんの懸念はもっともなものだった。


 実際、彼女のイベントは、これからもしばらく続く。


 こちらが動きやすい状況を保持しておきたいなら、顔を知られないように行動するのは、有効な対策だ。


「顔見知りになっちゃうと、近くで護衛するのに支障が出るか……。今なら、日高さんも意識を失っていて、私たちを見ていない。気づかれないようにするなら、ここまで人を誘導するしかないね」


「それでいきましょう」


 というわけで、レイちゃんの霊術で再度雪雲を払ってもらう。


 これで、日没まで降雪に見舞われることはないだろう。


 次に帽子を発見した場所まで戻り、わざとらしいくらいに足跡を復元。


 さらに、日高さんの側で狼煙を上げた。


 ばっちりお膳立てした後は、物陰に隠れて捜索隊をアシストする準備に入る。


「レイちゃん、小さい探査霊体を出して、辺りを探ってくれる?」


「かしこまりましたわ」


 私の頼みを聞き、レイちゃんが金魚サイズの探査霊体で周囲を調べてくれる。


 すると、ほどなくして捜索隊を発見する。


 私は気配を消して接近。そして、捜索隊に聞こえるような物音を出して、誘導を開始。


 といった感じで地道なアシストを重ねた結果、狼煙に気づいてくれる。


 そして、捜索隊が倒れている日高さんを発見。


 無事に救助される運びとなった。



 ◆日高千夏



 冬休みに入り、綾小路君に誘われてスキー旅行に来た。


 私は、スキーの経験がなかった。


 綾小路君は、自分が教えるからと言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。


 そして、実際にスキーを教わり、一人で滑れるようになった。


 綾小路君は勉強が得意だが、教えるのもうまいのだ。


 私は滑れることが楽しくて、夢中でスキーを楽しんだ。


 あと少し上手くなれば、綾小路君たちと同じコースを滑れるようになる。


 綾小路君は私に合わせて優しいコースを一緒に滑ってくれているけど、物足りなさそうにしていた。


 だから、綾小路君たちには自分の滑りたいコースに行ってもらい、私はそこに追いつくための練習を行っていた。


 結果、かなり上達した。だけど、疲れた。


 少し休憩しようと、コースから外れた場所まで移動して座り込んだ。


 その時、雪崩が起きた。


 疲れていた私は、咄嗟に動くことが出来ず、雪の波に飲み込まれてしまった。


 雪に揉まれながら必死に手を動かす。


 すると、何かを掴むことが出来た。


 だけど、雪の勢いが強すぎて、すぐに離してしまう。


 そんなことを繰り返しているうちに、雪崩は止まった。


 必死にもがいて、雪からはい出す。


 すると、上方に自分が休憩していた場所が見えた。


 どうやら、雪崩は小規模なものだったようだ。


 体感では何分にも感じられたが、実際には数秒の出来事だったのだ。


 だけど、意識が朦朧とする。


 物凄い疲労感だ。スキーで疲れた上に、雪崩の中でもがいたのが相当堪えたのだろう。


 私は強烈な眠気に似た疲労感を感じつつ、なんとかコースに戻ろうと歩き出す。


 途中、帽子が落ちたが、拾う気力すらなかった。


 そして、ほんの少し進んだだけで、前方に倒れこんでしまう。


 地面に雪が積もっていたから怪我はなかったが、全く体が反応できなかった。


 こんなところで意識を失ったら危ない。


 私はなんとか眠らないように抵抗する。


 睡眠と覚醒の中間ぐらいの意識状態のまま、時間だけが過ぎていく。


 そして時間が経つにつれ、意識が遠のいてきた。


 そんな時、人が近づく気配を感じた。


 何か会話しているようだが、今の意識状態では何を言っているのか分からない。


 その人たちは、私の体の向きを変え、苦しくなく呼吸が出来る姿勢にしてくれた。


 その時、相手の顔が見える。


 だけど、深々と帽子をかぶり、顔はゴーグル、口元はマフラーで見えない。


 じっと見つめると、ゴーグル越しに薄っすらと両目が見えた。


 こちらを気遣うような視線が印象的だった。


 ――そこで意識が途絶えてしまう。


 気が付いた時には、ホテルの部屋で寝ていた。


 側には心配そうな顔の綾小路君がいた。


 私が目を覚ましたことに気が付くと、お医者さんを呼びに行ってしまう。


 その後、お医者さんから話を聞いて、片足をケガしていたことが分かった。


 道理で歩きづらかったわけだ。


 一応、応急処置が行われたが、明日は病院で検査らしい。


 でも、足の怪我だけで済んでよかった。


 それもこれも、あの人たちが助けてくれたお陰だ。


 そう思って、綾小路君にそのことを話したが、首を傾げられてしまう。


 捜索隊の事を言っているのか? という質問に、私はそうだと答えた。


 しかし、綾小路君が言うには捜索隊は十人規模で、二人一組では行動していないという。


 でも、私が見たのは二人組だった。


 視界が開けた場所だったので、他の人を見落としたということはない。


 そう話したのだが、意識が朦朧としていたから、見間違えたんじゃないのかと言われてしまう。


 そう言われると実際その通りだったので、反論のしようがない。


 じゃあ、あの人たちは捜索隊の人たちだったのかな?


 綾小路君が、狼煙を炊いたのは良かったぞ、と褒めてくれる。


 だけど私には身に覚えがなかった。


 無意識にやったんじゃないのか、と言われたが、そんなわけがない。


 そもそも私は火を付けられるものを何も持っていなかった。


 どうやっても狼煙を上げられる状況ではなかったのだ。


 そこでピンとくる。


 やっぱりあそこには誰かが居たんだ。


 それは二人組で、雪の中から私を助け出してくれて、狼煙で合図を送ってくれた。


 そうに違いない。


 でも、それならそれで疑問が残る。


 なぜ、そんな遠回りなことをしたんだろう。普通に、捜索隊を呼んだ方が簡単だし、確実だ。


 何か、他の人に見られるとまずい理由でもあったのだろうか?


 そんな周囲に悟られないようにしている状況が、学校で私を助けてくれた人の行動を想起させる。


 だけど、ここは北海道。


 さすがに学校で助けてくれた人が妖精でもないかぎり、こんな場所にまで来てくれるはずがない。


 不思議な体験をしたせいで、無意識に身近なことと関連付けて考えてしまったようだ。


 ――誰だか知らないけど、ありがとう。


 私は、そう心の中で感謝した。




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